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スマート畜産とは?

スマート畜産とは?

2024/03/13

#話題の〇〇を解説

スマート畜産

とは?

―「スマート畜産」が日本の畜産業を変える!―

科学の目でみる、
社会が注目する本当の理由

  • #エネルギー環境制約対応
  • #国土強靭化・防災
30秒で解説すると・・・

スマート畜産とは?

スマート畜産とは、センシング技術やICT(情報通信技術)、ロボットなどを活用して、生産性の向上や作業負担の軽減を図る、新たな畜産システムのことです。作業や畜舎管理の自動化だけでなく、動物や畜舎に取り付けたセンサーからデータを取得し、AIなどによりデータをリアルタイムで分析することで、遠隔地からでも動物の行動や健康状態を把握することが可能になります。こうしたスマート畜産の技術は、日本の畜産業が抱えるさまざまな問題の解決につながるとして期待されています。

日本の畜産業は、経営者の高齢化や後継者不足、慢性的な人手不足による作業負担の増大に加え、燃料価格や飼料価格の高騰による採算の悪化など、さまざまな経営課題を抱え、多くの畜産農家が離脱するなど、近年は持続的経営の維持が困難な状況にあります。スマート畜産は、こうした課題を科学・技術により、改善し解決する手段として畜産現場への導入が進められています。スマート畜産の具体的な技術やこれからの展望について、センシングシステム研究センターの福田隆史総括研究主幹に聞きました。

Contents

スマート畜産―技術内容とその効果

 現在、日本の畜産農家は、高齢化や後継者不足により、経営離脱が進んでいます。畜産農家の戸数が減少する一方で、1戸当たりが飼養する家畜の数は増加しています。厳しい労働環境から、慢性的な人手不足が続いた結果、労働時間はさらに長くなり肉体的な負担も一層大きくなっています。また、日本では中小規模の畜産農家が多く、生産性を上げるため、狭い所に多くの家畜を収容することになり、過密飼育を余儀なくされる状況に陥りやすいという事情があります。それによって、排泄物の処理や臭いという衛生問題やアニマルウェルフェア(動物福祉)の低下も問題となります。これらの課題の解決策として、科学技術を活用したスマート畜産による生産性の向上や作業の省力化、衛生上の問題への対応などが注目されています。

 家畜に対しては、畜舎や個体に設置したセンサーから得られたデータを機械学習などで分析し、飼育環境の最適化や個体の健康管理につなげることで、家畜の肥育効率向上、肉や生乳の品質の向上を図ります。

 作業者の労働環境においては、自動運転ロボットの導入により、餌やりや搾乳、糞尿処理などのさまざまな作業にかかる負担を軽減することができます。

 畜舎の温度や湿度、照明などの飼育環境を常に最適な状態に自動制御することで、環境負荷を低減するほか、家畜糞尿を肥料に再利用するシステムの導入により資源循環が可能になり、環境に配慮した持続可能な畜産を実現することも期待されています。

 また、経営面では流通量や需給動向などのデータを分析し、作業計画の作成や進行管理に反映することで、最適な経営判断につなげることができます。

  技術の例 導入のメリット
生体情報センシング ・個体装着型センサーによる肥育度合いや発情行動の検知
・カメラとAIによる家畜の行動検知
・営農家の作業負担軽減と生育・繁殖効率向上
畜舎の高度な管理・監視 ・家畜感染症を防ぐ空調システム
・概日リズムを制御する照明
・家畜の生育促進と快適性向上、営農家の作業負担軽減
作業の自動化 ・搾乳・餌やり・給水の自動ロボット
・洗浄・糞尿処理ロボット
・営農家の作業負担の大幅軽減
経営支援 ・流通量や需給動向のデータ分析
・作業計画作成・進行管理の支援
・営農家の収益性・効率性向上、新規参入障壁の低減
スマート畜産の技術の例と導入のメリット

畜産現場で活用されている技術

 実際の畜産の現場でどのような技術が使われるのか見てみましょう。

 畜舎では、センシング技術により温度や湿度、照明などを自動制御し、家畜にとってストレスのかからない快適な飼育環境を維持しています。また、畜舎に設置したカメラ画像を AI(人工知能)で処理することで、家畜の行動を自動でモニタリングし、発情行動を検知して、繁殖のタイミングを逃さないようにするシステムも開発されています。

 給餌や給水は、飼料の積み込みから運搬、給餌までを自動で行う自動給餌器や、餌よせロボット、自動給水システムの導入が進んでいます。全日本畜産経営者協会によれば、食料給与・給水技術の導入率は鶏ではほぼ100%、牛で60%前後、豚で20%強とされています。この技術により、作業の負担が軽減されるだけでなく、少量の餌を複数回に分けて与えることで、新鮮な餌やりが可能になり、家畜の健康管理や肥育にもメリットが得られます。

