永久磁石とは?
永久磁石とは?
2024/10/30
永久磁石
とは?
―あらゆる電子機器に搭載される重要部品―
科学の目でみる、
社会が注目する本当の理由
永久磁石とは?
磁石にはいくつかの種類があり、「永久磁石」は一旦外部からエネルギーをかけると(着磁)、それ以降、磁力を永続的に保っているので大変使いやすく、様々な機器で用いられています。永久磁石は天然には磁鉄鉱などの形で存在していますが、現在では工業的にも作られています。一方、電磁石は電流が流れている間だけ磁力を発生します。モーターは永久磁石と電磁石の組み合わせで作られており、自動車などの電動化が進む中で永久磁石の需要も高まっています。さらに、モーターの高出力化に伴い、現在最も高性能で普及しているネオジム磁石を超える、新しい永久磁石が求められています。
永久磁石は、さまざまな機器で重要な役割を果たす基本的な部品です。近年はCO2排出量の削減を目指し、自動車や航空機などでも電動化が進められるほか、風力発電などの再生可能エネルギー設備も増えたことに伴い、より高性能な磁石が求められています。現在使われているネオジム磁石の性能はほぼ限界に達しているため、これを超える磁石をめざした開発が進んでいます。永久磁石の現状や産総研で行われている研究内容について、極限機能材料研究部門 次世代磁石材料グループの平山悠介研究グループ長に聞きました。
永久磁石とは その汎用性と高まる高性能磁石への需要
永久磁石は、家電、精密機械など、特にモーターやファンを搭載しているさまざまな機器にとって重要な部品です。さまざまな機器の電動化が進んだことにより、より性能の高い永久磁石が求められています。
例えば電気自動車やハイブリッド自動車には高性能なモーターが必要で、その実現には強力な磁石が不可欠です。最近では、航空機も電動化が試みられておりその部品には、小型で軽量かつ高性能な磁石が必要です。風力発電の発電機はモーターと同様の構造を持っており、再生エネルギー関連機器にも、高性能な磁石が求められています。
永久磁石の種類と最強の「ネオジム磁石」
永久磁石の歴史は古く、天然の磁石である磁鉄鉱などは紀元前から知られていました。
永久磁石が人間にとって便利だったのは、外部から何もしなくても「磁力」を出し続けること、そして磁力は非接触でも働くことです。この特徴を活かし、磁石はさまざまな機器や技術に使われるようになりました。
人工的な永久磁石の開発も進んでいます。その種類は多く、酸化物系磁石(フェライト磁石など)、金属系磁石(アルニコ磁石、ネオジム磁石、サマリウムコバルト磁石など)があります。また、金属磁石を粉末化してゴムやプラスチックに練り込んだボンド磁石も開発されました。
人工的に作る永久磁石の中で現在、最も強力なのはネオジム磁石(Nd2Fe14B)です。これはネオジム(Nd)、鉄(Fe)、ホウ素(B)の原子の結晶から作られており、日本の佐川眞人博士とジョン・J・クロート博士が1980年代初期、ほぼ同時に開発したものです。ネオジム磁石は開発以来、世界中で利用されています。
磁石の性能を高めるには、素材をなるべく小さな粒子にしてから固める必要がありますが、ネオジム磁石の製造ではこれが他の永久磁石材料と比較して非常にスムーズにできます。金属結晶を超微細な粉末にし、焼結すると、高密度でありながら粒子間に適度な間隔のある緻密体が形成されます。こうした特性によってネオジム磁石は、理論上の性能の95 %を実現できるほど完成度が高く、広範囲に用いられています。
磁石の高性能化とネオジム磁石の課題
高い性能を持つネオジム磁石ですが、性能向上はほぼ限界に達しています。磁石の性能を評価する軸には飽和磁荷、保磁力、耐熱性などがありますが、中でもネオジム磁石の弱点とも言えるのが耐熱性です。永久磁石を加熱していくと磁力が徐々に失われていきます。磁石から完全に磁力がなくなる温度をキュリー温度と呼びますが、ネオジム磁石では約310 ℃です。しかし、自動車用モーターなどは過酷な高温環境でも機能しなくてはならず、キュリー温度がより高い磁石が求められています。そのため、ネオジム磁石を超える強力な磁石(ポストネオジム磁石)が求められています。
さらに原料調達面の課題もあります。ネオジム磁石においては主原料となるネオジムや耐熱性を高める添加物として必要なジスプロシウム、テルビウムは希少元素(レアアース)で輸入に依存しており、産出国に偏りがあるため、価格が高騰したり、入手困難になったりするリスクがあります。
次世代磁石開発をめざす産総研の取り組み
産総研では、ポストネオジム磁石開発をめざして、さまざまな研究を進めています。
現在有力な化合物は、非ネオジム磁石の一種、サマリウム-鉄-窒素磁石(Sm2Fe17N3、サマリウム鉄系磁石)です。この化合物は理論的にはネオジムの3倍以上の保磁力を発現する可能性があります。サマリウム鉄系磁石の実用化に向けて、超微細な粉末にする技術、粉末を焼結して固める粉末冶金技術、結晶構造を変える技術開発などに取り組んでいます。
このような非ネオジム磁石の製造での課題は、粉末を焼結して固めるプロセスです。ネオジム系磁石では、焼結する際発生する液相ができて焼結を進めますが、非ネオジム磁石ではこの液相が発生しません。また、温度を上げると分解しやすいので、低温・高圧で加工する技術も必要です。
また、高性能な磁石の候補物質の多くは酸化によって著しく性能が劣化します。そのため、化合物の粉砕から焼結に至るまでの一連のプロセスをすべて低酸素環境で行う「低酸素粉末冶金技術」も開発しています。最近では、焼結プロセスを変えるだけではなくそれに適した粉末を作る方法にも挑戦しています。
他にも、AI活用や計算科学の専門家は、どうしたら効率的に製造できるのか、計算科学を使ったより効率的な製造プロセス開発につなげる研究を進めています(産総研マガジン「マテリアルズ・インフォマティクス、プロセス・インフォマティクスで何が変わる?」)。
永久磁石は産業の基本となる部品の一つですが、40年以上前に世に出たネオジム磁石を超えるものがいまだに出ていません。もし今、新しい高性能磁石を製造できれば、一気にあらゆる分野に普及することは確実な、大きな可能性が広がっている分野です。材料メーカー、モーターメーカーなど、の永久磁石を必要とする企業、またリサイクルに取り組む企業とも連携しながら、高性能な永久磁石の開発を進めていきます。