2020年9月30日掲載
取材・文 中川 隆夫、ブルーバックス編集部
「昭和南海地震」から74年、「安政南海地震」から166年
日本列島を襲う次の巨大地震として、最も心配されているのが「南海トラフ地震」です。
紀伊半島から四国沖にかけてのプレート境界付近で巨大地震が起こると、マグニチュード8クラスの地震になると考えられており、政府の地震本部の見解では、今後30年のうちにマグニチュード8~9クラスの大地震が起こる確率は80%といわれます。
つまり南海トラフ地震は、およそ30年から50年のうちには、確実に起こる地震ということです。記録が残る過去1400年間で、100〜200年間隔で巨大地震が発生してきたことが、その根拠とされています。
この地域における最後の地震は、74年前の1946年に起きた「昭和南海地震」で、マグニチュード8.0とされています。その前はマグニチュード8.4と推定される「安政南海地震」で、1854年に起きています。
この間、92年。また、南海と隣り合った東南海が連動して起こる巨大地震の危険性も指摘されており、文字どおり、最大級の警戒がなされているのが南海トラフ地震なのです。
多数の地震研究者たちが、差し迫った南海トラフ地震に対応するため、観測や調査を進めていますが、意外な視点からこの地震に迫ろうとする人たちがいます。
産業技術総合研究所・活断層・火山研究部門 地質変動研究グループ主任研究員の大坪誠さんと、地質情報研究部門 地球物理研究グループ主任研究員の宮川歩夢さんの2人が注目しているのは、「地震と水の関係」──。そのキーワードは、水晶でおなじみの「石英」だというのです。
いったいなぜ、地震の謎を探るカギを石英が握っているのでしょうか? そして、水との関係とは?
早速、訪ねてみることにしました。
地球に“聴診器”を当てる
実際にお会いしてみると、2人は地震が起こるメカニズムに物理科学的なアプローチで迫っているとのこと。……ムムっ、なにやら難しそうな話は後に回して、まずは地震探究の世界に入ったきっかけから訊ねてみましょう。
──大坪さんは「生きている地球の鼓動に触れたい!」という動機から、地球科学の研究者になったそうですね。そして、「地球の将来を予測したい!」という夢を抱いていらっしゃるとか。
ふつうの人は、大地はビクともしないという印象をもっているものですが、大坪さんは「鼓動」を感じとった。どういうことでしょう?
「私たちが経験する、ときどき地震が起こるということは、地下で岩盤に力がかかったり、あるいは岩盤どうしが押したり引いたりといったことがおこなわれているということなんです。いわば地震は、いちばん身近で感じられる地球の鼓動です。
ぐっと離れたマクロの視点で見ると、太平洋プレートの動きによってハワイ諸島は日本列島に年々近づいている、という現象も起きています。もし、私たちの寿命が1000万年の単位でつづくものだったら、実際にハワイが日本に近づくことを実感できるでしょう。
お医者さんは私たちの体に聴診器を当てて、身体の内部の変化を探りますよね。それと同じように、私も地球に聴診器を当てて、その鼓動を理解したいと思っているんです」(大坪さん)
──なるほど、地球を見ている時間軸が、ふつうの人よりずっと長いわけですね。地震災害などから、地震のメカニズムに興味をもったというのとは、ちょっと違う印象です。
「ええ。私の出身は福岡県南部の八女(やめ)というところなんですが、八女は古墳時代の遺跡が多くて、子供のころは考古学に憧れていました。ところが、進学した高校では社会に日本史の選択がありませんでした。そのとき、理科ではたまたま地学を履修しました。地学担当の先生の話が面白かったこともあって、地球科学にのめり込んでいったんです。
小学校のころは遺跡発掘に夢中になっていましたが、いまや地球を掘り進む仕事をしています。対象とする時間軸は、数千年から数十万年、数百万年とかなり拡大してしまいましたが、昔の写真を見ていてふと気づいたんです。
遺跡調査をする小学生の頃の私と、地質調査をしているいまの私を見比べると、地面を掘る姿はまったく同じだな、と(笑)」(大坪さん)
大坪さんの育った八女は熊本県との県境に近く、阿蘇山にも近い。有明海をはさんで、1990年代に噴火した雲仙普賢岳が一望できる環境で育った。九州はまさに、地質や地震、火山活動と密接に関わる土地でした。
「地面の使い方」を考える
一方、大坪さんより少し若い宮川さんは、広島県の出身。地震も少ない安定した土地で育ちました。
「そのとおりです(笑)。僕の場合は、自然に流れていった先に今の研究があるという感じです。大学は工学部で、地質工学を専攻しました。平たく言えば、『地面をどう使うか』ということを、工学の視点から考える学問です。
『地面をどう使うか』を考えるには、まず『地球がどうなっているのか』、その成り立ちを知る必要があります。そこから、『地球はどれくらい固いのか』とか『なぜ地面が動いているのか』などといった、物理的な視点で地球をとらえるようになりました。そういった研究の行く先で、大坪との接点が生まれてきたんです」(宮川さん)
──地球物理学とは、具体的にはどんな学問なんですか?
