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法定計量とは?

法定計量とは?

2024/11/13

#話題の〇〇を解説

法定計量

とは?

―生活を支える信頼の仕組み―

科学の目でみる、
社会が注目する本当の理由

    30秒で解説すると・・・

    法定計量とは?

    法定計量とは、「取引・証明」や「人々の安心・安全の確保」のために計量法という法律で定められた信頼性の高い計量を行う仕組みです。水道メーターやタクシーメーターのように、正確に計量できることで不正や不平等を防止しています。また、医療の面では、体温計や血圧計を使って健康状態を正しく知ることができます。「計量」という当たり前の行為に対して、法律に基づいて正しく計量できているという信頼性を与えているのが法定計量です。

    例えば、惣菜売り場ではかりに惣菜をのせて重さを量るとき、このはかりが正しく重さを量れているという前提で私たちは買い物をします。実は、この前提は法律に基づいて「このはかりは正しく計量できる」と保証されているからこそ成り立っているのです。この正しく計量できているということを保証する仕組みを「法定計量」といいます。法定計量について、工学計測標準研究部門 質量計試験技術グループの伊藤武研究グループ長と、三倉伸介総括研究主幹に聞きました。

    Contents

    法定計量とは

    取引や証明の公正性を確保する法定計量

     惣菜売り場やお菓子売り場では「100グラム350円」のように量り売りをしているところがあります。店員が容器に惣菜をとり、はかりにのせて重さを量り、その重さに応じて値段が決まるというものです。

     しかし、このはかりが正しく重さを量っているという保証はどこにあるのでしょうか。もし、惣菜が100グラムなのに、はかりでは101グラムと表示されていたら、私たちは1グラム分お金を余計に払うことになり、損をしてしまいます。逆に、はかりが少ない重さを表示していたら、お店が損をすることになります。

     取引や証明においてこのような不公正が生じないよう、正確な計量器を使った正確な計量を確実にする仕組みが「法定計量」なのです。

     法定計量において重要なことは、「必要以上に精度を追求しないが、間違いがあってはならない」ということです。例えば、研究者がある実験で薬品を計量するとき、場合によっては1ミリグラム単位で精密に計量する必要があります。しかし、惣菜売り場ではそこまで精密に計量することは求められません。その代わり、1グラム単位であれば1グラムの違いを間違いなく計量することが求められます。その1グラムの違いによって、誰かが経済的に損をする可能性があるからです。

     このように取引における正確な計量を確実にする仕組みは、輸出入といった国を超えた取引でも必要です。世界で130の国及び経済圏が加盟国または準加盟国として組織する国際法定計量機関(OIML)の活動を通じて、それぞれの国で整備された法定計量制度の下、お互いに損をすることなく平等な貿易ができる仕組みが整えられています。

    生活の安心と安全を支える法定計量

     法定計量は、はかりやタクシーメーター、水道メーターのように計量結果が支払う代金に影響を与えるもののほか、家庭内で一般消費者の日常生活で使われる血圧計や体温計、電車のブレーキの強さを表示する圧力計も対象としています。つまり法定計量は、商取引だけでなく、医療において健康を損なわないよう、電車では安全な運行ができるよう、私たちの生活の安心や安全を支えているものといえます。

    検定と型式承認

    特定計量器の“構造”と“性能”

     法定計量において、はかりやタクシーメーターや、血圧計や体温計などの「取引・証明」や「人々の安心・安全確保」に用いられる18種類の計量器は「特定計量器」として定められています。特定計量器は、その“構造”と“性能”について、特定計量器ごとに定められた技術基準に適合することが求められています。ここでいう“構造”とは、一定の温度の範囲内で正しく計量できる、一定の衝撃があっても正しく計量できるなど、その計量器が使われるシーンの環境変化を受けても正しく計量できる構造を意味します。また、“性能”とは、その測定値と正確な値との差である器差が基準内に収まっていることを意味します。

    製造前に“構造”を「型式承認」で試験

     特定計量器のメーカーは本格的な生産を始める前に、その“構造”が技術基準に適合するかどうかの「型式承認」試験を受けることができます。

     産総研の計量標準総合センター(NMIJ)では、惣菜売り場で使用されるタイプのはかりや、体重計などの「非自動はかり」の型式承認試験を行っています。その試験には、-10 ℃から40 ℃の範囲内で正しく計量できるかどうかを調べる静的温度試験、携帯電話から発する電磁波を受けても計量性能に影響がないことを確認する放射電磁界試験、計量器が傾いた状態で正しく計量できるかどうかを確認する傾斜試験、おもりを10万回のせる耐久試験などがあります。これらの試験にすべて合格すると、その“構造”が計量法の基準を満たしているとして、その計量器に対して型式承認が与えられます。型式承認を得た計量器は“構造”の「検定」を省略することができます。計量標準総合センターでは、非自動はかりの他にもタクシーメーター、血圧計、体温計、水道メーター、ガスメーターなどの型式承認を行っています。電力量計などは、日本電気計器検定所(JEMIC)が型式承認を行っています。

    「検定」で計量器の“性能”を保証

     検定は原則としてすべての特定計量器について行われる “構造”と“性能”の試験です。ただし、型式承認を取得した計量器についてはその“構造”の試験は省略されます。検定に合格した計量器には検定証印が付され、例えば非自動はかりであれば惣菜売り場などで使用できることになります。出荷後も、はかりを使う事業者は定期検査を受ける義務があります。非自動はかりであれば2年に1度の定期検査を受けなければなりません。こうして、特定計量器を使う事業者は消費者に対して計量の信頼性を届けているのです。

    新開発された計量器が商取引に使用できるまでの図
    新開発された計量器が商取引に使用できるまで

    法定計量における産総研の役割

     計量標準総合センターでは、型式承認試験を実施するだけでなく、特定計量器を検定するときに使う都道府県などが所有している基準器の検査や、新たな基準器の開発を行っています。また、正確な計量が実現できるように法律改正時の助言、新しい技術基準の開発、その技術基準を国際法定計量機関(OIML)へ提案するなど国際貢献もしています。法定計量に関わる知識や技術の普及のため技術相談会や講習会を開催、国際協力機構(JICA)と協力して、アジア諸国を中心に計量の講習も行っています。計量標準総合センターは、法定計量に係わる業務を総合的に担っています。

     計量という生活に深く関わる行為に対して、消費者の信頼を得るためには、計量器を製造する事業者や計量器を利用する事業者が制度を遵守することが求められます。またこれから、社会の変化に応じて、法定計量においても新たな技術やルールを迅速に導入しなければなりません。産総研では、生活に密接に関わる「計量」という行為において、疑問が生まれないような仕組みを関係する機関や事業者などと連携して作っていきたいと考えています。

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