発表・掲載日:2022/01/28

フッ化物を用いた磁気メモリー素子により情報の記録保持特性を改善

-脳型コンピューティング用メモリーへの適用に期待-

ポイント

  • フッ化物をトンネル障壁に用いた磁気メモリー素子を開発
  • 情報の記録保持特性の指標となる垂直磁気異方性を従来構造の約2倍に改善
  • ギガビット級の大容量化が可能なため、脳型コンピューティング用メモリー技術として期待

概要

国立研究開発法人 産業技術総合研究所(以下「産総研」という)新原理コンピューティング研究センター、不揮発メモリーチームの野﨑 隆行 研究チーム長らは、フッ化リチウム(LiF)と酸化マグネシウム(MgO)を組み合わせたトンネル障壁層を用いた新構造の磁気トンネル接合素子(以下、「MTJ素子」)を開発し、磁気メモリー(MRAM)の記録保持特性の指標となる垂直磁気異方性の改善に成功した。MTJ素子は1ナノメートル(100万分の1ミリメートル、以下「nm」)程度のトンネル障壁層を磁性薄膜でサンドイッチした構造からなり、磁性薄膜の磁化の向きによって情報を半永久的に保存できる。この特性を利用することで待機電力を必要としない不揮発性メモリーが可能となり、既存のノイマン型コンピューティングだけでなく、脳の構造や情報処理方式を模倣して高度情報処理を目指す脳型コンピューティングへの適用も検討されている。脳型コンピューティングでは膨大な情報処理を求められるため低消費電力性と高い情報の記録保持特性の両立が重要となる。低消費電力化の観点では、従来の電流書き込み型MRAMと比較して2桁の消費電力低減が期待される電圧書き込み型磁気メモリーに注目が集まっているが、一方で非常に薄い磁性層を用いる必要があるために高い記録保持特性の確保が課題となっていた。

今回トンネル障壁層に、LiFとMgOを組み合わせた複合トンネル障壁層を用いた新構造のMTJ素子を開発した。鉄(Fe)とMgOの間にわずか1~2原子層の非常に薄いLiFを導入することで、Feの磁化の向きが膜面垂直方向に安定化し、垂直磁気異方性がMgOのみを用いた従来構造より約2倍に向上することを見出した。この新構造MTJ素子は電圧書き込み型MRAMにおいてもギガビット級の大容量化を可能とし、低消費電力性と高い記録保持特性を必要とする脳型コンピューティング用MRAMの開発を加速する技術として期待される。なお、この技術の詳細は、2022年1月28日付で学術誌NPG Asia Materialsにオンライン掲載される。

概要図

今回開発したMTJ素子の断面TEM像(左)と情報保持特性の向上効果(右)


開発の社会的背景

モノのインターネット(IoT)などの技術革新により、あらゆる電子機器がインターネットでつながり、IT機器のデータ処理量は増大の一途をたどっている。特に人工知能(AI)の活用はこれらの技術において重要である一方、取り扱う情報量の増大を加速し、それに伴う電子機器のエネルギー消費量が課題となっている。AI技術の高機能化、低消費電力化を目指すアプローチとして脳型コンピューティングが最近注目されている。脳型コンピューティングは、脳におけるニューロンシナプスの活動を同様の機能を有する電子素子などで模倣する試みであるが、シナプスは情報の重要性を"重み"として記憶するため、その再現にはメモリー機能が必要となる。しかしながら既存のメモリーとして利用されているSRAMDRAMは情報処理を行っていない待機時にも電力を消費する揮発性メモリーであるため、消費電力低減の障害となることが懸念されている。この課題を解決するアプローチとして期待されているのが、電源を切っても情報を失わない、つまり待機電力が不要な不揮発性メモリーの導入である。中でも磁性の特徴を利用して不揮発性を付与するMRAMは、高速性や高い繰り返し動作耐性、既存の半導体プロセスとの高い親和性などを兼ね備え、ノイマン型コンピューティングだけでなく、脳型コンピューティングへの適用可能性を有する不揮発メモリーとして期待されている。