「この学問領域全体を網羅的にひと言で表現するのは難しいのですが、私が取り組んでいる対象は『固体地球』といわれるものです。地震や火山といった、地球の“固いところ”で起きる現象を物理学的に考えていく研究ジャンルです。
大坪が先ほど触れた『ハワイと日本列島が近づいている』という話も、観測でその事実がわかったうえで、物理的な説明ができなければ本当に理解したことにはならない。その物理的メカニズムを探る研究といえば、わかりやすいでしょうか」(宮川さん)
──お二人は、現地調査にも赴かれるけれども、一方で、研究室では数学や物理を使って、地球科学的な事象のメカニズムを解析する仕事に従事している。
「そうですね。現地に現実にある状況をどう理解するかというときに、数学的なものを少し使うのが、私たちの研究の特徴でしょうか」(大坪さん)
延岡の海岸に残された“痕跡”
──このほど、地震と、地震が起こった場所にある水圧の関係について、論文として発表されました。「地震と水の関係」に着目するというのは、地震学の素人には意外な印象があります。この研究のきっかけとなったのは、なんだったのでしょうか。
「第一に、南海トラフ地震が『今後30年間で起こる可能性が高い』といわれていることが挙げられます。何よりもまず、そこに向けての研究です。
南海トラフ地震は歴史上、同じような場所で何度も起こっている地球の現象です。次の地震が起こる可能性が高い以上、防災・減災のためにもそのメカニズムを知る必要がある。ところが、実際に地震が起こる、地下数kmの場所に行ってこの目で見ることは、現段階の技術では不可能です。
であれば、過去に同じように起こった地震の“痕跡”から、大きな地震が起きたときに『そこで何が起こっていたのか』を突き止めるのが、次善の策として最適なのではないかと考えました」(大坪さん)
──調査をおこなった宮崎県延岡(のべおか)市の海岸には、その“痕跡”が残されている。
「はい。数千万年前というたいへん昔のことですが、当時南海トラフ地震クラスの地震が起きた跡であると、多くの研究者によって支持されているのが『延岡衝上(しょうじょう)断層』です。延岡の海岸に露出しているこの断層は、南海トラフ地震のような地震が当時起こったプレート境界付近でできたものだといわれています。
現場に行ってみると、『石英脈』(石英によってできた鉱脈)がたくさんあるのがすぐにわかります。石英脈がたくさん残っていることから、水の研究をするのがいいのではないかと考えたのです」(大坪さん)
断層の物理学
──地震と水……。両者の関係は、素人には想像もつきません。そこに、さらに石英脈が加わってくるとなると、正直さっぱりです。
「石英脈は、かつてそこに水が存在していたことを示す痕跡なんです。延岡衝上断層の、特にメインとなる断層の周辺を調査すると、白い筋がやたらめったに見える。それらすべてが石英脈ですから、そこにはたくさんの水があったということを示しています」(大坪さん)
「写真中に『V(ベイン)』と書かれているのが、日本語でいう『脈』のことです。白い筋が石英脈ですが、石英脈は、岩石がパカッと割れたところに石英が入ったことを示しています。顕微鏡で見るとそれがわかる。ズレているのではなく、パカッと割れるということが、断層の物理学では非常に重要です。そういう箇所が数多く存在するのが、延岡衝上断層の特徴なんです。
シリカでできているクオーツ(石英)は地球の地殻の70%ほどをつくっている鉱物ですが、地震が起こる地下8kmから10kmでは、200~250℃という非常に高い温度環境においてシリカが水に溶け込んでいます。ここで地震が起こると、まわりの岩石が割れて、シリカが溶け込んだ水がその割れ目に入り込んでくる。そして、水が通る際には、シリカが石英として沈殿して隙間を埋めていきます。
つまり、石英脈の存在は、地震が起きた際に生じた亀裂に水が通ったことを示している。そして、大きな地震が起こる場所には、水がたくさんあることがわかっています」(大坪さん)
雨の日にタイヤがスリップしやすい理由
──地震と水が関係することは、以前から提唱されていることなんですか?
