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次世代二次電池とは?

次世代二次電池とは?

2023/10/25

#話題の〇〇を解説

次世代二次電池

とは?

―リチウムイオン二次電池を超える電池の実現にむけて―

科学の目でみる、
社会が注目する本当の理由

  • #エネルギー環境制約対応
30秒で解説すると・・・

次世代二次電池とは?

充電して繰り返し使える電池のことを二次電池(蓄電池)といいます。スマートフォンから電気自動車まで、日常のいたるところで使われています。現在実用化され、最も普及しているのがリチウムイオン二次電池(LIB)です。しかし、LIBも万能ではなく、軽量化、小型化、充放電性能の向上、寿命の延長、安全性の向上など、克服すべき課題がたくさんあります。これらの課題をクリアし、LIBを代替する可能性のある二次電池を総称して「次世代二次電池」と呼んでいます。より安全性が高い「全固体電池」は車載用電源として期待されています。現在、次世代の二次電池の実現に向けて、世界中でさまざまな研究開発が進められています。

カーボンニュートラルの実現を目指すうえで、充電して電気をためておける二次電池(蓄電池)は不可欠です。特に再生可能エネルギー由来の電気を安定して供給するためには、二次電池が欠かせません。より大きなエネルギーを取り出せたり、より安全に扱えたりするなど、高性能な新しい二次電池が求められ、世界中で開発が行われています。しかし、性能だけでなくコストや安全性、さらには資源の制約など、実用化や量産化に向けてクリアしなければならない課題は多くあります。新たな二次電池が必要とされる背景、次世代二次電池の現在地と展望について、電池技術研究部門 次世代蓄電池研究グループ主任研究員の佐野光に聞きました。

Contents

次世代二次電池とは

現在のリチウムイオン二次電池に替わる「次世代二次電池」

 アルカリ乾電池をはじめとした使い切りの一次電池と呼ばれるものとは異なり、充電して繰り返し使える電池のことを二次電池と言います。充電池や蓄電池のほうが耳馴染みはいいかもしれません。二次電池には鉛蓄電池やニッケル水素電池もありますが、リチウムを含んだ化合物を使用した「リチウムイオン二次電池(Lithium-Ion Battery:LIB、現行LIB)」が現在の二次電池の主流となっています。ノーベル賞を受賞した吉野彰氏が1985年に概念を確立し、日本企業が1991年に初めて商品化して以来、スマートフォンやノートPC、電気自動車(EV)など私たちの身の回りにある幅広い製品に用いられています。さまざまな面で性能向上が続けられており、電気を使う際にはすばやく十分なエネルギーを取りだせるようになり、充電も速く、耐久性も上がっていますが、物質そのものが持つ性能の限界があるため、現行LIBの性能向上にも限界があります。そこで、電池の電極材料に新たな物質を使ったり、電解液を固体に変えたりするなど、現行LIBに代わる新たな二次電池の開発が進んでいます。現行LIBに代替する可能性がある二次電池を総称して「次世代二次電池」と呼んでいます。

図
さまざまな電池の種類。使い切りの一次電池に対して繰り返して使えるのが二次電池。

車載・定置用途の性能向上と資源の安定調達

 現行LIBに替わる、より高性能で小型、高密度にエネルギーを貯められる次世代二次電池の開発が進んでいる主な理由として、温室効果ガスの排出量を全体としてゼロにするカーボンニュートラルを目指す世界的な動きがあります。カーボンニュートラルの実現には、全体の電力消費量における太陽光、風力など再生可能エネルギーの割合を高めることが不可欠です。しかし、再生可能エネルギーは気候や天候に左右されやすいため、需要と供給のミスマッチが生じる場合があります。そこで、発生した電力を蓄えておく高性能な二次電池の普及が求められているのです。

 また、EVをはじめとする輸送機械の開発においても次世代二次電池が必要です。二酸化炭素(CO2)排出量の少ないEVに搭載する電池の性能がよくなれば、一度の充電でより長い距離を走行可能な車両が実現し、ガソリン車の代替がより進むでしょう。自動車だけでなく、飛行機を動かすエネルギーを化石燃料から電力に置き換えるための研究も進められています。現行LIBに比べて、よりエネルギー密度が大きく、寿命が長い次世代二次電池の開発が求められています。

 資源制約の面でも次世代二次電池が注目されています。現行LIBの正極に用いられるコバルトは資源不足が深刻化しており、埋蔵地の偏在には地政学的なリスクもあります。また、リチウムも資源不足の可能性が指摘されています。現行LIBに用いられる材料の需要増加とその調達上のリスクに対応するために、新しい物質を活用した次世代二次電池の開発が進められています。

次世代二次電池の種類と特徴

 次世代二次電池の研究開発は、大きく次の3つのカテゴリーに分けられます。

① 先進リチウムイオン二次電池(先進LIB):現行LIBをベースに高性能化を図る
 現行LIBの仕組みをベースに改良を加え、性能の向上を図ったものが「先進LIB」です。正極にリチウムを多く含む「リチウム過剰系」と呼ばれる材料を用いて電池を高容量にする研究や、通常よりも電解質塩を多く溶解させた濃厚電解液をつかってサイクル寿命を延ばすといった研究などが行われています。

② (狭義の)次世代二次電池:正極・負極材料に現行LIBと全く異なる物質を使う
 正極・負極に現行LIBと異なる物質を使った電池は、狭義の次世代二次電池と呼ばれています。現行LIBに比べた寿命の延伸、軽量化、高容量化などの実現を目指し、正極材料に硫黄やフッ素化合物を使うもの、負極材料にナトリウムやマグネシウムなどを使うものが開発されています。

③ 全固体リチウムイオン二次電池(全固体電池):安全性向上で車載用電源として注目
 電解液を固体化した「全固体リチウムイオン二次電池(全固体LIB)」は、温度変化に強く、発火リスクが小さいといった安全面でのメリットがあります。また、急速充電が可能でエネルギー密度も高いので車載用の開発が進んでいます。(産総研マガジン:全固体電池とは?

 世界中の研究機関や企業が、次世代二次電池の実現と量産化を競い合いながら研究開発を続けてきました。現行LIBを超える性能と安全性、コストを満たす次世代二次電池の実現は困難なテーマで、性能面だけでなく資源制約、環境負荷などクリアしなければならない課題は多くあります。しかし、次世代二次電池は実用化や量産化が進むと世界中に与えるインパクトが大きい研究領域です。現行LIBから全固体電池、さらにはその先の革新電池へと、産総研ではこれからも各分野に活用できる次世代二次電池の研究開発を進めていきます。

産総研が進める次世代二次電池研究の例
  特徴
現行LIBの低コスト・高容量化 ・資源制約の大きいコバルトの使用量の削減と高容量化を目指す。
・現行LIBの正極材料の一部を鉄、マンガンと置き換える。
リチウムイオン全固体電池 ・現行LIBの電解液を固体に置き換える。
・燃えにくくなり、安全性が向上する。
・コンパクトで、幅広い温度帯(−30℃~100℃)に対応する。
革新型高エネルギー密度電池 ・負極材料に金属リチウム、正極側に硫化物を使う。
・エネルギー密度を向上させ、長距離走行可能なEVの実現を目指す。
有機正極二次電池 ・正極にレアメタルを用いず、有機物に置き換える。
・資源不足や資源価格変動高騰の影響を受けにくく、大幅な軽量化も可能になる。
ナトリウムイオン電池・カリウムイオン電池 ・資源制約の少ないナトリウムやカリウムを用いる。

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