 

研究の経緯

産総研では、これまでにMRAMを実現するコア技術として、FeとMgOの接合を基本構造とする高性能MTJ素子を開発し、量産技術化への橋渡し研究においても世界をリードしてきた。(関連記事参照)

MTJ素子はそれぞれの膜厚が数nm程度の磁性薄膜/トンネル障壁層/磁性薄膜のサンドイッチ構造から構成される(用語解説MTJ素子を参照)。素子両端に電圧を加えた際に流れるトンネル電流の大きさが両磁性薄膜における磁化の向きの相対角度に依存する特徴を持つ。これは、トンネル磁気抵抗(TMR)効果と呼ばれる。通常は一方の磁性薄膜における磁化の向きを強く固定し(参照層)、他方の磁化の向きのみを変化させる(記録層)ことで情報の書き込みを行い、TMR効果を通して抵抗の違いから情報を読み出す。一度磁化の向きが定まると外からエネルギーを加えない限り半永久的にその向きを維持するため、原理的に待機電力がゼロのメモリーが実現できる。現在は大容量性に優れている理由から、磁化が膜面垂直方向を向いた、垂直磁化型のMTJ素子が主流となっている。

半永久的な情報保存とはいっても、実際には室温、もしくは動作環境での熱エネルギーによって磁化の向きが揺らいでしまい、情報が消えてしまうことがある。高い情報の記録保持特性を達成するためには、熱エネルギーに負けずに磁化の向きを特定の方向に維持する必要があり、これを磁気的熱安定性と呼ぶ。磁気的熱安定性は記録層の体積と垂直磁気異方性を掛けた値が熱エネルギーに対してどれだけ大きいかで議論される。MRAMでは大容量化を進めるほど素子サイズが小さくなるため、一定の記録保持特性を維持するためには垂直磁気異方性を大きくする必要がある。

既存の電流書き込み型MRAMでは、FeとMgOの界面で発現する垂直磁気異方性を利用した垂直磁化MTJが用いられ、現状ギガビット級の電流書き込み型MRAMが製品化されている。一方、次世代技術として、磁化の向きを電圧のみで制御する、電圧書き込み型MRAMが注目されている。電流駆動型と比較して1~2桁小さい書き込み電力が実証されており、不揮発性メモリーでありながらSRAM並みの低駆動電力化が可能であると期待されている。しかしながら電圧により書き込みを行うために記録層膜厚を電流書き込み型より約半分に薄くする必要があり、同じ材料で構成した場合には記録保持特性が半減することが課題となっている。

 

研究の内容

今回、新材料開発による記録保持特性の改善を目指し、LiFとMgOを組み合わせた複合トンネル障壁層を有する新構造MTJ素子の開発に取り組んだ。

なお、本研究開発は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術開発機構(NEDO)が推進する「高効率・高速処理を可能とするAIチップ・次世代コンピューティングの技術開発/次世代コンピューティング技術の開発/電圧駆動不揮発性メモリを用いた超省電力ブレインモルフィックシステムの研究開発(JPNP16007)」の委託業務の結果得られたものである。

図1は今回作製したMTJ素子の模式図と断面透過電子顕微鏡(以下、「断面TEM」)写真である。クロム(Cr)下地層上に形成されているFe薄膜が垂直磁化型の記録層である。電圧書き込み型用に設計されており、膜厚は0.5 nm程度の超薄膜である。通常は MgO単層がトンネル障壁層として用いられるが、今回はFeとMgOの間に原子が膜厚方向に1~2層だけ並んだ程度の非常に薄いLiFを導入した。LiFも絶縁体であり、トンネル障壁層として機能する。現在主流となっている電流書き込み型では、Fe/MgO界面で誘起される垂直磁気異方性を増強する方法として、Fe/MgOの界面数を増やすMgO/Fe/MgOなどの多層構造化が行われてきた。しかしながら、電圧書き込み型では非常に薄い記録層を用いるため、積層構造化は容易ではない。今回はFeと接する界面にLiFを導入したLiF/MgO複合トンネル障壁層とすることでFe記録層の垂直磁気異方性が大きく改善することを見出した。

