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バイオものづくり拠点で国内産業の国際競争力向上を強力にサポート

バイオものづくり拠点で国内産業の国際競争力向上を強力にサポート

Collaboration

バイオものづくり拠点で 国内産業の国際競争力向上を強力にサポート

研究者3人の写真

    2025年3月7日掲載
    文 Michi Sugawara, 編集 Akio Takashiro, 写真 Takao Ota

    世界各国がバイオエコノミー実現を目指す国家戦略を推進するなか、我が国においても2025年3月に国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下、産総研)つくばセンターにバイオものづくり拠点が新設される。
    産総研 生命工学領域長 田村具博、生物プロセス研究部門長 油谷幸代、同部門 総括研究主幹 酒瀬川信一の3名が、国家戦略としてバイオものづくりが重視される理由を解説する。

    Forbes JAPAN BrandVoice(広告企画) 2025年 1月 14日掲載記事より転載

    Contents

     

     2025年3月、産総研のつくばセンターに、物質生産微生物構築技術と微生物資源の探索・活用を活かした国内最大のプラットフォームとして「バイオものづくり拠点」が設立される。この背景には、バイオエコノミー社会の実現に向けた世界的潮流がある。

     「バイオものづくり」とは、化成品や化石資源由来の石化品など化学合成で生産しているものを微生物や植物の力を活用したバイオ由来製品に代替する産業構造改革であり、バイオトランスフォーメーション(BX)を実現するために重要な技術革新と考えられている。

     バイオものづくりには化成品や石化品のバイオ転換だけでなく、化学プロセスの一部を微生物を利用して代替するなど、バイオエコノミーに貢献するものづくり全般が含まれる。昨今では、生物由来の有機性資源である「バイオマス」や微生物や植物の物質生産機能を改変した「スマートセル」といった言葉も頻繁に耳にするようになった。

     経済協力開発機構(OECD)が発行するレポートでは、2030年の世界におけるバイオエコノミー市場は約200兆円にまで成長するとされている。バイオものづくりはプラスチックや化学繊維、合成ゴムといった化成品産業だけでなく、エネルギー産業、そして食品産業や医薬品産業での展開も期待され、21年に合成生物学分野のスタートアップへの投資額合計は世界全体で180億ドルにまで上った。

     日本政府も20年に『2050年までに温室効果ガスの排出をゼロにする』といったカーボンニュートラルに向けた宣言を発するなど、サステナブル社会やカーボンニュートラルを志向するグローバル・トレンドも相まって、バイオエコノミーに高い注目が集まっている。バイオものづくりをめぐる世界情勢について、産総研の生命工学領域長・田村具博は次のように説明する。

     「アメリカやヨーロッパでは12年にバイオエコノミーに関する戦略を打ち出し、中国も16年の国家イノベーション駆動発展戦略綱要内でバイオテクノロジーを重点分野として言及したように、バイオエコノミー社会の実現に向けて現在、各国がバイオ国家戦略を推進しています。日本では19年に『2030年に世界最先端のバイオエコノミー社会の実現』を目標に掲げて、本格的なバイオ戦略に着手。24年には内閣府がバイオエコノミー戦略を改定し、その一丁目一番地としてバイオものづくりを挙げています」

    インタビューに答える田村具博生命工学領域長
    田村具博 産業技術総合研究所 生命工学領域長

     これまでもバイオものづくり関連の研究・開発は連綿と続いてきたが、いずれも研究・開発コストが膨大で、石油を代替するほどの費用対効果を見込めなかった。しかし、現在は各国がBX関連の技術開発に注力し、石油製品に匹敵するほど低コストでのバイオものづくりを実現するための競争が繰り広げられている。その結果、バイオものづくり産業に新規参入する企業は跡を絶たず、近年では前述の産業だけでなく、これまで化学プラントを手がけてきた工場やプラントメーカーなども本格参入を始めている。

