生体機能計測とは?
生体機能計測とは?
2023/06/28
生体機能計測
とは?
―健康寿命の延伸、ウェルビーイング社会の実現に貢献―
科学の目でみる、
社会が注目する本当の理由
生体機能計測とは?
生体機能計測とは、からだの働きや機能に関する現象や特徴を計測によって取得し、人間のからだの多様で複雑な生体機能をあきらかにする技術です。生体機能計測によって得られたデータは、健康状態のモニタリングや、医療診断、治療効果の検証などの目的で活用されています。また、生体内における物質の移動や、細胞内・細胞間の情報伝達の仕組みの解明にも寄与します。スマートウォッチなどを利用した日常の健康状態や行動、活動状態のモニタリング、心理状態、認知機能のモニタリングなどでも生体機能計測が行われています。
日本は超高齢社会を迎えており、健康寿命をのばすことを政策課題の一つにかかげています。厚生労働省が定めた健康寿命延伸プランでは、「次世代を含めたすべての人の健やかな生活習慣形成等」、「疾病予防・重症化予防」、「介護予防・フレイル対策、認知症予防」の3分野を中心とした取り組みが推進されています。生体機能計測の技術は、人間のからだの情報を計測・分析し、人の健康寿命をのばしたり、よりよい医療を提供することにつながる重要な研究課題です。生体機能計測の現状と、産総研が取り組むプロジェクトについて、研究戦略企画部で生体機能計測に関わる研究開発に携わっている小畠時彦に話を聞きました。
生体機能計測の現在地
生体機能計測が、注目される背景
人間のからだには、五感(視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚)をはじめ、運動機能や心肺機能、免疫機能、認知機能など、さまざまな生体機能があります。多様で複雑な生体機能を理解するためには、からだの働きや機能に関する現象や特徴を、さまざまな計測技術によって取得する「生体機能計測」が必要不可欠です。
また、深刻な少子高齢化社会を迎えるなか、健康寿命の延伸は大きな社会課題です。2019年に策定された厚生労働省の「健康寿命延伸プラン」は、外出や家事、運動などを制限なく行える状態を指す「健康寿命」を延ばすための目標と施策を定めたものです。この中では、2040年までに健康寿命を男女ともに75歳以上とすることを目指しています。平均寿命と健康寿命の差を縮め、「いつまでも健康に過ごしたい」という人々の希望を実現するための重要な基盤技術として生体機能計測が注目されています。(産総研マガジン 「さりげなく日常を見守り支えるテクノロジーの実現へ」)
スマートウォッチからバイオマーカーまで ~日常生活で使われ始めた生体機能計測~
生体機能計測というと難しく聞こえますが、日々の健康状態や活動のモニタリングなどにスマートフォンやスマートウォッチのようなウェアラブルデバイスを利用することが身近な例でしょう。
スマートウォッチなどを活用すると、心肺機能は呼吸数、心拍数、血圧、血中酸素濃度などから、運動機能は歩数、活動量、体温などから計測したり評価したりできます。その測定データを参考にして、不整脈などの診断をする「スマートウォッチ外来」を開設している医療機関も出てきています。
また、利用者の年齢・身長・体重などのデータとスマートウォッチや計測機器などで取得したいろいろな生体・環境データを組み合わせることで、健康維持に必要な運動量を提示したり、ストレスや睡眠の質を評価したりするアプリも利用されています。最近では、利用者の性格や運動実績をふまえて、その利用者に最適なアドバイスを提案したり、健康診断の結果や健康増進活動にもとづいた疾病リスクの評価を行うアプリも実用化されており、そのようなアプリと生体機能計測が組み合わさることで、新たなサービス展開ができるようになるでしょう。
たとえば、人間が摂取する食品の栄養分析や、生体から得られる血液、汗、尿、唾液、皮膚から放散するガス成分などの分析も生体機能計測に必要な技術です。(産総研マガジン「においをかぎ分けるガスセンサ」)
ほかにも、バイオマーカーとなる生体物質の濃度や成分の状態を計測してモニタリングすることにより、ストレスや緊張、疲労の度合いだけでなく、特定の疾病に該当するかを診断するためのデータを提供する技術も開発されています。(産総研マガジン「蛍光ポリマーと機械学習でバイオ試料を判別化学の舌『Chemical Tongue』」)
生体機能計測に関する技術開発の課題と展望
技術開発の課題と展望
ウェアラブルデバイスで計測するときには、「普段と違う」という感覚がない方がより正確なデータを取得できるため、装着感や接触感の少ない自然な状態で簡単に計測できるデバイスが求められています。人のからだの内部状態のセンシングは技術的に難しい部分があり、これからの課題の一つです。
また、認知や感情状態などの心理・生理計測のさらなる技術開発も求められます。(産総研マガジン「AIと感情」)
今後、より多くのデータが収集できるようになったとき、ビッグデータを利活用するためのデータ連携基盤の整備も必要です。生体機能計測で扱うデータの中には、個人情報になるデータも多いため、データ取り扱いのルールの整備やプライバシーに配慮した情報処理技術の開発が求められます。(産総研マガジン「今、なぜデジタルアーキテクチャが必要なのか?」)
また、医療機器の開発においては、医療機器開発のガイダンスを踏まえたうえで、医療機関などとも連携し、規制に応じた研究や実用化に向けた技術の開発を進める必要があると考えています。
生体機能計測が広げる未来
生体機能計測で得られたデータは、AI技術などとの融合により、生活の質を向上させる技術開発につながり、ウェルビーイング(Well-being)な状態を広げていきます。
ヘルスケアサービス分野では、計測されたデータを用いて、生活習慣の見直しなど最適な行動変容を促すための仕組みが提案されています。
治療・診断分野では、計測されたデータを用いて、要介護状態やフレイル(健常から要介護状態へ移行する中間段階)になることを予防・改善し、さらには病気の早期診断や治療支援、リハビリテーションへも活用できるようにする技術が開発されています。(産総研マガジン 「筋肉の声を聴く トレーニングやフレイル予防など健康・福祉に活用」)
ほかにも、検診や診療、保健指導などの医療サービスをオンラインで受けられる遠隔医療や診療車などのモビリティと組み合わせた医療MaaS(Mobility as a Service)においても、生体から得られたデータを利活用することが考えられます。生体機能計測は今後大きな成長が見込まれている、医療MaaSなどの分野でも必要な技術です。(産総研マガジン「アフターコロナを見据えた新型診療車を開発」)
産総研では、生体機能計測を基盤にした研究開発に取り組み、健康寿命の延伸、ウェルビーイング(Well-being)社会の実現に貢献していきます。また、生体機能計測に関わる国際規格作成や標準化に向けて、必要となる技術開発の取り組みも進めていきます。