図1

図1 今回作製したフッ化リチウム(LiF)挿入層を有するMTJ素子の構造模式図(左)と断面TEM写真(右)
(黒矢印は各磁性層の磁化の向きを表している)

本実験では、通常のメモリー用MTJ素子とは異なり、無磁界下で記録層の磁化が垂直方向、参照層の磁化が面内方向に向いた磁化配置となっているMTJ素子を作製した (図1模式図、および図2挿絵参照)。 この素子を用いることで、LiF層の導入が記録保持特性の指標となる垂直磁気異方性に与える影響を評価することができる。素子に膜面内方向に外部から磁界を加える(図2挿絵赤矢印)と、記録層の磁化が磁界方向に向けられ、平行磁化状態に近づくことで素子抵抗値が小さくなる。この記録層の磁化を面内方向に向かせる(平行磁化状態にする)ために必要な磁界の大きさ(図2破線)が垂直磁化状態を好む強さ、つまり垂直磁気異方性を反映している。図2は従来構造であるFe/MgO(黒線) と、その界面にわずか0.26 nm(1~2原子層)のLiFを挿入したFe/LiF/MgO構造(青線)のTMR効果を比較した例である。LiFを導入することで抵抗が飽和するのに必要な磁界(=垂直磁気異方性)が約2倍に増加しており、これは記録保持特性が約2倍に改善されていることに相当する。この技術を用いることにより、記録層の薄い電圧書き込み型MRAMにおいても高い記録保持特性が実現可能となった。

図2

図2 磁気抵抗測定による垂直磁気異方性の比較。極薄LiFを挿入することにより垂直磁気異方性が約2倍に改善されている。

垂直磁気異方性を増大させるだけであれば他にもいろいろな材料の選択肢が存在するが、TMR効果を失わずに特性を改善することが実用上は非常に重要となる。今回用いたLiF/MgO積層はMgOトンネル障壁層と同程度以上のTMR比を示し、記録保持特性を向上させるだけでなく、情報読み出しに関しても良好な特性を示す優れたトンネル障壁層であることが明らかとなった。

 

今後の予定

今回の特性改善により電圧書き込み型MRAMにおいても既存の電流書き込み型MRAMと同程度の記録保持特性が実現でき、ギガビット級の大容量化への道筋が示されたといえる。これはSRAM代替を対象とした仕様に相当する。ギガビット級の電圧書き込み型MRAMは超低消費電力性が強く求められる脳型コンピューティング用メモリーの有力候補として期待される。しかし、DRAM代替などのさらなる大容量化を目指す上では現状の特性は不十分である。下地層や磁性層材料も含めた材料・構造設計により、さらに2倍の垂直磁気異方性増大、および電圧書き込み技術の開発を進める予定である。併せて、フッ化物トンネル障壁層を導入したMTJ素子の量産技術への可用性検討と、製造プロセス開発への展開を目指す。