     バイオものづくりに関する国際競争力の観点からすると、2000年代初頭まで、日本は食品分野を中心とした発酵生産育種技術など、世界でも先進的なバイオテクノロジーを誇る国と評されてきた。しかし、10年前後から、アメリカやイギリスで遺伝子組換え技術を活用したスタートアップらが勃興し、飛躍的な発展を遂げていく。

     特にアメリカは、12年にバイオエコノミーに関する戦略「National Bioeconomy Blueprint」を発表し、その後、米国防高等研究計画局(DARPA)プロジェクトとして莫大な国家予算を投下するなど、まさに国家プロジェクトとしてバイオテクノロジーの研究を推進してきた。アメリカの研究機関ではロボティクス技術やデータ解析システムの大規模な導入が進み、各研究機関からスピンアウトする形で数多くのバイオものづくり系スタートアップが立ち上がり、急速に産業化の道をたどっている。

     日本はというと、「10年頃まで日本のバイオものづくり技術は欧米とも肩を並べていた」と田村は振り返る。日本でも12年に高機能遺伝子デザイン技術研究組合(TRAHED)、16年に国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)によるスマートセル・プロジェクトが立ち上がるなどして、要素技術の開発自体は精力的に行われていた。生物学(バイオロジー)×情報科学を融合する試みは、微生物を高度化するための効率的アルゴリズム開発としても結実していった。しかし、当時の日本は競争領域でなく協調領域での研究・開発を重視する傾向にあったため、産業競争がほとんど起こらず、産業化という点で世界に大きく出遅れてしまった。

     近年はアメリカやヨーロッパだけでなく、中国や韓国、シンガポールにタイ、インドがバイオ戦略に多大な国家予算を投入し、バイオものづくり研究・産業は指数関数的な伸びを見せている。こうした状況を受けて、日本でも国際競争に対応したバイオものづくり産業の確立が急務となっている。

    国内初となる一気通貫型の産学連携プラットフォーム

     こうしたなか、産業化を加速させる場として設立されるのが産総研のバイオものづくり拠点だ。

     つくばに設置されるバイオ拠点は、令和4年度補正予算内の「量子・AI・バイオ融合ビジネス開発グローバル拠点の創設」の一環として位置づけられている。そこにはバイオものづくりのグローバル競争に向けた国内拠点をつくる必要性に駆られていたという背景がある。

     多くの各研究所やバイオ系ベンチャー企業では、個社ごとに得意とする微生物はあれど、生産できる物質や扱える微生物の種類は限られており、産業界で使用される非モデル微生物に広く対応できる機関は存在していなかった。

     また、海外企業に宿主微生物の開発を発注しても、高額な費用がかかるうえに成功率も低く、さらには解析に出した宿主微生物のゲノム情報が国外に流出する恐れもあったという。こうした状況を憂慮し、経産省でも議論が重ねられたうえで、国際競争に勝つための国内での一大バイオものづくり拠点が求められたのだ。

     特に産総研のバイオものづくり拠点の強みとなるのが、国内初となる一気通貫型の産学連携プラットフォームだと生物プロセス研究部門長の油谷幸代が説明する。

     「バイオものづくりでは、ゲノムデータ解析から物質生産経路の同定、微生物高度化設計、最適培養条件探索、改変微生物の大量培養と物質生産を産業化するまでに数多くのステップが存在しています。日本では個々の要素技術は発展していたものの、それぞれの技術や知見は各企業や研究機関に分散しており、これまですべてのステップを一気通貫で手がけられるプラットフォームが存在しなかったのです。

     産総研は、TRAHEDやNEDOスマートセルプロジェクトに中心機関として参画するなど、あらゆるステップの要素技術開発に携わってきた実績があります。産総研のバイオものづくり拠点では、米国の研究機関と同様に、実用化に向けてどのステップからでも受けもつことが可能となっています」