「はい。そのメカニズムを雨の日のドライブにたとえてみましょう。雨が降ると、道路がスリップしやすくなりますよね。それが示すように、水は摩擦を小さくします。
地震の場合も同様で、岩石と岩石のあいだの摩擦を小さくする水の存在が関連していることは、1960〜70年代には指摘されていました。実際に、延岡衝上断層には石英脈がたくさん残っていますので、地震を起こしやすい地下8〜10kmの場所に水が多く存在していたことがわかります」(大坪さん)
事件は“過去”の現場で起こっている
──数学や物理を駆使するお二人にとっても、現地調査はやはり重要ということですね。
「ええ。現場で何が起こっているのかを知ることは、必要不可欠です。人気刑事ドラマの名セリフと同じで、『事件は現場で起こっている』わけです。
ただし、刑事が捜査する事件とは、超えがたい大きな違いもあります。地震に代表される地球規模の現象は、『まさにいま起こっている地下の現場』を直接、見ることができないからです。したがって、どうしても『過去の現場』に頼らざるを得ません」(大坪さん)
「地震はもともと、『地中で岩と岩に力がかかってズレる』ことからスタートする現象です。一方で、岩どうしの圧力だけではなく、水圧というまた別の現象による影響にも、地震を引き起こす可能性があることに考えがいたると、力の研究というのは、岩石と水圧の両方に取り組む必要がある。そのことに、現場の石英を見て気づいたので、水圧を見ていこうという方針が生まれました」(宮川さん)
ポイントは圧力
──雨の日の道路のたとえで、水の存在が地震を引き起こしやすいことはわかりました。その際、水圧はどんな意味をもつのでしょうか?
「もう1つ、別のたとえでご説明しましょう。ゲームセンターなどにあるクラシックな遊具『エアホッケー』はご存じですよね。エアホッケーで互いに叩き合う『パック』は、なぜあんなに勢いよく滑っていくか、わかりますか?」(宮川さん)
──うーん、意外に難問ですね。単に叩いた勢いだけではないのはわかりますが……?
「パックがあれほど勢いよく滑るのは、台の下から空気を出して、パックを浮き上がらせているからです。強力な空気の圧力で浮き上がったパックは、台との摩擦によって減速することなく勢いよく滑る。
もうおわかりですね。これを地震に置き換えると、パックが揺れる地盤、空気の圧力が水圧にあたるということです」(宮川さん)
──えっ! 水圧で地盤が浮いてしまうんですか!?
「大きな水圧がかかることで、さすがに岩を浮かすとまではいいませんが、ぴったりとくっついていた断層を引きはがすような力、すなわち水圧が大きな地震を引き起こす一因を担っているのだろうと考えています。
水圧が高く、岩と岩のあいだが開くほどの水圧が効いていた──。その痕跡が、石英として残っているということが、今回の私たちの研究の要点です」(宮川さん)
地震発生後の「水のふるまい」
──水圧と地震の関係を探る研究は進んでいるのですか?