用語の説明

◆フッ化リチウム(LiF)
フッ素(F)とリチウム(Li)からなる無機化合物であり、バンドギャップが大きい絶縁体材料である。紫外線に対する透過率が高い特長を生かして、特殊用途の光学系材料などに用いられる。[参照元へ戻る]
◆酸化マグネシウム(MgO)
マグネシウム(Mg)と酸素(O)からなる酸化物絶縁体である。2004年に産総研は、結晶MgOをトンネル障壁に用いたMTJ素子が巨大なTMR効果を示すことを初めて実証した。その後の世界規模の研究開発を経て、現在ではMRAMの記憶素子やハードディスク用磁気ヘッド、磁気センサー素子として広く実用化されている。[参照元へ戻る]
◆トンネル障壁層、磁気トンネル接合(MTJ)素子
厚さ約1–2 nmの非常に薄い絶縁体層を2枚の金属電極層で挟んだ構造は「トンネル接合」と呼ばれ、この絶縁体層をトンネル障壁層という。通常、絶縁体は電気を通さないが、その膜厚が非常に薄い場合、トンネル接合の2つの電極間に電圧を加えるとトンネル障壁を通してトンネル電流と呼ばれる特殊な電流が流れる。特に金属電極層に磁性薄膜を用いた構造、つまり磁性薄膜/トンネル障壁層/磁性薄膜からなるサンドイッチ構造を磁気トンネル接合(MTJ)素子という(下模式図参照)。[参照元へ戻る]
トンネル障壁層、磁気トンネル接合(MTJ)素子説明図
◆トンネル磁気抵抗(TMR)効果、TMR比
MTJ素子に電圧を加えた際に、トンネル効果によって流れるトンネル電流の大きさが両側の磁性薄膜における磁化の相対角に依存して変化する現象をトンネル磁気抵抗(TMR)効果と呼ぶ。トンネル電流の大きさの変化はMTJ素子の抵抗変化を意味し、一般に磁化が平行な状態で低抵抗、反平行な状態で高抵抗となる(上図参照)。抵抗変化の差分を平行な状態での抵抗で割った値の百分率をTMR比と呼び、MTJ素子性能を示すパラメータとして用いられる。平行と反平行な状態での抵抗の2値状態を利用して不揮発な1ビット情報記録が可能となる。通常は一方の磁化の向きを固定(参照層)し、他方の磁化の向き(記録層)を反転させて情報の記録を行う(下模式図で黒矢印は参照層の磁化の向き、赤矢印は記録層の磁化の向き、青矢印はトンネル電流の大きさを示している)。初期のMTJ素子では膜面内方向に磁化が向いている面内磁化型MTJ素子が主流であったが、現在は大容量性の観点で優位なことから、膜面垂直方向に磁化が向いている垂直磁化型MTJ素子が主流となっている。[参照元へ戻る]
◆磁気メモリー(MRAM)、電流書き込み型磁気メモリー、電圧書き込み型磁気メモリー
MTJ素子をマトリックス状に配置し、選択トランジスタを用いてランダムアクセス可能とした不揮発性メモリー。磁化の向きの変化は高速で、素子特性の劣化が無く、さらに原理上nmサイズにおいても動作が可能であるため、高速性、繰り返し動作耐性、大容量性などを兼ね備えた不揮発メモリーの実現が期待されている。現在主に開発されているMRAMは電流により磁化の向きを制御する電流書き込み型磁気メモリー(STT-MRAM)であり、システムLSIの混載メモリーとして商用化されている。しかしながら電流による書き込みはジュール損失により駆動電力が大きくなる問題がある。その課題を解決するために、電圧により磁化の向きを制御する電圧書き込み型MRAMの開発が進められている。電圧書き込み型では、MTJ素子に電圧を加えた際に、記録層とトンネル障壁層の界面に蓄積する電荷を利用して磁気異方性を制御する、「電圧磁気異方性制御」を用いる。この蓄積電荷は界面近傍にしか存在しないため、電圧書き込み型では電流書き込み型と比較して薄い記録層を用いる必要がある。電流書き込み型と比較して1~2桁の駆動電力低減が期待されているが、技術的難易度が高いためにまだ研究開発段階にある。[参照元へ戻る]
◆揮発性メモリー、不揮発性メモリー
既存の半導体メモリーであるDRAMやSRAMは揮発性メモリーと呼ばれ、電力を与えていないと情報が失われてしまう。そのため情報処理を行っていない待機時のリフレッシュ動作やリーク電流によるエネルギー消費が深刻な問題となっている。この待機時の電力を飛躍的に低減する方法として、電源を切っても情報が維持される不揮発性メモリーの導入が有効と考えられている。MRAM以外にも抵抗変化メモリー(ReRAM)、相変化メモリー(PCM)、強誘電体メモリー(FeRAM)などさまざまな不揮発性メモリーが提案されている。[参照元へ戻る]
