『ひずみ計』
活断層・火山研究部門板場 智史Itaba Satoshi
ひずみ計を搭載したこの筒が地中深くに埋められている
日本は世界有数の地震国だ。地震はいったいなぜ、そしていつ起こるのか。人々の大きな期待を背負い、多くの科学者が地震のメカニズム解明と予測に挑んでいる。その中で2000年代初頭、通常の地震よりもはるかに遅い速度でプレートがずれ動く「ゆっくりすべり」が発見された(ゆっくりすべりについては17ページを参照)。この現象が、巨大地震と関連があるのではないかと考えられている。
この「ゆっくりすべり」による地盤のわずかな伸び縮みを捉えるため、活断層・火山研究部門の板場智史は、日本から米国までの距離(1万 km)がわずか1 cm変わった程度でも捉えることのできる超精密なひずみ計を使い、研究を行っている。
「ひずみ計」の内部の筒は岩盤の伸び縮みに応じてわずかに歪み、直径が変化する。テコの原理を利用して変化量を約30倍に拡大し、地殻のわずかな動きを検出するという仕組みだ。これを、深さ約600 mに掘った井戸(ボアホール)の底に設置する。
ここで重要となるのは、いかに正確に観測するか。高精度なモニタリングを実現したうえで、データ解析をする必要がある。そのため、超精密ひずみ計を岩盤のひび割れや地下水流動の影響を受けないよう埋設する技術や、より正確に位置を管理する手法、ノイズを分離する手法などを開発。その結果、地下深部のナノメートル以下の変位を安定して検出できるようになった。
産総研は、広範囲でゆっくりすべりを高精度かつ迅速に検知するため、東海・紀伊半島・四国地方の18地点でひずみを観測している。これまでも国の機関に解析結果やリアルタイムデータの提供を行ってきたが、2020年6月25日から気象庁の常時監視網に正式に加わったことで、検知したゆっくりすべりに関する情報をすばやく発表することが可能な体制となった。さらに正確な発生様式を把握するため、今後も観測地点を増やしていく予定だ。現在、埋設コストを抑えながら観測地点を増やすために、使用されていない温泉井戸などの再利用や、そのような細い穴にも対応できる小型のひずみ計(直径66 mm、長さ約3 m)の開発を進めており、未使用だった温泉井戸を用いてゆっくりすべりの検出に成功している。
板場が地質の研究者を志したのは、 阪神淡路大震災の当時、横倒しになった高速道路のすぐ近くに住んでいたという経験が強く影響している。地球の怖さを実感した一人としても、地震研究の最前線にいる研究者としても、地殻変動の観測データを蓄積して地震予測につなげ、防災に役立てていきたいと、強く思っている。