水素エネルギーとは?
水素エネルギーとは?
2023/04/19
水素エネルギー
とは?
―水素が注目される理由―
科学の目でみる、
社会が注目する本当の理由
水素エネルギーとは?
カーボンニュートラル社会実現のためのキーテクノロジーとして期待される「水素」。水からつくることができ、燃焼してもCO2を排出しないエネルギーです。気体、液体、固体などさまざまな状態で貯蔵・輸送が可能で、高いエネルギー効率、低い環境負荷、非常時の利活用が見込まれ、カーボンニュートラル時代において中心的な役割が期待されています。
水素エネルギーが環境には良いようだ、とわかっていてもすぐに普及できないのにはいくつか理由があります。最大の理由は、化石燃料ありきでつくられている現代社会において、インフラや制度などを含め、ゲームチェンジともいえるほどのさまざまな変化が必要となることです。安全で経済的な水素社会へ移行するためには、水素の「製造」「貯蔵・輸送」「利用」という水素サプライチェーンの構築とその高効率化、低コスト化が不可欠です。特に、国際社会との競争を見据えて対応が急がれている水素の製造を中心とした各個別技術の概要や、今後の課題について、ゼロエミッション国際共同研究センター水素製造・貯蔵基盤研究チームの高木英行研究チーム長と、再生可能エネルギー研究センターの難波哲哉副研究センター長に話を聞きました。
1 水素エネルギーとは
日本の水素エネルギー戦略とは
2011 年 3 月 11 日に発生した東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所の事故を受け、日本のエネルギー事情は大きく変化しました。2017年には、日本は世界に先駆けて「水素基本戦略」を策定し、水素を再生可能エネルギーと並ぶ新しいエネルギーの選択肢として位置づけることを示しました。この時点では、まだ世界中のどの国も、水素の国家戦略は策定していませんでした。そして、2020年に当時の菅首相が「2050年カーボンニュートラル」を宣言し、その後「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」が策定されました。
「グリーン成長戦略」では、産業政策・エネルギー政策の両面から、成長が期待される14の重要分野について実行計画が策定されており、そのうちのひとつに水素があります。水素は、直接的に電力分野の脱炭素化に貢献するだけでなく、余剰電力などを水素に変換して貯蔵・利用することで、再生可能エネルギーなどのポテンシャルを最大限活用することもできます。
水素エネルギーの社会実装に向けて
そのためには、まず安価で大量に水素を製造できる技術を導入し、水素の高効率な輸送を可能にするサプライチェーンを構築し、さらに発電や燃料電池自動車(FCV)、産業利用などで水素を大量に利用する流れをつくらなければなりません。
産総研では、水素の「製造」「貯蔵・輸送」「利用」「評価・安全」と、関連するほぼすべての研究を行っています。その中でも、研究所として、技術導入に向けたシナリオ分析や評価などを行う部隊を持っていることは強みといえます。それぞれの技術に関する研究が個別に集まっているだけでなく、最先端の技術が実社会でどう使われていくのかまでを想定し、連携しながら研究開発に取り組んでいるところです。(関連記事:「2050年カーボンニュートラル」の実現に向けて)
2 水素エネルギーの個別技術
産総研が取り組む水素関連技術
水素社会実現に向けて必要とされる各技術のうち、貯蔵・輸送や利用に関する技術については日本が現段階でも強みを発揮しているところです。一方、再生可能エネルギーから安価で大量に水素を製造することについては、日本は世界に比べて少し遅れてしまっているのが現状です。要素技術のレベルは高くても、社会実装の段階では、国により法規制に違いがあることも影響を与えています。日本では、世界各国と同様に、より大規模なシステムの構築や社会実証に向けた取り組みが求められています。
水素製造技術のうち、産総研では人工光合成を用いた製造方法、メタン熱分解によるCO2を副生しない製造方法、水電解による製造方法の3つに主に取り組んでいます。
人工光合成について、さまざまな視点で研究がおこなわれていますが、そのひとつとして、水素製造だけでなく有用化学品「も」作れる製造方法として実装を目指しています。(関連記事:人工光合成とは)
メタン熱分解による水素製造は、触媒を用いてメタンから水素と固体炭素を製造するもので、近年ヨーロッパなどでも注目されています。産総研では、触媒開発だけではなく、流動層やロータリーキルンなどの反応器を含めて所内で連携して研究開発をし、実装に向けて研究を進めているところです。(関連記事:CO2排出ゼロへ!未来のエネルギー技術)
水を電気分解して水素を製造する方法はいくつかありますが、政府のグリーンイノベーション基金では、アルカリ溶液をもちいるアルカリ型水電解と固体高分子(PEM)型水電解装置の大型化・モジュール化などが進められています。産総研では、製造技術の研究もおこないつつ、これら水電解装置の大型化や高圧化、さらには条件がまったく異なる海外での利用ができるかなどの評価手法について取り組んでいます。現時点では、単独施設での製造量などで海外に遅れをとっているところもありますが、安全に、大型かつ安定した水電解装置をきちんと評価できる手法を確立し、国際標準化に向けた提案を通じて、市場で存在感を示せるのではないかと考えています。
水素製造以外でも、産総研ではほぼすべての水素関連技術について研究を行っています。その中でもCO2フリー燃料として期待が大きいアンモニア製造や、法規制がより厳しい気体状態ではなく固体として水素を貯蔵する水素吸蔵合金を利用した水素利用システムなどは、企業と連携した社会実装への取り組みが進んでいる分野です。(関連記事:再生可能エネルギーからCO2フリーのアンモニアを大量製造、CO2フリー水素を街で安全に使いこなす)
最近は、グリーンイノベーション基金事業で企業と連携して、水素とCO2からメタンを作るというメタネーションの研究も実施しており、合成燃料の分野でも、活発に研究開発を進めています。これらの技術については、個別の研究として詳しく紹介できる機会があればと考えています。
カーボンニュートラル社会に向けて変化が求められている
エネルギーは、日々の生活において不可欠であり、技術開発への期待は更に増しています。一方、エネルギー関連の業界は、カーボンニュートラルへの対応もあり、非常にシビアな局面に置かれているといえます。現在の社会は、化石燃料を中心に整えられ、最適化された効率的な運用がなされています。しかし、カーボンニュートラルを目指すためには、これらを根本から変えなければならず、特に海外の化石燃料への依存度が高い日本では、業界の動きも大きく変わっていかざるを得ないと考えられます。海外では、エネルギーの分野でも、スタートアップ企業の技術を大手企業などが買って使っていくという循環がうまれているところもあるようです。日本の業界は、国内で、また業界内で解決していくような傾向が強かったところもありますが、カーボンニュートラル社会の実現に向けては、業界を越えた連携など、更なる変化が求められるでしょう。
産総研には、国のプロジェクトを中心にラボレベルだけではなく、社会実装を目指した技術開発、水素関連技術の利用拡大、海外市場への参入に向けた開発、制度構築に向けた提案など、やるべきことが広くたくさんあります。カーボンニュートラル社会の実現に向けて、これまで関わってこなかった業界や分野を含めて、さまざまな企業の皆様が、水素関連技術に関心を持ってくれればと思います。