ディープテックとは?
ディープテックとは?
2024/02/28
ディープテック
とは?
―社会課題の解決に向けて必要な先端技術―
科学の目でみる、
社会が注目する本当の理由
ディープテックとは?
ディープテックとは、社会課題を解決して私たちの生活や社会に大きなインパクトを与える科学的な発見や革新的な技術のことです。定義はまだひとつに定まっていませんが、すぐに社会的インパクトを与える研究や技術ばかりでなく、過去の研究・技術にあらためて光を当て、社会課題の解決につなげることもディープテックの一部と言えます。その分野は広く、人工知能や量子コンピュータ、クリーンエネルギー、ゲノム編集、ナノテクノロジー、IoT、センサーなど、たくさんの技術が当てはまります。
私たちの生活や社会に良いインパクトを与えることを意識して取り組む科学研究や技術開発を、ディープテックと呼んでいます。対象となる分野は非常に広く、決まった方法論やアプローチがあるわけではありません。ディープテックの共通点をあげるとすれば、技術を用いて個別の課題を解決するだけでなく、いかに社会全体で必要な人に使ってもらえるか、市場をつくっていけるかというプロセスまで考えていくべき技術であることです。投資家の目線でいえば、社会的に価値があるだけでなく経済的に将来性のある技術かどうかという線引きができるかもしれません。このような長期的かつ多角的にとらえる必要のある技術群であるため、個々の利益追求を必要としない産総研のような公的研究機関との親和性は非常に高く、産総研もこれを意識して「覚醒プロジェクト」*1やAIST Solutionsにおけるスタートアップ支援などの取り組みを行っています。今回は、社会課題解決に向けた研究活動の旗振り役である研究戦略企画部次長の佐藤洋に、公的研究機関としてのディープテックのとらえ方、研究所として取り組む方向性、さらに、これからの研究者に求められることや将来への期待を聞きました。
ディープテックとは
ディープテックとは、社会課題を解決して私たちの生活や社会に大きなインパクトを与える科学的な発見や革新的な技術のことです。経済産業省の定義によれば、「特定の自然科学分野での研究を通じて得られた科学的な発見に基づく技術であり、その事業化・社会実装を実現できれば、国や世界全体で解決すべき経済社会課題の解決など社会にインパクトを与えられるような潜在力のある技術」を指します。
従来の研究開発との違いは、「社会課題の解決」をより明確なターゲットにしていることです。ディープテックは社会課題を解決するために必要な技術として、新しい技術の開発だけではなく、過去の技術もターゲットに入れて再評価も行うことが重要です。また、すでにその技術に初期投資が行われていたとしても、さらなる投資対象として有望かどうかを見極めるという点が大きな意味を持ちます。投資によって技術発展は加速し、社会課題解決への道のりを縮めてくれるからです。投資という視点からは、技術発展の予測マップや特許の出願件数などを参考に、有望な分野が判断されますが、これだけで十分とは言えません。研究者の直感、経験、嗅覚といった、客観データからは見えないものがとらえた研究や技術が、やがて成果を出し社会課題の解決につながることはしばしば起こります。このように一口にディープテックと言っても、内容も発展段階もさまざまで見極めが大事です。
ディープテックを掘り起こすために必要なこと
では、ディープテックが社会に役立つ技術となるためには、どのようなアプローチが考えられるでしょうか。これまでのように、各技術課題を解決する研究開発にまい進し、良い技術を積み重ねていくだけでは投資家は振り向いてくれません。研究開発側に大きな変化が求められていると感じています。
まず、研究成果を「資産」であると認識し、過去から現在にわたって広い研究分野で進められた多くの研究を、投資家目線で棚卸しして整理することが必要です。産総研だけでも数千人以上の研究者が、過去から現在にいたるまで幅広い分野の研究を行ってきました。これを「投資家」の目線であらためて仕分けることで、将来有望な技術の種を発見できる可能性があります。
