ウェルビーイングとは?
ウェルビーイングとは?

2025/02/26
ウェルビーイング
とは?
―科学技術で計測・評価して向上させることができるか―
科学の目でみる、
社会が注目する本当の理由
ウェルビーイングとは?
ウェルビーイング(Well-being)とは、「心身の健康や社会的な充足感が満たされた状態」のことといわれています。ウェルビーイングを高めることは個人の生活を豊かにするだけでなく、企業における従業員の定着率や生産性の向上や自治体における住民の定住率の向上などにつながるという研究データもあり、現在注目を集めています。さらに、AIを活用した健康診断やウェアラブルデバイス、インターネットによる社会的つながりの促進といった科学技術が、ウェルビーイングの向上に大きく貢献することもわかっています。
近年、国・地域の豊かさを表す指標としてGDP(国内総生産)などの数値のほか、主観的な豊かさを示すウェルビーイングの概念が重視されるようになりました。そして科学技術を適切に活用することで、個人や組織、社会のウェルビーイングをさらに高めることが可能になってきています。ウェルビーイングの概念や最新事情について、情報・⼈間⼯学領域の佐藤洋副領域長に聞きました。
ウェルビーイングとは
ウェルビーイングの構成要素
ウェルビーイングは、「身体的な健康」「精神的な健康」「社会的充足感」という3つの要素がすべて満たされている状態のことを指します。1946年に採択された世界保健機関(WHO)憲章で初めて登場した言葉ですが、近年は日本でもウェルビーイングの概念が盛んに用いられるようになりました。
「身体的な健康」とは、けがや病気などの問題がないことであり、医療やヘルスケアの分野で活発に研究が行われています。「精神的な健康」は、個人の資質や身体状況、職場環境、対人関係などにも強く影響されるもので、主に心理学の分野での研究が進んでいます。なお、けがや病気をしていても、その人が日常生活を送るうえで支援が得られたり代替手段でカバーできたりしている場合は健康と定義しています。
「社会的充足感」がどういうものかを定義するのは難しい面がありますが、人々がどんなインセンティブ(誘因)で動くのか、どんな行動変容が起こるのか、経済的に満たされた状態であるかといった様々な分野での研究が行われています。
ウェルビーイングとは、身体的・精神的・社会的に全てが満たされた状態のこと。
それらの3要素を模式的に表した図。
科学技術が私たちの幸福感に与える影響
科学技術は、人々の暮らしを便利に、より良くするために存在しています。最新技術やデジタルツールによって不可能が可能になり、達成できる物事が増えることは、身体的・精神的・社会的に満たされた状態、すなわちウェルビーイングに大きく寄与します。
しかし、例えばスマートフォンはとても便利なツールですが、それが当たり前になっていくと、得られる恩恵よりもスマホ中毒や情報流出といったマイナスの側面が目立つようになります。科学技術に携わる研究者は、どのように社会が良くなり、どのように人々が幸福を感じるのかをよく考え、それにより生じるマイナス面にも目を向けながら技術を開発していく必要があります。
ウェルビーイングを支える注目の科学技術
身体的ウェルビーイングに関する技術
身体・精神・社会というウェルビーイングの3要素において、個人の状態を計測可能な形にして客観的に認識できるようにすることが、科学技術の大事な役割です。身体的ウェルビーイングに関する研究で製品化されているものには、運動量や心拍数などを測定して健康管理を行うウェアラブル端末、遠隔で対応するオンライン診療システム、安全な労働環境を支援する人工知能(AI)ソリューションなどがあります。(産総研マガジン「生体機能計測とは?」)
精神的ウェルビーイングに関する技術
精神的ウェルビーイングに関する科学技術には、脳波などを測定してストレスを推定するウェアラブル端末、不安の軽減をサポートするアプリやサービス、オンラインカウンセリングなどがあります。また、体の動きや表情、脳の活動などからメンタルの状態を把握してAIで分析し、具体的な改善活動へとつなげていくソリューションも開発されています。(産総研マガジン「AIと感情」)
人々のウェルビーイングを継続的に支えるためのシステムの一例。個人の行動データや感情の状態をモニタリングしたり、社会的なつながりを維持して最適なサポートを行うことが可能になる。
これからのウェルビーイングに向けて
注目されるウェルビーイングの「ガイドライン」
産総研では人間拡張研究センターにて、ウェルビーイングを実現するデバイスとそれらを活用するサービスの開発に取り組んでいます。人間が科学技術でできることはどんどん増え、ますます便利になってきています。ただし、せっかく優れたデバイスを開発しても、各々が使い方や目的を正しく設定しなければ、そしてそのようにできるようなサービスが提供されなければ、うまく使いこなすことはできません。
ウェルビーイングにおいても、その定義や思い描く内容が人それぞれ大きく異なることが、組織における目標の設定や評価を難しくさせていました。そうした背景から、組織でウェルビーイングに取り組む際に役立つガイドラインを日本の主導で開発し、2024年11月に発行しました。これは国際標準化規格(ISO)25554の「高齢化社会―地域や企業等でウェルビーイングを推進するためのガイドライン」というもので、これまで様々な規格の標準化を推進してきた、私たち産総研が開発のけん引役を務めました。(2024/12/09プレスリリース)
世界共通で実践可能なガイドラインにするべく、あえて今回はウェルビーイングの定義を決めず、実行する組織側が定義するようにしました。組織は自分たちの状況に応じて成果や評価指標を定めて取り組み、達成状況を見ながら改善を繰り返していくことになります。「指標を自分たちで決める」という性質上、取りかかることが難しいと感じる人も多いかもしれません。そのため、私たちは産総研コンソーシアムであるHCMIコンソーシアムにおいて、COCN提言(2016年度)の流れを汲んで、現在、働きがい・健康・働きやすさの達成度を具体的に測る「QoW(クオリティ・オブ・ワーキング)指標」を今年の公開を目指し開発しています。また、自治体や企業の好事例を提示したり、勉強会を開催したりすることで広く理解を促し、普及を目指していきます。
ウェルビーイング実現に向けた今後の展望
企業や地方自治体がウェルビーイングを実現するためには、「健康経営をしたい」「地域の幸福度を上げたい」といった自らのゴールを設定し、実現に向けて取り組むことが非常に重要です。そのため私たち産総研は「株式会社AIST Solutions」(略称AISol)やHCMIコンソーシアムなどとともに、先述のウェルビーイング推進のガイドラインの社会実装に取り組んでいます。今後はウェルビーイングの取り組みへのハードルを下げるツールや、PDCAサイクルによる自動的な評価・改善を行うデジタルシステムなど、より取り組みやすくするための技術を開発して、みなさんが活用できるように提供することで、社会全体のさらなるウェルビーイング向上に貢献したいと考えています。こういった取組にご関心のある方はぜひお問い合わせください。