「概念としては、地震に水を絡めたモデルは古くからありました。しかし従来のモデルでは、水圧は地震発生後に、いったん大きく下がるだろうと考えられていたんです。エアホッケーの例でいえば、パックがいったん浮いて滑った後は、空気による圧力を失って、パックが台上にペタンと落ちるイメージです。
ところが、断層のまわりに染み出した水の痕跡=石英脈を、長さや幅、向きなどからたんねんに調査してみると、断層が動いた後も、水圧はある程度、残ったままになっているのではないかということがわかってきました」(大坪さん)
「もし、地震の後の水の圧力の変化が大きくなるようなら、残った石英脈の幅が広かったり、長さのばらつきが大きくなっていたりするはずです。しかし、それがある程度の長さや幅に収まっていたり、方向がそろっていたりする。
すなわち、石英脈の厚さや長さ、向きによって、『過去の地震でどういう力が働いたのか、どのくらいの水圧があったのか』を追跡することができるのです。それをモデル化していきました」(宮川さん)
──この図に示されているように、大地震が起きたからといって、割れた断層近辺の水圧が、従来考えられていたほどには下がらないことはわかりました。その状態のまま、次の大地震を迎えるのでしょうか。
「地下8kmあたりでは地震が起きたときの水圧の最大値──約210MPa(メガパスカル)から、約80MPaぐらいまで下がるだろうと考えられていたのですが、どうやら約10MPa程度しか下がらずに、次の地震が来るのではないかと推測しています」(大坪さん)
地震の発生間隔への影響は?
──なんだか恐ろしい話ですね……。それはつまり、南海トラフ地震の周期が短くなるということですか?
「そうではありません。地震発生の周期は、古文書にも残っているように、100〜200年ごとに起こることに変わりないんです。
今回の研究からいえるのは、一般的に、大きな地震の後には、滑った地中の水はパッと散ってしまって水圧が大きく下がると考えられていたのが、じつはそうではなかったということです。先ほどのたとえでいえば、地震周期のあいだ、エアホッケーのパックはずっと浮いたままだった。つまり、ちょっと押してやるだけで、すぐにまた滑り出すことがわかったのです」(大坪さん)
──水圧がかかりつづけていることが、地震の周期に関係しているわけではない、と。少し安心しました。
「水の圧力の変化の大小によって、地震の周期が長くなったり短くなったりすることはないだろうと予想しています。100年だろうが1000年だろうが、地震が起こる断層のまわりの水圧自体には、さほど変化がないのだろう、と」(大坪さん)
地球科学の専門家も見解を変えつつある
──水圧があまり下がらない状態で100年もつづくということは、私たちが日々暮らしている足元の地面は、想像している以上に不安定ということですね。
「そのとおりです。私たちを含む地球科学の専門家たちもいま、地面はものすごく不安定なのではないかと考えはじめています。古文書に残るような大地震だけでなく、もっとひんぱんに、小さな地震とかゆっくりした地震(スロー地震)が観測されるようになってきています。
大きな地震が起こるようなエネルギーの蓄積には、地面の変形がともなわなければいけないので、そのためには時間がかかる。それが100年とか1000年の周期につながっているんでしょうね」(宮川さん)
地震予測実現への期待が高まった
──10MPaの水圧変化が計測できれば、地震がいつ、どれくらいの規模で起こるのかが予測できるのでしょうか?
「はい。水圧計を地震が起こるような地中に埋めて、常時計測することが可能になれば、十分に可能だと思います」(大坪さん)
──たとえば南海トラフの場合には、海底からどれくらい掘るイメージですか?
「海底から6kmくらい掘り進んで設置する必要がありますね。じつは、こういったプロジェクトはすでに進んでいます。掘削船『ちきゅう』で南海トラフ地震が起こるような海底を掘り進んで岩石を採りながら、そこに水圧に限らず、さまざまなセンサーを設置しようという研究が進められているんです」(大坪さん)
──2018年から19年にかけて、海底下2800mまで掘ったプロジェクトですね。
「そうです。そのときは予想以上に海底下の岩盤が固かったりしたことで、目標地点まで掘り進めることができなかったのですが、次のプロジェクトが立ち上がれば、水圧計測についても提案できるのではないかと期待しています」(大坪さん)
「地球の息づかい」をとらえる
──大坪さんは「地球の健康診断をしたい」と仰っています。水圧の変化をモニターする試みは、まさに健康診断といえますね。
「ええ。水圧に限らず、何かしらの変化というのはすべて、『地球の息づかい』だと考えています。だから、その1つの候補がとらえられたというのは、私たちが長年、手がけたかったことの1つではありますね。
私たちは地球の上で生活していますが、多くの人が日常で考えていることは、経済や政治、生活そのもののことだと思います。でも、地球の息づかいを知ることは、地上に暮らす者として欠かすことのできない重要性をもっている。特に、日本のような地震大国はなおのことです。
そうすると、どうしても精度の高い地震予測を期待されると思いますが、残念ながらなかなかそこまでは到達しない。水圧がどこまで高くなれば、地震が起こる条件が揃うといえる可能性は高まりましたが、それが『いつ起こるのか』を予測するのは、まだまだ難しいというのが正直なところです」(大坪さん)
「地球の味」を味わう!?
