アグリゲーションとは?
アグリゲーションとは?
2024/04/24
アグリゲーション
とは?
科学の目でみる、
社会が注目する本当の理由
アグリゲーションとは?
アグリゲーション(aggregation)は「束ねる」という意味があり、電力分野においては⼩規模な再生可能エネルギーや需要家を一つに束ねて効率的に管理することを言います。似ているコンセプトとして「マイクログリッド」がありますが、独⽴可能な電⼒系統のことを指すマイクログリッドは、物理的距離が⼀定範囲内のエリアで完結する仕組みであるのに対し、アグリゲーションは日本全体のどの地域に点在していても束ねることが可能です。アグリゲーションによる再生可能エネルギーの利用促進や需要家へのサービス、ライフスタイル提案などによる新しいビジネス創出が期待されます。
2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、電力の安定供給を確保したうえで、再生可能エネルギー(再エネ)のさらなる導入を進める必要があります。電力の安定供給と再エネの普及拡大を両立するため、多数の蓄電池や再エネなどの分散型エネルギーリソースと電力を利用する需要家の機器を束ねて制御し、分散型リソースの適正な取引を実現するアグリゲーション技術の確立が期待されています。電力のアグリゲーションシステムの現在と未来、産総研が行う横断的な基礎研究について、再⽣可能エネルギー研究センターエネルギーネットワークチームの橋本潤主任研究員に聞きました。
アグリゲーションとは?
アグリゲーションの仕組み
電力市場では、電力の需要と供給を一致させるために、一般家庭やビル、工場などに電気を販売する小売事業者が必要な電力量を予測して市場から購入したり、発電事業者と直接取引したりします。しかし、市場へ参加するには一定の規模の電源を持っていることが必要とされており、小規模の再エネ発電設備や家庭での発電ではその要件を満たすことが難しい場合があります。また、太陽光や蓄電池のような分散電源(Distributed Energy Resources:DER)の普及によって、これまで発電所から家庭やビルまで1方向だった電力のやり取りが双方向になり、電気の流れが複雑化してきています。そこで、家庭やビルなどの電力需要家が持つエネルギーリソースをまとめ、効率的に管理する「アグリゲーション」が重要な役割を果たします。
電気を利用する需要家と電力会社の間に立って、電力の需要と供給のバランスを調整し、各需要家が持つエネルギーリソースの最大限の活用に取り組むのは、アグリゲーターである特定卸供給事業者です。中小規模の再エネを束ねて大きな電源として扱うこと(バーチャル・パワープラント:VPP)や需要家の電力消費量を調整するデマンドレスポンス(DR)を束ねることで、市場に参入することを可能にします。これによって、これまで活用されていなかったエネルギーリソースが有効に利用され、新しいビジネスチャンスが生まれます。
アグリゲーションの仕組みは欧米を中心にすでに取り入れられており、世界のエネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネス(ERAB)の市場規模は、2021年は約1,000億円でしたが、2030年には約8.8兆円規模まで拡⼤する⾒込みです。日本でも2022年4⽉にアグリゲーション制度が開始され、⽇本のERAB市場規模は、2021年度に75億円と予想されていましたが、2030年度には730億円に達すると予想されています。
アグリゲーションはなぜ必要か
再エネ普及だけでなく、防災にも役立つアグリゲーション
2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、再エネの導入拡大やエネルギー効率の改善など、多岐にわたる施策が進められています。その一つがアグリゲーションです。
これまで、電力は大規模な発電所で生成され、消費者に1方向に供給されてきました。しかし、再エネの普及により、家庭や企業などでも太陽光発電やエネファーム、電気自動車(EV)などの発電設備が普及し、中小規模のエネルギーリソースが分散して存在するようになりました。そうすると、大規模発電所だけでなく、需要家も電力の需要量をコントロールし、電力の需要と供給のバランスを保つ仕組み(デマンドレスポンス)が重要になります。しかし、小規模な需要家が日々の調整依頼に対応するのは難しく、多数の需要家を束ねる必要があります。アグリゲーションにより、再エネの導入が増えても電力システムの安定性を維持することが可能となります。
また、アグリゲーションは防災の観点からも重要です。電力を融通する技術が発展することで、災害時に電気をより早く復旧することが可能となります。さらに、電力システムの柔軟性を高めることで、大規模な停電や予期せぬ事故に対する対処能力も向上します。
アグリゲーションの課題と必要な技術
電力供給が1方向から双方向へと変わる中で、アグリゲーションは、電力システムの複雑さを管理し解決する技術として期待されていますが、一般家庭向けのアグリゲーションサービスは規模が⼩さいものを多数管理する必要があり、制約も厳しいためビジネス化しにくいのが課題です。国内電⼒需要の約3割を占める家庭部⾨は無視できない重要な対象であり、ITやAIの技術も活用し将来を⾒据えた柔軟なアグリゲーション技術の確⽴が、持続可能なアグリゲーションビジネスには重要です。
また、電力の需給量の調整も大きな課題です。太陽光や風力などの再エネは、日照や風速の程度によって発電量が変動します。電力は、使用量と発電量が常に一致しなければならず、再エネの普及に従ってその予測が難しくなります。そのため、膨大なデータを使って電力の需要や価格の変動を予測し、それを基に電力の供給を調整する高精度な仕組みが必要です。
多種多様な家庭部⾨のニーズと電⼒系統の制約を考慮した将来のアグリゲーションビジネスモデルの創出に向けて、電力を束ねる技術だけでなく、電⼒データの分析、各種予測、系統解析、市場取引最適化などの要素技術の開発が必要です。
研究開発の現状、取り組み
産総研には、気象、エネルギー需要、交通、電力、土地情報などさまざまな分野の専門家・研究チームがあり、それぞれの先端技術を研究・開発しています。これらの研究チームが連携することで、アグリゲーションを活用した新たなビジネスモデルの創設を目指しています。*1
さらに、分野間のデータ利活用を円滑に行うために、ビッグデータ解析用スーパーコンピュータにさまざまなデータを集約し、解析プラットフォームとして利用できるように整備し、使いやすいツールの開発も進めています。まだ各分野で利用に適したフォーマットが異なる場合もあり、今後共通して必要になるスマートメーターなどの電力ビッグデータについては、データの集約の仕方、解析のための統計手法なども含めて検討を進めています。
また、米国と連携して国際的な研究プロジェクトも進めています。家庭エネルギーのビッグデータを基に、各家庭のニーズを満たしつつ外部から発電・蓄電・負荷機器の制御をできるようにするための需給予測や機器制御、解析技術の開発を進めています。*2
アグリゲーションの普及により、国内で活動するアグリゲーター「特定卸供給事業者」も増えています。2024年1月17日時点で許可を得ている事業者は電力会社、ガス会社、住宅メーカーや設備機器会社など、62社にのぼります。
産総研では、開発した予測技術や情報整理方法を技術移転や技術協力といった形で、ハウスメーカーや電力会社、空調機メーカーなどの企業に提供し、ビジネスを支援しています。また、新技術の検討や実験室レベルでの検証が必要な際も、産総研の設備を活用した協力を進めていきます。
*1:カーボンニュートラル実現に向けた分散電源及び需要アグリゲーション技術開発(VPP) [参照元へ戻る]
*2:国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「エネルギーシェアリングに向けたデータ駆動型DSR制御技術の国際共同研究開発 [PDF:259KB]」 [参照元へ戻る]