◆ノイマン型コンピューティング、脳型コンピューティング
現在のコンピュータはノイマン型コンピューティングと呼ばれ、メモリー内にプログラムとデータを保管し、それらをプロセッサで処理する方式で動作している。メモリーとプロセッサが分離しているため、その間の情報のやり取りが処理速度を律速することが問題とされている(ノイマンボトルネック)。このノイマン型コンピューティングとは異なる演算手法やアーキテクチャーを特徴とするコンピュータ(非ノイマン型コンピューティング)の提案が行われており、その1つが脳型コンピューティングである。脳の構造や情報処理方式を電子回路で模倣することで、ノイマン型コンピューティングよりも飛躍的に高速、高度な情報処理を高効率に実現することを目指しており、認識や学習といった膨大で曖昧な情報処理を並列処理で高速に実行可能と期待されている。[参照元へ戻る]
◆磁気異方性、垂直磁気異方性
磁気異方性とは磁石中の磁化の向きによって内部エネルギーが異なる特性であり、磁化の向きやすい方向を決める。特に膜面垂直方向に磁化が向きやすい異方性を垂直磁気異方性と呼ぶ。垂直磁気異方性は高い熱安定性が得られ、また円形形状としても磁化方向を維持することができることから記録層の体積を小さくすることができ、磁気記録媒体やMRAMの大容量化に利用されている。[参照元へ戻る]
NPG Asia Materials
英国Nature Portfolio社(旧Nature Publishing Group社)により刊行されている材料研究者、技術者、科学者、物理学者、ナノテクノロジー研究者を対象とするオープンアクセスジャーナル。特に材料科学分野における最高レベルの原著論文、総説論文を掲載している(2020年度インパクトファクター10.481)。[参照元へ戻る]
◆ニューロン、シナプス、重み
脳には数多くの神経細胞が存在し、そのつながりによって情報の伝達、記憶定着が行われている。この役割を担う神経細胞をニューロンと呼ぶ。ニューロン同士の結合部において、電気信号を次のニューロンへ伝達する役割を担っているのがシナプスである。シナプスはニューロン同士のつながりの強さを決める"重み"情報を持っており、重みづけを行うことで情報の重要性を決定している。この重みは情報の伝達を繰り返すことで変化する特徴を持ち、それが学習に相当する。これらニューロン、シナプスの機能を電子素子で再現する研究開発が数多く行われており、MTJ素子の利用も検討されている。[参照元へ戻る]
◆SRAM
半導体メモリーの一種であり、トランジスタの組み合わせにより構成されている。高速動作を得意とするが、複数のトランジスタを用いるため大容量化が難しく、また電源を切ると情報が失われる揮発性メモリーである。また微細化に伴って待機時の消費電力が増大する点が課題となっている。[参照元へ戻る]
◆DRAM
コンデンサとトランジスタを組み合わせた揮発性メモリーであり、コンデンサへの電荷蓄積の有無で情報を保存する。構造が単純で安価に大容量化が可能なため、パソコンのメインメモリーなどに広く用いられている。電荷は時間経過とともに失われるため定期的に再書き込みを行う必要があり(リフレッシュ動作)、待機電力を必要とする揮発性メモリーである。[参照元へ戻る]
◆磁気的熱安定性
磁性薄膜の体積をV、単位体積当たりの磁気異方性をKU、ボルツマン定数をkB、絶対温度をTとすると、ある温度での磁化方向の安定性は磁気的エネルギーの熱エネルギーに対する割合であるKUV/kBTの大きさで評価される。これを磁気的熱安定性と呼び、情報の記録保持特性の指標として用いられる。例えばMRAM素子として用いるには、10年以上の情報保持の指標として50~60程度の磁気的熱安定性が必要とされている。メモリーの大容量化はVを小さくすることに相当するため、メモリー素子を微小化しても一定の磁気安定性を維持するには相対的に磁気異方性を大きくする必要がある。[参照元へ戻る]
◆透過電子顕微鏡(TEM)、断面TEM
真空中における電子線を光源とする顕微鏡であり、光よりも非常に短い波長を利用することで原子の観測を可能とする。断面TEMとはMTJ素子などの微小な素子を特殊な加工法により断面で切り開き、透過電子顕微鏡により微細結晶構造を観察する方法である。[参照元へ戻る]

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