──断層調査に出向かれた際には、採取した粘土でお猪口をつくると聞きました。
「はい、そうなんです。断層がズレたところの岩は脆くなるのですが、そこには、かなりきめ細かい粘土ができるんです。断層調査をおこなうたびに、そこで採った粘土でお猪口をつくって遊んでいます。
花崗岩の断層でつくると白いお猪口に、蛇紋岩でつくれば緑色の粘土になります。その場所の地質によって、お猪口の色はさまざまに変化する。色とりどりのお猪口でお酒を飲めば、地球の味がするんじゃないかと思って(笑)」(大坪さん)
──実際には、どんな味がするんですか?
「残念ながら、下戸なんです(笑)。だから、味わったことがない。
ちなみに、陶芸の専門家からはダメ出しをくらいました。断層によってできた粘土は非常に細かい粒になっているので陶芸向きではあるのですが、粘土を十分にこねる空気抜きをしていないので、『このまま焼くと割れるよ』と(苦笑)。勉強不足でした」(大坪さん)
──今後はどのような研究に取り組みたいと考えていますか?
「今回の研究で、水圧の変化に関する新たな問題提起はできたと思うのですが、それがスロー地震とどう関係するのかという研究に取り組んでみたいですね。それから、次の『ちきゅう』の航海があれば、ぜひとも地震の巣まで掘るプロジェクトに参加して、水圧の変化を調べたり、地下でできたての石英を見たりすることができたらいいなと考えています」(大坪さん)
地球を研究する醍醐味
──“できたての石英”?
「岩石をつくる鉱物は通常、万年単位の年月をかけてできるものです。ところが地震が起こるような地下では、石英脈は、水から沈殿して石になるのに約50年しか要さない。地震によって亀裂ができた岩石に、シリカが溶け込んだ圧力の高い水が勢いよく入ることでできるからです。
前回の南海トラフ地震が起きたのが1946年なので、いま掘れば、1946年の地震でできた亀裂を埋めた、できたてほやほやの石英が取れるんじゃないかと目論んでいるんですよ(笑)」(大坪さん)
──海底から5〜6kmほど掘り進めるのも大変ですね。
「半径6000kmの地球からすれば、ほんの薄皮一枚なんですけどね」(大坪さん)
──地球そのものを研究する醍醐味とはなんでしょう。
「地球は、じつに複雑なシステムです。地震のように一瞬で起こる現象もあれば、何万年もかけて岩がつくられていく悠久の過程もある。短い時間のスケールから長い時間のスケールまで、目を配る必要があります。
また、鉱物のように非常に小さな世界から地球全体までと、スケール感の違いもあり、最近では、生物の動きが地球に大きな影響を及ぼしているともいわれています。その複雑なものを対象にして、自分ができることに取り組むことが面白さの1つですね」(宮川さん)
過去の地球から未来を見る
「地球の研究の中で過去を知ることは、たとえてみれば紙芝居を後ろから順に見ているようなものです。現在から順を追って過去へと遡っていって、地球の姿をひもといていくこと。地震や火山の噴火も、地球上でいま初めて起こっていることではなくて、過去にも当然起こってきた現象です。
過去を見るということは、未来を見るのと同じことなのです。時間を巻き戻したり先に進めたりしながら地球をつぶさに観察できるというのは、地球科学の魅力の1つだと思います。
日本でひんぱんに起こる大地震にしても、人類が初めて経験することばかりではなく、過去に同じような経験をしていまがある。同時に、将来もまた、同じような現象は必ず起こるのです。そのときのために、『地震というものはこういうふうに理解すればいいですよ』というメッセージを残せればいいなと考えているんです」(大坪さん)
「地球の健康診断」を目指す2人のチャレンジは、これからもつづいていく──。