次に、「研究の横連携」を増やしていくことが重要です。研究活動はどうしてもすでにある学問分類に閉じてしまったり、ひとつの技術を追究するあまり狭い範囲にとどまってしまったりする傾向があります。しかし、異分野の研究が出合うことは、ひとつの技術だけを段階的に向上させるのと違い、非連続的なイノベーションを促す場合があります。無意識に「できない、難しい」と思い込んでいるハードルも違う分野の専門家から見れば容易いこともあります。
このようなイノベーションを起こすためにも、産総研では、さまざまな分野の研究者を集結させてひとつの課題解決をめざす「融合研究プロジェクト」を推進しています。これまでに、全固体電池とセンシングデバイスの研究成果で人間の行動を計測するヘルスケアサービス開発の事例や、廃材の付加価値向上と処理プロセスの省エネ化という技術の組み合わせで再利用を促進する技術開発の事例などがあります。ここ4~5年、産総研では特に精力的に融合研究プロジェクトを進めてきました。今後も、ターゲットを見極めながら、継続して行っていく必要があるでしょう。
公的研究機関としての産総研の役割は、「資産」である研究成果を投資家目線で整理すること、また異分野の研究者が融合して研究に取り組むことのほか、企業では投資しにくい分野に取り組んでいく必要があると考えています。社会課題の中には、利益を追求しなければならない企業が取り扱いにくいものもあります。また、新しい技術がもつポジティブな部分だけでなく、ネガティブな部分にもきちんと向き合わなくてはいけません。
例えば、自動運転を実現するには、自動運転を可能にする運転技術開発だけでなく、事故に対応する技術や万が一のことがあった際にすぐに復旧するためのシステムの実現も重要な研究テーマです。ネガティブな側面からのアプローチは、資金や人材面から企業で取り組み続けることが難しいものが多いですが、社会が必要とし、企業が課題解決に動こうとするときに、すぐに協力できる素地を持ち続けていくことが産総研の存在意義のひとつではないかと考えています。
これからの研究者に求められること
ディープテックを掘り起こすには投資家的視点が必要です。特に、経済状況や社会情勢を考えながら投資対象として価値があるのかどうか、技術と社会の未来を予測するという、研究者が意識しないと見落としてしまいがちな視点がこれからますます重要視されるでしょう。
一方で、研究者が本人の興味関心から生まれた熱意をもって研究テーマに打ち込んでいることは多く、そうして生まれた技術が社会課題の解決に貢献してきたことも事実です。新しい発見をしたり、知識を構築したりするところにモチベーションをもっている研究者は多いと思います。どちらの方が重要ということではなく、本人の興味関心から生まれる熱意と、社会経済的価値を考える投資家的観点の2つの観点を両方もつ人材が増えてくることが望ましいと考えています。全員がそうなれということではないですが、このような投資家的視点をもった研究者を輩出していくことは、産総研のひとつの役割だと考えています。
分野にもよりますが、研究だけに集中していればよいのではなく、あるべき社会へ至る道筋を描き、関係者を巻き込んで社会システムを構築していくこと自体が研究活動になるという場面が増えてくるのだろうと感じています。2023年4月に株式会社AIST Solutionsを設立したのも、より市場の動向に沿った社会実装を進める研究体制構築を目指したことが背景にあります。10年、20年先、あるいは50年先に視点を置き、社会課題解決に限らず世の中にどのように貢献するのか、誰と組むのか、誰が資金を提供するのか、成果を享受する対象は誰なのかを具体的に考え、テーマを決め、研究する人が一定数は必要でしょう。
これは、研究所が単独で実現できる話ではありません。企業、行政、アカデミアなどすべてを巻き込みつつ、「社会実験を社会の中で仕掛けていく研究所」として、産総研がAIST Solutionsとともに産総研グループとして成長していく必要があると考えています。
*1:「覚醒プロジェクト」の詳細については特設WEBサイトをご覧ください。 [参照元へ戻る]