第6期 産総研の経営方針
1.産総研が目指す姿
- 経営方針とは、産総研の将来のあるべき姿からバックキャストした野心的な目標と、特定国立研究開発法人の中長期目標(期間7年)を実現するための戦略を示すものである。
- 産総研は、国の産業技術をけん引するため、企業、大学、公的研究機関とともに成長し続け、共有価値を創造するイノベーション・エコシステムの中核機関となることを目指している。例えば、産総研や大学等の研究機関により創出された技術シーズに対して、公的資金等を活用して企業との研究開発を進め、得られた開発技術を産総研との実証・実装研究によって速やかに市場展開へ繋げるというものである。これらの一連の過程において創出された研究資源は、国内外の研究機関や企業との協働により次の新たなイノベーション創出へと循環する。
- 産総研の目指す姿を実現するため、第5期では、イノベーション・エコシステムの中核機関としてのプロトタイプ構築を目標として、成果活用等支援法人AIST Solutions(AISol)設立、融合研究の推進、人事制度改革、組織運営の強化、事業所集約化、業務効率化、産総研ブランドの強化などに取り組んできた。
2.第6期の目標
- 第6期の産総研グループ(以下、産総研)は、第5期の経営方針で描いた将来像の実現に向けた取り組みは継承しつつ、イノベーション・エコシステムの中核として相応しい「成長し続ける国研」として飛躍する。
- そのためには、産総研の強みである人材、技術、設備、知的基盤等の求心力・発信力・共創力を一層高め、他機関と相互に好影響を及ぼし合うという好循環を生むことが重要である。
- そして何よりも、国内最大級の総合研究所として国内外の企業や大学等と一丸となり、我が国から多くのイノベーションを連続的に創出していくためには、産総研の質の向上と規模の拡大が必須である。
- 質の向上については、人材・ブランド・組織力の強化をさらに進め、世界最高水準の研究成果の創出と成果の社会実装を実現する。
- 規模の拡大については、主として運営費交付金に依存した状況から、競争的資金や民間資金をバランスよく活用した研究開発へ移行し、第6期末には民間資金や競争的資金も運営費交付金と同等規模で、事業規模は第5期の倍化(約2,000億円)を目指す。得られた民間資金や競争的資金等の研究資源を源泉とし、さらなる研究開発へ活かすことで、持続的に共有価値を創造する。
3.第6期に重点化する取り組み
- 第6期に産総研が目指す姿を実現するため、従来の取り組みの延長線だけではなく、もう一段、質の向上と規模の拡大に向けた非連続な成長を実現する取り組みが必要である。
- この観点から、第6期の中長期目標期間である7年間を通じて、特に重点的に行う取り組みについて、それぞれ以下に示す。
- なお、これらの取り組みについては、実現の方向性を決める重要な前半(FY2025-2027)に集中的に推進し、その進捗を踏まえつつ、社会・経済状況の変化にアジャイルに最適化や見直しを行う。
1)世界最高水準の研究成果の創出と成果の社会実装
- 国のイノベーション政策を担う中核機関として、国内の研究開発を主導し、世界最高水準の研究成果を生み出すための新たな研究プロジェクトを持続的に創出する。
- グローバル競争力向上に貢献する量子、AI、半導体等の国のイノベーション戦略を見据えた技術分野については、産総研の研究資源を最大限に活用できる研究環境と必要なセキュリティを確保した拠点機能の強化を行う。
- 戦略的な人材配置の考えのもと、組織的に社会実装を加速するための領域横断の実装研究センターの設置やスケールアップ・量産化等の実証研究に向けたエンジニアリング人材の増強を行い、研究成果の社会実装の迅速化を行う。
- 国内外の企業、大学、他機関等との連携を強化し、各機関との融合によるシナジー効果を高める。また所内では、研究DXを活用した人、設備、知財等のマッチングによる価値の最大化を図る。さらに、地域をけん引する企業や大学等との連携を強化することで、地域のイノベーション・エコシステムの活性化に貢献する。
2)イノベーション・エコシステムの中核としての活動規模の拡大と機能強化
- 社会実装の加速や新たな連携先とのイノベーション創出に向けて、企業との冠ラボの拡充(サプライチェーン強化に向けた強者連合体形成型、設備費を含めた実証研究型等)、他独法との連携事業の拡大等を行う。
- 技術インテリジェンス機能を活用したニーズ先回りの政策提言や、ナショナル・レジリエンス等の長期の科学的視点の提示などを関係省庁に実施することによって、これまで以上に企業・大学と連携した国家プロジェクトを企画・実現するとともに、成長が期待される研究分野にはあらゆる競争的資金を積極的に活用してゆく。
- 価値ベース契約を基本とする企業との共同研究などにつながるプロジェクト創出などに向けた、コーディネート事業やプロデュース事業を強化する。
- 知財活用による技術移転収入の拡大に向けて、技術移転マネージャーの拡充、IPO人材の確保などの知財戦略の企画機能の強化を行う。標準化活動についても、重点技術分野における取り組みの拡充と基盤整備を行う。
- 産総研の保有する世界最高水準の研究資源(人材、技術、設備、知的基盤等)を活用した、企業の研究開発・社会実装を支援する場やサービスを提供する。
- ユニコーン創出を見据えたスタートアップの支援制度(出資機能の強化等)を整備する。
3)人材・ブランド・組織力の強化
- イノベーション・エコシステムの中核的役割を担う産総研人材の育成と活用、中途採用を含めた人材の獲得、キャリア形成の多角的な支援などを行い、個々の力量を高めることで、人材価値の最大化を行う。
- さらに、国内外の研究機関との連携などにより世界最高水準の多様な優秀人材を獲得し、併せて、挑戦的で革新的な取り組みが奨励される組織風土を築くことによって、組織力を強化する。
- 競争力のある経営に向けて、業務運営の改善及び効率化、DX化などの業務改革を推進する。
- エンゲージメントの一層の向上を目指し、DEIの推進、貢献度や成果に見合った処遇の反映などの施策を実施する。それにより、産総研で働く者が個々の力を発揮し、働きやすさに加えて、やり甲斐や成長を実感できる職場環境を構築する。
- 対外的な産総研のプレゼンス向上と連携促進のため、情報発信の強化等により産総研ブランドの一層の浸透を図る。
- グローバル・オープンイノベーションと経済安全保障の両立を目指し、産総研のセキュリティの一層の向上に努め、社会から信頼される共創の場を提供する。
これらの取り組みにあたっては、質の向上と規模の拡大を基本理念とし、適切に評価しながら経営資源の選択と集中を実施していく。