    インタビューに答える油谷幸代研究部門長
    油谷幸代 産業技術総合研究所 生物プロセス研究部門 研究部門長

     さらに、これまでバイオものづくりの産業化で大きな課題となっていたのが、大量生産(マスプロダクション)にむけた微生物を大量培養する工程だ。産業レベルで微生物を活用するとなると、当然ながら微生物の大量培養が必要となる。しかし、ラボスケールの培養と産業用のマスプロダクションのための培養では微生物の生育環境が大きく異なるため、大量生産の技術や設備を確立するのは困難を極め、産業化への高いハードルとなっていた。

     産総研のバイオものづくり拠点では、ラボスケールの微生物を大規模展開するための施設を設けることで、大量生産の設備やノウハウを確立することを目指している。つまり、産業化までの高いハードルを産総研が受けもつことで、その後のステップとして各企業が製品開発や標準化に注力できるのだ。

     さらに産総研の北海道センターには、バイオリソース解析プラットフォームが設けられている。国内最高速レベルのゲノム解析用クラスタマシンや各種分析装置などを保有しており、つくばのバイオ拠点と連携することで、圧倒的な速さと精度でゲノムやDNA、遺伝子発現情報の解析を実現可能である。これらの迅速で正確な情報解析によって、最終的にバイオ製品のコスト削減に寄与することとなる。

     ほかにも、産総研にはバイオ分野の研究者だけでなく、情報科学の研究者といったさまざまな領域のエキスパートを有しているため、専門領域を横断した知見を集約して研究・開発を行うことができる。産総研のバイオ拠点では今後、インキュベーション施設や入所企業が高いセキュリティのもと独立した研究を行える実験室も設置予定だ。バイオものづくり拠点の可能性について生物プロセス研究部門 総括研究主幹の酒瀬川信一はこう語る。

     「単独の企業では、さまざまなリソースが限られているため、バイオによる産業応用を諦めてしまった製品の開発が数多くありました。新たにできるバイオものづくり拠点は、これまではバイオでできると考えもしなかったものづくりまでを企業と一緒に取り組める施設となります。化成品産業やエネルギー産業、食品産業、医薬品産業だけでなく、あらゆる産業領域が産総研と手を組むことで、これまで個社だけでは諦めていたバイオものづくりを進めていきたいと考えています」

    インタビューに答える酒瀬川信一総括研究主幹
    酒瀬川信一 産業技術総合研究所 生物プロセス研究部門 総括研究主幹

    産業のBXを果たすために開かれた門戸

     すでに産総研のバイオものづくり拠点では、化成品のバイオ転換や食品製造過程で使用する原料開発のほか、エネルギー関連企業とともにバイオマスの利活用に着手している。さらに、製造ラインの一部をバイオ転換する試みなど、多種多様な企業とあらゆるレベルでのプロジェクトを進行中だ。

     「日本企業の意識もかなり高まってきたとは言え、やはり海外企業のBX意識は相当に高く、BXを果たしていない企業の製品は購入しないといった流れすらある。全世界でBXが進むなか、産総研であればバイオものづくりの上流から下流まで、あらゆる連携の可能性を一緒に模索することができます。産業のBXを図るうえで、なんでも相談していただきたいです」(油谷)

     産総研の生物プロセス研究部門では、循環型社会や脱炭素社会、食糧問題といった社会課題の解決策として、バイオものづくりを核としたサーキュラーバイオエコノミーの実現を掲げている。BXへの国際的、社会的な要請が強まる現代、このバイオものづくり拠点にかかる期待は大きい。日本のバイオものづくりがかつて世界の先進とされていたように、ここから再び返り咲く日が来ることを願ってやまない。

    バイオものづくり拠点の詳細はこちら

    生命工学領域
    領域長

    田村 具博

    Tamura Tomohiro

    田村領域長の写真

    生物プロセス研究部門
    研究部門長

    油谷 幸代

    Aburatani Sachiyo

    油谷研究部門長の写真

    生物プロセス研究部門
    総括研究主幹

    酒瀬川 信一

    Sakasegawa Shin-ichi

    酒瀬川総括研究主幹の写真

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