産総研マガジンは、企業、大学、研究機関などの皆さまと産総研をつなぎ、 時代を切り拓く先端情報を紹介するコミュニケーション・マガジンです。

材料開発がかわる!材料インフォマティクスの可能性

材料開発がかわる!材料インフォマティクスの可能性

2020/11/30

材料開発がかわる! 材料インフォマティクスの可能性 データの取得と利用を同時に進めていく

三宅 隆 研究チーム長の写真
  • #エネルギー環境制約対応
KeyPoint 素材に対する高性能化・多様化などのニーズに伴い、これまでにない特性や機能を持つ新材料の開発が急がれる。しかし、材料の特性は構成元素の種類、割合、構造によって変わるため、新材料開発には無限ともいえる組み合わせを検討しなければならず、これを短時間で実現できる“材料インフォマティクス”への期待は高い。
Contents

データ活用で経験と勘を超える

 硬い、柔らかい、熱に強い、伸縮性がよい、導電性が高いなど、材料が持つ特性は製品の機能に直結する。よい特性の材料をつくるということは、いかに構成元素の種類、割合、構造のよい組み合わせを見つけるかということでもある。材料開発の分野では、研究者の知識と勘と経験によって考えられた組み合わせについて実証実験を行う手法が一般的だ。そのため新材料を開発するまでには長い時間がかかることも多かった。

 「開発期間が短いほど製品を早く世の中に送り出すことができ、企業の競争力は高まります。そこで近年、材料開発の効率を上げるためにこれまでの計算シミュレーションや実験に加え、機械学習やデータマイニングなどといった人工知能(AI)が活用されるようになりました。これを材料インフォマティクス(MI)と呼んでいますが、その手法を使うことにより、現在、材料の開発プロセスは大きく変わり始めています」

 そう語るのは材料インフォマティクスチームを率いる三宅隆だ。高機能な新材料の開発に、MIはどのように使われるのだろうか。

 例えば、今、ニーズが高まっている材料の一つに、電気自動車や電動飛行機の駆動モータや風力発電機などに用いられる高性能磁石材料がある。特に航空分野においては、低炭素社会実現に向けての切り札ともいえる電動飛行機の実用化は、急務と言える。そのため、モータ性能を向上でき、強度も高温特性も高い高性能磁石材料の開発が急がれているのだ。

 現在使われている高性能磁石であるネオジム磁石は、ネオジムと鉄、ホウ酸から構成されるが、高温特性や保磁力を高めるために、ほかにもいくつかの元素が添加されている。その組成をどう変えるかでさらなる高性能が実現する。そこで三宅たちのチームは、MIの手法を用いて、高性能磁石材料に求められる特性を実現する最適な組成の探索に取り組んだ。

 「MIの基盤は言うまでもなくデータです。材料は組成のバリエーションが膨大である分、取得しなければならないデータも多いのですが、これまで開発されてきたデータベースは文献データを収録して構造化したものが多く、すでに絞り込まれたデータであり、機械学習を進めるうえで最適なものとは言えません。MIを進めるにあたっては、データベースの増強や、課題に応じた新たなデータベースの作成も必要となりました」

三宅は、これらのことを勘案しつつ、得られた多様なデータに基づいて高性能磁石材料について探索したところ、ある程度、有効な元素が絞り込まれた。ただ、机上の計算だけでは厳密な性能データを出すことはできない。そこでリアルな実験データと同化させて精度を向上させた結果、高温ではコバルトの添加が有効だと、迅速に見積もることができた。

 ネオジム磁石に代わる新規磁石材料の組成の探索については「ベイズ最適化」という機械学習の手法を採用した。その結果をランダムサンプリングの成功確率と比較すると、磁化、キュリー温度、生成エネルギーという各項目で、ランダムサンプリングの成功確率が12.9%に対し、ベイズ最適化の成功確率は90〜100%と圧倒的に高い結果となった。MIが新材料の開発期間を大幅に短縮する可能性を示せたのだ。

オープンとクローズドのバランスが課題

 MIを普及させるうえでは課題も多い。まず、材料の特性が多種多様であるので、データ量の絶対的不足に加え、取得されるべき情報もさまざまである。したがって各種のデータを単純に統合させることが必ずしも適切とは言えないという。今後は既存データベースの新たな連携手法の開発が重要となってくる。

 また、材料関連のデータは企業、研究機関にとって競争力の源泉であるため、データを簡単にオープンにできないという側面もある。データ連携を進めるにも、国ベースで材料分野の全体を発展させるための作業と、個別企業が競争力を維持するための機密性とのバランスを考えていかなければならない。今後はオープン/クローズドをどう切り分け、どのような情報なら公開可能なのか、その方法はどうするのか、情報技術面だけでなく、産業育成、企業の競争力強化など、多面的な検討が必要となるだろう。

 「MIの手法は既知の材料特性の周辺での最適化には圧倒的な強さを見せましたが、過去のデータの蓄積に基づくため、まったく新しい革新的な材料を見つけられるかは未知数です。ただ、さまざまなデータが蓄積されていくと、あるとき別の視点からの発見につながることがあります。そのような未知の力を発揮させるためにも、材料開発のデータの蓄積・連携を進め、近い将来、MIの手法を活用し、あっと言うような素材産業分野での成功事例が出てくることを期待しています」と三宅は展望を語った。

材料・化学領域
機能材料コンピュテーショナルデザイン研究センター
材料インフォマティクスチーム
研究チーム長

三宅 隆

Miyake Takashi

三宅 隆 研究チーム長の写真
産総研
材料・化学研究領域
機能材料コンピュテーショナルデザイン
研究センター

この記事へのリアクション

  •  

  •  

  •  

この記事をシェア

  • Xでシェア
  • facebookでシェア
  • LINEでシェア

掲載記事・産総研との連携・紹介技術・研究成果などにご興味をお持ちの方へ

産総研マガジンでご紹介している事例や成果、トピックスは、産総研で行われている研究や連携成果の一部です。
掲載記事に関するお問い合わせのほか、産総研の研究内容・技術サポート・連携・コラボレーションなどに興味をお持ちの方は、
お問い合わせフォームよりお気軽にご連絡ください。

国立研究開発法人産業技術総合研究所

Copyright © National Institute of Advanced Industrial Science and Technology (AIST)
(Japan Corporate Number 7010005005425). All rights reserved.