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バイオものづくりとは?

バイオものづくりとは?

2023/04/12

#話題の〇〇を解説

バイオものづくり

とは?

科学の目でみる、
社会が注目する本当の理由

  • #エネルギー環境制約対応
30秒で解説すると・・・

バイオものづくりとは?

バイオものづくりとは、生物由来の素材を用いてものづくりを行うこと、さらには微生物などの生物の能力を活用して有用化合物などを作り出すことをいいます。化石燃料を原料としないで物質の生産を行うことができることから、カーボンニュートラル実現のキーテクノロジーとして大きな期待が寄せられています。
人類は古来より発酵食品を例として、微生物の力を利用したものづくりを行ってきました。いま注目されている「バイオものづくり」の特徴として、微生物の本来もっている能力のみで行うのではなく、遺伝子工学やゲノム編集などの技術を用いて、人間が必要とする物質の生産のために微生物などの能力をデザインしていることがあげられます。現在の化成品を置き換える発想ではなく、生物由来だからこその強みをいかしたものづくり方法の確立が急がれています。

「バイオものづくり」は、多様なバイオ技術を使って、建築資材や樹脂材料、産業用酵素、医薬品、食品、新品種の農産物などさまざまな製品を生み出す、ものづくり領域を指す総称です。また、広く見れば、廃棄物処理や排水処理やリサイクルへの活用も、「バイオものづくり」といえます。従来から、微生物を代表とする生物の力を借りたものづくりは行われてきましたが、世界的規模でカーボンニュートラルへの取組みが加速しているなか、CO2を出さない新たな生産方法として、バイオものづくりが大きな役割を担いつつあります。期待されているバイオものづくりの現状や技術的課題について解説します。

Contents

バイオものづくりに期待されていること

 世界全体がカーボンニュートラル社会を実現しようと動いており、石油資源を使わない製造方法が各国で検討されています。例えば、石油化学製品の代表例であるプラスチックは、作るところから燃やして捨てるところまでCO2を排出してしまっている現状があります。このような状況のなかで、CO2排出量が少ない「バイオものづくり」が注目されているのです。

 特に欧州は規制が厳しく、バイオものづくりを取り入れなければ製品を輸出することが困難にもなりつつあり、企業活動に直結する重要な事項になっています。さらに、SDGsに象徴されるように、持続可能性は産業の必須条件となりました。アメリカは2050年までに製造業の30 %をバイオ系産業にする目標を掲げており、日本はその後を猛追しようと、バイオ系産業の育成に力を入れ始めています。

バイオものづくりとは?

 バイオものづくりには、大きく二つの種類があると考えています。一つはバイオマス由来の製品、つまり生物本体を資源や素材として使うことです。トウモロコシ、サトウキビを糖化させて作るバイオエタノールや、植物や微生物から得た繊維状物質であるセルロースナノファイバー(CNF)がこれにあたります。

 もう一つは、微生物や植物、あるいは動物に製品を作ってもらうタイプのものづくりです。日本酒、味噌、醤油といった伝統的な発酵技術を用いた食品製造がイメージしやすいかもしれません。具体例としては、インフルエンザワクチンを鶏卵で生産する、生体内のタンパク質を利用した「抗体医薬」を酵母細胞やヒト細胞を用いて生産するといった医薬品製造があげられます。もう少し広く見ると、微生物による廃液の処理もバイオものづくりにあたり、微生物に目的物を生産してもらっています。この他にも、機能性食品開発のためのゲノム編集や品種改良も、大きな捉え方ではバイオものづくりといえるでしょう。

 このように、バイオものづくりはとても広い概念を指しますが、大事なことは、生産にあたって「高付加価値」をもたせることです。これまでは、バイオによって生み出される付加価値が、コストの面を踏まえても重要視しやすい分野でバイオものづくりが行われてきました。医薬品などがその例です。しかし、カーボンニュートラル達成にむけた国際的な流れもあり、バイオものづくりをもっと活用する方法を見つけていかなければなりません。その一つとして、化学プロセスと生物プロセスのいいとこ取りができないか、という発想での取組みが強く求められています。

バイオものづくりの課題

 バイオものづくりの最大の課題は、シンプルに「コストが高い」ことです。微生物の反応が化学的な手法と比べて長い時間を要することや、製造に成功するまで技術的に困難なことが多いため、コストが高くなりがちです。

 さらに、エタノールやメタノール、ベンゼンなど石油由来で安価に大量生産している製品をバイオ技術による生産手法で代替するのは、コストやサプライチェーンの点から極めて困難です。可能なものを見極めて大量生産も検討していくべき課題ではありますが、まずは、少量で高付加価値なものや複雑な物質構造を持つものなどで、欧州の規制への対応が急務な化合物から取りかかる必要があります。バイオものづくりに取り組もうとする企業は増えていますが、こうした実情はまだあまり知られていないようです。

バイオ技術の特性を生かすための取り組み

 バイオものづくり最大の課題であるコストの削減を行うため、化学プロセスと組み合わせることは今後力を入れて取り組む分野です。現在でも、パルプ工場におけるパルプ分解処理において、パルプを直接微生物に分解させるのではなく、化学プロセスに必要となる酵素を微生物に作ってもらい、分解処理そのものは化学プロセスで行うという例があります。化学プロセスを使えば一晩で処理できるものが、微生物処理の場合数日かかることも珍しいことではありません。また、出来上がったものも「化学は早くて濃い、バイオは遅くて薄い」といわれることもあります。一方で、酵素は高圧も高温も必要としない触媒であるといえるので、処理プロセスでのエネルギー投入を少なくすることができます。それぞれに得意な反応があるので、製造のスピードアップや効率化、コストダウンをめざして、最適な組み合わせを考えていくことが求められています。

 また、情報技術を活用することで、生物機能を最大限に引き出せる、よりデザインされたバイオものづくりが可能になっています。「スマートセル」とよばれる物質生産能力を強化した細胞をつかった物質生産方法がそのひとつです。このスマートセルの機能をデザインするために必要な遺伝子設計を、膨大な量の生物情報を処理し、最適化し、シミュレーションを行うなどして実際の作成プロセスを大幅に効率化しています。先にふれたように、今あるサプライチェーンをすぐに切り替えることは難しいですが、スマートセルを物質生産工場のように機能させることで、新しい物質生産については産業化は可能なはずです。

 産総研では活用できる可能性のある微生物資源を大量に持っているので、そのライブラリーの中からほしい微生物をいつでも見つけられます。バイオものづくりの基本となる酵素群もさらに増やしていく予定です。

バイオものづくりを産業化させるために

 バイオものづくりへの期待は急速に高まっています。産総研では「バイオものづくり拠点」を設立し、基盤となる技術のみならず産業化を行うための課題など、総合的な課題の解決に取り組んでいく予定です。

 新しい拠点での取り組みとしては、これまではバイオものづくりを活かそうと思われなかった分野で物質生産を行うことを検討してます。社会からのニーズが高く、使ってもらえるものを作っていけることが理想です。

 遺伝子設計からゲノム編集等を用いた細胞作成、さらには量産化のプロセス開発まで一気通貫にやっている組織は、日本では初めてになると思います。バイオ技術を用いたものづくりを検討している企業を巻き込み、一緒に開発していくところと競争領域を共存させた開発環境を提供していきます。

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