再生可能エネルギーからCO2フリーのアンモニアを大量製造
再生可能エネルギーからCO2フリーのアンモニアを大量製造
2020/03/31
再生可能エネルギーから CO2フリーのアンモニアを 大量製造
CO2フリー水素からつくるアンモニアで低炭素社会に貢献
さまざまな資源からつくることができ、エネルギーとして利用してもCO2を出さないという特徴をもつ水素に対する期待は大きい。しかし、水素は燃えやすくて体積も大きく、気体のままでは輸送も貯蔵も高密度で行うには技術的課題が多い。そのため現在、水素を効率的に運用していくための技術開発が世界中で行われている。
水素の安全性と利便性を高めて扱いやすくするために、水素を別の物質と化学反応させて「水素キャリア」に変えるという方法がある。さまざまな物質が水素キャリアになる可能性を持つが、産総研が注力している物質の一つがアンモニアだ。
「水素キャリアを燃料として用いるときは、そこから水素を取り出して燃焼させるのですが、アンモニアは炭素を含まないので、燃やしてもCO2を排出しません」
そう語るのは、再生可能エネルギーからつくる水素でアンモニアを効率よく合成するための触媒開発に取り組んできた難波哲哉だ。
産総研では、太陽光や風力などで発電した電力で水を分解して水素をつくり、その水素と大気中の窒素を結合させてアンモニアをつくっている。そして、水素自体も天然ガスからではなく再生可能エネルギーからつくっているため、製造プロセスにおいてCO2の排出がない「CO2フリーアンモニア」ができる。これを水素キャリアとして用いることで、低炭素社会の構築へ向けて、より確実な貢献ができると考えているのだ。
出力変動に対応できる触媒とプロセスを分担して開発
CO2フリーのアンモニアを水素キャリアとする技術の開発は、内閣府の進めるSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)のテーマにも採用され、産総研は日揮株式会社とともにその方法を検討してきた。ここでも課題となったのは、再生可能エネルギーの出力変動の大きさだった。
「出力変動が大きいと、その電気でつくる水素の供給量もかなり変動します。そして、水素供給量が変動すると圧力も変化します。アンモニア合成に用いていたルテニウム触媒は、圧力が上がると性能が低下してしまうという問題があり、この圧力の変化に適応する触媒を開発する必要がありました」
また、原料ガスが一定に供給されないことを想定したプラントなど、これまでどこにも存在しておらず、反応プロセス自体も変動に適応することが難しかった。
そこで、新たな触媒の開発は産総研、そして合成プロセスの開発は日揮と、分担して開発を進めることになった。
難波は圧力が上がっても性能を維持できる触媒を求めて、合成成分を検討した。その結果、10 MPa(約100気圧)以下の圧力範囲で高い活性を維持できる新たな触媒を開発した。
日揮による新たな運転装置の準備も順調に整い、2018年4月、FREAにおいて、新しい触媒と新しい装置を使って効率よくアンモニアを製造できるかの実験が行われた。コンプレッサーで水素と窒素を昇圧したところ、反応器では順調にアンモニアの合成が行われ、1日で20 kgのアンモニアを製造することに成功した。条件を変えて行っても、変動に適応し、装置のON/OFFに対しても応答性よくアンモニアを製造できることがわかったのである。
製造されたアンモニアは冷却して液体にして貯蔵し、エネルギー源として発電設備などで燃焼させて用いる。しかし、そのときに十分な発電出力が出せなくては、燃料として使えない。同年8月、実際の発電設備で使ったときにどうなるかの実証実験を行った。
「CO2フリー水素から製造したアンモニアでも、市販の化石燃料由来水素から製造したアンモニアと同等の発電出力が得られることが確認できました。これで製造、貯蔵、発電という一連のプロセスでの実証実験が終わり、これから社会実装を目指していく段階に入っていきます」
今後は分散利用に対応する改良を行うとともに、より安全に使える水素キャリアとして改良していくという。あわせて変動対応性の強化、貯蔵時のコンパクト化、低コスト化に向けても、さらなる技術開発を進めていく。水素社会に向けて、やるべきことは山積みだ。
「ゼロエミッション化に本気で取り組もうというとき、重要になるのは燃料です。私は燃料となるアンモニアに関する技術開発を行っていますが、再生可能エネルギーからつくる水素でアンモニアを生成する技術は、ゼロエミッションに非常に大きな役割を果たすと考えています。CO2フリーのアンモニアをつくる研究を、 RD20の参加国をはじめとする世界の国々と、ぜひ一緒に進めていきたいと思っています」
福島再生可能エネルギー研究所
再生可能エネルギー研究センター
水素キャリアチーム
上級主任研究員
難波 哲哉
Nanba Tetsuya
水素をCO2フリーで効率よく使いこなす技術があります。ぜひご相談を!
産総研
福島再生可能エネルギー研究所(FREA)
エネルギー・環境領域
再生可能エネルギー研究センター