RD20が実現するクリーンエネルギー分野での国際連携
RD20が実現するクリーンエネルギー分野での国際連携
2020/03/31
RD20が実現する クリーンエネルギー分野での国際連携 経済的価値と社会的価値の両立を目指して
2019年10月11日、産総研の主催により第1回RD20*1が開催された。CO2の大幅削減と低炭素社会に向けたイノベーション創出につなげるため、G20の研究機関のリーダーが集い、国際連携を進める意志を確認。その意義を小林哲彦理事に聞く。
──産総研がRD20を主催した背景は。
小林まず、低炭素社会に向かう世界全体の流れがあります。地球温暖化に伴う気候変動に対して世界的に警鐘が鳴らされ、長い年月をかけて京都議定書、パリ協定などに基づく取り組みが進められてきました。2018年は気候変動に関する政府間パネル(IPCC)から温暖化の進行が予測より急速であるという報告書が公表され、各国が「2050年」に向けて取り組みを強化しています。国連が2015年に提唱した持続可能な開発目標(SDGs)にも、クリーンエネルギー技術の開発に関する項目が含まれています。
また、企業が使用電力を100 %再生可能エネルギーでまかなうことを目指すRE100や、環境などに配慮している企業を選別して行うESG投資、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)などは、企業の環境対応に対して直接的に効果をもたらしています。これらの動きはここ2、3年で急速に活発になってきました。
さらに、2019年のダボス会議で安倍首相が、気候変動問題に立ち向かうには非連続的イノベーションによる問題解決が必要であると講演、その中で10月には各国の研究機関と環境技術分野で国際連携する拠点を立ち上げる方針を表明しました。これを受け、各国の政策実現を担う国立研究所のトップたちと連携の意思統一を図る場を設けようという動きが起こり、日本で総合的にエネルギー関連技術の研究を行っている産総研を中心に、RD20を開催することになったのです。
──RD20ではどのような議論がなされましたか。
小林国によってエネルギー事情も技術開発の状況も異なります。第1回の今回は、これからの社会に有望なエネルギー技術である水素とCCUS(炭素の回収・利用・貯蔵)をテーマに、各国で展開している研究について紹介してもらいました。事前に各国のエネルギー政策や国立研究所としての取り組み、展開している技術開発などについての資料を作成し、将来の連携に向けた判断材料としました。
最後に議長を務めた当所理事長の中鉢から、20カ国間の国際連携を進める努力をしようと議長声明が出され、来年の開催についても同意を得ることができました。実際、産総研はこの機会に数カ国と国際協定を結んでいます。
──再生可能エネルギーの利用や貯蔵について、産総研には幅広い技術があります。
小林変動の大きい自然エネルギーを有効活用する方法は余剰電力を蓄えることで、その方法の一つが2019年ノーベル化学賞を受賞した吉野彰氏が開発したリチウムイオン電池、もう一つが余剰電力で水を電気分解し、水素に変換して貯蔵しておく方法です。
産総研でもこれらに関してさまざまな技術を開発しています。当日は、高分子電解質膜による水電解水素製造、水素吸蔵合金による水素貯蔵、燃料電池による水素発電やアンモニアを用いたエネルギーシステム、人工光合成などの研究を紹介したほか、CO2分離を容易にする石炭燃焼プロセス、天然ガスからのCO2フリーの水素製造、産総研福島再生可能エネルギー研究所(FREA)についても紹介しました。
これらの研究は基礎研究段階のものも多く、それぞれ開発にかかる時間軸も異なるため、現時点ではどれが最適なのか判断はできません。例えば太陽電池も30年前は高価で現実的ではないという批判もありましたが、今では低コスト化が進んで普及しています。どの技術でもそうなる可能性はあり、未来の可能性を閉ざさないためにも、現時点ではあまり選択と集中を行いすぎないほうがよいと考えています。
──再生可能エネルギー研究をこれからどう進めていく予定でしょうか。
小林産総研は水素貯蔵、省エネデバイス、蓄電池などの要素技術が強い研究所です。しかし、要素技術だけでは実用化できないため、現在は将来的にエネルギーがどのように使われていくのかを想定し、そこから逆算するかたちで要素技術の精度を上げていくことを考えています。
再生可能エネルギーを利用する場としては定置型と移動型を想定しています。FREAでは主として定置型の「ミニ再エネ社会」というべき場をつくり、実際に利用していく上でどのような課題が出てくるのかを確認する実証実験を進め、そこから要素技術に落とし込んでいくようにしています。
自動車などの移動体については、化石燃料の消費量の削減と再生可能エネルギーの活用を同時に進める必要があります。現時点で燃料電池車か電気自動車(電池式)かの二者択一にせず、もう少し幅広い視点で考えておくのが現実的でしょう。現在は船舶や航空機の電動化も検討されていますが、それらについても社会が必要とするシステムを考えながら、蓄電池やパワー制御技術、高効率の太陽光発電技術などの技術開発を続け、実現可能なものにしていきます。
産総研は2020年1月に「ゼロエミッション国際共同研究センター」(研究センター長 吉野彰)を立ち上げました。ここを中心にRD20の議論を具現化していきたいと思います。
*1: 国際会議RD20(Research and Development 20 for clean energy technologies)公式サイト [参照元に戻る]
理事
エネルギー・環境領域
領域長
小林 哲彦
Kobayashi Tetsuhiko