 搾乳については、牛の誘導から搾乳装置の装着、搾乳作業までを自動で行う自動搾乳システムなどが実用化されています。酪農家にとって搾乳は最も重要な仕事であり、時間のかかる作業です。これが自動化されることで、労力の負担が大幅に軽減されます(45%省力化)。

 糞や尿の処理は、畜舎に敷くワラなどの敷料搬入から、糞尿の搬出、畜舎の床の清掃までを自動化するシステムが実用化され、15%の省力化が可能です。しかし、家畜を移動させるシステムやスクレーパー(かき出し機)が設置されていない場合は、手動による操作が一部必要になるなど、完全自動化には至っていないことが多いのが現状です。

産総研が開発している技術

 産総研では、センシング技術やAIなどを活用した、さまざまなスマート畜産技術を開発しています。産総研が開発した技術の1つには、従来のスマート畜産の技術的アプローチにはあまり含められてこなかった「家畜の感染症の被害拡大を食い止めるためのウイルスセンシング技術と空気清浄化技術」があります。従来は、個体ごとに感染しているかどうかを診断していましたが、新しい技術では、畜舎内外の空間にウイルスが浮遊しているかどうかを調べることで、感染が広がる前にウイルスの伝播リスクを知ることができ、すでに畜産現場での検証を進めています。また、畜舎内の空気を清浄化し、ウイルスの不活性化も併せて行うことができる大風量空気清浄技術の開発も推進しています。(産総研マガジン「畜産現場で空気中のウイルスを検出し、伝播リスクを見える化」)

 上記のほかにも、センシング技術を活用した例として、家畜の繁殖や肥育の効率化を図る個体管理システムや、簡易な血液検査により肉質管理や最適な出荷時期を判定する技術、家畜の消化器疾患を早期に検知するためのセンシング技術なども開発しています。また、牛の肉質を生きたまま計測できるNMR(核磁気共鳴)装置の開発なども行っています。

社会実装に向けた課題と展望

 スマート畜産の導入は、多くの経営上の課題が改善、解決されるというメリットがある一方で、初期投資のコストが大きいことや、運用するためにITや各種技術に関するリテラシーが求められることが導入の障壁となっています。また、畜産農家ごとに立地条件や経営規模が異なるため、技術を導入するためには各農家に応じた個別の対応が必要であり、メンテナンスやサービスにもコストがかかる場合があります。このように、画一的ですべての課題に対応できるシステムの導入は難しく、投資回収プランが立てにくいため、スマート畜産の社会実装はなかなか進んでいない現状があります。

 こうした問題をクリアするためには、畜産農家の方々から具体的なニーズを提示していただくことを大切にしたいと考えています。例えば「この問題を解決したいから、こういうものがほしい」という声を集約して、開発者やメーカーもその要望に対応できる技術やサービスをより低コストで提案するための努力を重ねてゆく必要があると考えています。お互いに課題と目的を共有して相互理解が進めば、解決策や適切なシステムの導入への道筋をスピーディに開いていけると考えています。

 そのために産総研では、技術開発だけでなく、畜産業に携わる人たちのスマート畜産への関心を高め、技術の導入に興味を持ってもらうために、技術をわかりやすく紹介して普及につなげる地道な活動も行っています。それと同時に、スマート畜産の技術を導入したモデルケースの実例を積み重ね、事例を目の当たりにしていただくことで、畜産農家からの信頼を高めていくことも重要だと考えています。

 また、家畜感染症の予防やまん延防止(防疫)に向けたスマート畜産の導入については、畜産農家だけでなく、監督官庁や行政機関のほか、保険制度などに関わる団体、企業との協議や連携も欠かせません。助成金などのインセンティブを与えて、スマート畜産の導入を加速するための政策の検討も必要でしょう。

 スマート畜産の社会実装はまだ始まったばかりです。今後、導入が進んでいけば、生産性の向上や省力化、畜産農家の経営課題解決に貢献できでるしょう。それだけでなく、資源循環が促進され動物にも環境にもやさしく、消費者に対しても安心で高品質な畜産物を提供できる、持続可能な畜産システムへと進化することが期待されます。新たな畜産システムの実現に向けて、技術開発や現場での検証を積み重ねるとともに、スマート畜産の技術を広く知っていただくための活動にも取り組んでいきます。

図
近未来にスマート畜産が実現した畜産現場のイメージ図(生成AIで描画)

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