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タンデム型太陽電池とは?

タンデム型太陽電池とは?

2024/07/24

#話題の〇〇を解説

タンデム型太陽電池

とは?

科学の目でみる、
社会が注目する本当の理由

    30秒で解説すると・・・

    タンデム型太陽電池とは?

    タンデム型太陽電池は、2つ以上の太陽電池を直列に並べて、それぞれが得意な波長を吸収することで太陽光を有効に利用し、太陽エネルギーをより大きな電気に変換できるようにした太陽電池です。現在主に用いられているシリコン単独の太陽電池の発電効率は一般的に20 %程度ですが、30 %まで引き上げることができればその発電量は1.5倍になります。そこで現在、最も高い発電効率を持つ化合物半導体を使った太陽電池と、最も普及している低価格のシリコン太陽電池を重ね合わせた、タンデム型太陽電池の開発が活発化しています。また、最近注目を集めているペロブスカイト太陽電池とシリコンをタンデムにする研究も盛んです。

    2050年カーボンニュートラル実現という目標に向けて、再生可能エネルギー導入の拡大が不可欠です。その中心となるのが太陽光発電。日本の太陽光発電の導入量は、2022年末の段階で中国、米国に次ぐ世界第3位となっています。しかし、現在の太陽光パネルの主力であるシリコン太陽電池では太陽光の波長の全てを電気に変換することはできず、発電効率の向上が求められています。そこで他の材料を用いた太陽電池と接合することで、同じ面積でより多くの電気を作り出せる「タンデム型太陽電池」の技術が注目されています。タンデム型太陽電池の開発動向について、ゼロエミッション国際共同研究センター(GZR)多接合太陽電池研究チームの菅谷武芳研究チーム長に聞きました。

    Contents

    タンデム型太陽電池とは?

    シリコン太陽電池と化合物太陽電池やペロブスカイトを積層

     タンデム型太陽電池のタンデムとは、もともと2頭の馬を横並びではなく縦につなげた馬車を語源とし、そこから転じて自転車やオートバイの2人乗りもタンデムと呼びます。タンデム型と呼ぶ太陽電池は、2種類以上の異なる材料の太陽電池を直列に接続したもので、シリコンやCIS(銅・インジウム・セレンの化合物)などのバンドギャップの比較的小さな材料に、バンドギャップの大きいペロブスカイトやⅢ-V族の化合物半導体を積層して効率アップしたものです。シリコンなどと化合物半導体やペロブスカイトの2層だけでなく、太陽光の波長を幅広く活用するために3層や4層、さらに6層まで直列に多接合したⅢ-V族化合物半導体太陽電池も研究されています。

     一般的な太陽電池はシリコンを材料としています。しかし、幅広い太陽光の波長の中でシリコンが効率良く光を電気に変換できる領域は限られており、その波長以外の光は熱として吸収されたり、また一部は透過してしまいます。これらの利用されない波長の光を受け止めて電気に変換できれば、その分の光を有効活用して変換効率をアップできることになります。そこで、シリコン中で熱になる短波長の光を吸収できるペロブスカイトや、元素の周期表でⅢ族とⅤ族から成る化合物半導体を用いた太陽電池との接合が進められています。Ⅲ-Ⅴ族化合物半導体は材料によってさまざまなバンドギャップを取れるので、インジウムガリウムリン(InGaP)やガリウムひ素(GaAs)はシリコンの上部に接続されるし、バンドギャップの小さいインジウムガリウムひ素(InGaAs)はシリコンの代わりにもなります。

    タンデム型太陽電池の図
    タンデム型太陽電池は、異なる素材でできたセルを重ね合わせることで、幅広い太陽光の波長を吸収して電気に変換できる。

    過酷環境に強いⅢ-V族化合物半導体系タンデム型太陽電池

     Ⅲ-V族化合物半導体系タンデム型太陽電池は、周期表のⅢ族(13族)とⅤ族(15族)の元素を組み合わせて作る太陽電池で、変換効率が高く、耐久性に優れるのが最大のメリットです。過酷な環境下で使用される人工衛星や惑星探査機などに搭載されています。24年1月に月面着陸に成功した日本初の小型月着陸実証機SLIMにもⅢ-V族系太陽電池が搭載され、注目を集めました。この太陽電池の構造は、最上層のトップセルにインジウムガリウムリン(InGaP)、中間のミドルセルにガリウムひ素(GaAs)、最下層のボトムセルにインジウムガリウムひ素(InGaAs)の3層で成り立っています。この構造で、モジュールとして変換効率32.7 %の世界記録を達成しています。

    ペロブスカイト系タンデム型太陽電池の開発競争も過熱

     現在、太陽電池の原料として注目されているペロブスカイト結晶は、鉛やメチルアミン、ヨウ素などの元素で構成されています。変換効率は年々向上して現在26 %程度となり、薄いフィルム状の太陽電池を作ることができ、軽くて曲げられるという特徴を備えています。ガラスと同じように硬いシリコン結晶で構成されたシリコン太陽電池に比べて軽量なので、耐荷重の限られる建物の屋根や自動車のルーフなどへの設置を目指して開発されています。しかも液状のペロブスカイトをフィルムに塗布するだけで、太陽電池ができるので低コストという点でも期待されています。(産総研マガジン ペロブスカイト太陽電池とは?

    ペロブスカイトの溶液を塗布して太陽電池を作る工程(産総研公式動画)

     そのペロブスカイト太陽電池をシリコン太陽電池と接合しタンデム型とすることで、一般のシリコン太陽電池にプラスして発電量を増やすことが可能です。このため、世界的にはシリコン太陽電池とペロブスカイト太陽電池を接合したタンデム太陽電池の開発競争が過熱しています。

     しかしペロブスカイトを使ったタンデム型太陽電池は、シリコン単独の太陽電池に比べ耐久性が低いため、タンデム型として長期間の使用に向かないという欠点があります。現在耐久性向上の研究が世界中で行われており、その開発が実用化のカギとなるでしょう。

    Ⅲ-Ⅴ族系タンデム型太陽電池の普及に向けた課題

    材料、製造のコスト高が最大の課題

     Ⅲ-Ⅴ族化合物半導体系タンデム型太陽電池は、人工衛星や惑星探査機などですでに実用化されているように、耐久性や信頼性の高さは証明されています。しかし、高コストでも性能が重視される宇宙開発用途と対極にあるのが、再エネ拡大の需要。現在は、シリコン太陽電池が大量生産により価格が下がり、事業所や家庭での普及が加速しているのが現状です。

     Ⅲ-Ⅴ族化合物半導体系タンデム型太陽電池が普及するためのカギとなるのはコストです。希少金属であるインジウムや、産出国の輸出制限で調達が難しくなるリスクのあるガリウムを用いているため、コストは安定しづらくなります。それに加えて、これらの金属を使った高品質な単結晶を作るためには非常に高い技術が要求され、それが高コストになる要因です。そのためコストを度外視しても耐久性や信頼性、超高効率という性能が必要とされる宇宙開発用途に限られてしまうわけです。

    実用化で期待されること

     日本での乗用車の1日の走行距離は20-30 ㎞程度が約7割とされる調査結果があります。自動車メーカーの研究結果では、よく晴れた1日の充電量で50 ㎞以上の走行を可能にするには、EVに変換効率35 %を超えた1 kW以上の太陽電池モジュールを搭載する必要があります。これが達成できれば、日本の自動車ユーザーの大半が太陽光エネルギーのみで、走行できるようになるといえるでしょう。

     しかし実際に自動車に搭載する太陽電池モジュールで変換効率35 %を確保するためには、一つ一つのセルでは38 %程度が最低でも必要となります。そこで、超高効率のⅢ-V族化合物半導体系太陽電池を使えるようになれば、変換効率も耐久性もEVの通常使用に十分なスペックを実現できるといえます。

    産総研の取り組みと未来の展望

     超高効率のタンデム型太陽電池を低コストで実現できれば、宇宙開発用だけではなくその性能を生かして、地球上でもいろいろな用途に応用できるでしょう。住宅や倉庫の屋根などに設置されるシリコン単独の太陽電池と比べれば、どうしてもコスト高になりますが、EV用などには搭載が期待でき、実際に研究開発も進められています。

     産総研では、低コストでの製造を可能にするための技術開発を進めています。結晶成長に安価な金属塩化物を使用して高速で結晶成長させることでコストを下げられるハイドライド気相成長法と呼ばれる方法を使用したり、基板となるGaAs層を剥離して、高価なGaAs基板を再利用したりできる技術などを開発しています。また、金属ナノ粒子を配列させてそれぞれの太陽電池層を接合する独自の「スマートスタック技術」も開発し、高効率の太陽電池セルを開発しています。

     世界でも、Ⅲ-V族化合物半導体系太陽電池を使ったタンデム型太陽電池の開発を手掛ける企業や研究機関は限られています。さらに産総研の別のチームでは、ペロブスカイト太陽電池のタンデム化や性能向上に向けた開発、性能評価のための研究にも取り組んでいます。

     複数のチームで異なるタイプのさまざまな太陽電池の研究開発を進めているのも、他の企業や研究所ではあまりない特徴です。最先端の多様な研究を進め、高効率タンデム型太陽電池がより安価で便利に使えるように実用化を進めていきます。

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