さまざまな組織でウェルビーイング(wellbeing)の推進を実践するために推奨される枠組みを示す国際規格ISO 25554:2024 「高齢化社会―地域や企業等でウェルビーイングを推進するためのガイドライン」(以下「本規格」という)が11月12日に発行されました。日本の事例として企業の健康経営®や自治体施策も紹介されています。本規格の発行によって多くの組織で活動が活性化され、人々のウェルビーイングを第一とする「ウェルビーイング重視社会」の実現に向けた第一歩となることが期待されます。
世界的に高齢化が進むなか、年齢に関わらずウェルビーイングの維持・向上が国際的に重視されるようになりました。それに伴い、GDPなどの経済統計に代わり、人々の生活の質や豊かさを捉え評価するための指標開発の動きも活発化しています。日本でも、地域包括ケアシステムをはじめとする地域共生社会や従業員等への健康投資を行う健康経営などさまざまな施策が実施されてきました。しかし、これらの多様な取り組みに対して、どうやって計画し、評価・改善していくのかという実践方法は共有されず手探りの状況でした。
国際標準化機構(ISO)の専門委員会(TC) 314 “Ageing societies”(幹事国:英国、議長国:米国)は2017年の設立以来ウェルビーイングを重要な課題の一つとして位置づけてきました。これに呼応し、日本の健康経営の普及推進活動で実績のある一般社団法人社会的健康戦略研究所とISO/TC 314 国内審議団体を務める一般財団法人日本規格協会が連携し、国立研究開発法人 産業技術総合研究所と協力してウェルビーイング規格の開発を提案しました。
この提案を受け、ISO/TC 314 高齢社会対応標準化国内委員会 (委員長:東洋大学 山田 肇 名誉教授)のもと対応委員会が設置されました。同委員会では一般社団法人 社会的健康戦略研究所 浅野 健一郎代表理事が委員長を務め、学識経験者や医療関係者などの幅広いメンバーが議論を重ね、国内の意見をとりまとめました。
ISO/TC 314ではWG 4 “Wellbeing”という作業グループが設置され、国立研究開発法人産業技術総合研究所 佐藤 洋副領域長がWG コンビーナ(議長)およびプロジェクトリーダーを、一般財団法人 日本規格協会 水野 由紀子主席専門職がWGセクレタリをつとめ、2021年から本規格の開発が進められました。このプロジェクトには日本をはじめカナダ、スウェーデン、フィンランド、中国、オーストラリアなど約20ヵ国の専門家が参加し、活発な議論が行われました。
開発当初は、対象者や推進領域をどう定めるかについてさまざまな意見が交わされました。議論を重ねる中で、「ウェルビーイングは多義的で文化や背景によっても異なる」という認識を共有し、「取り組むべきウェルビーイングの領域は各組織が定める」という方向性となりました。こうして本規格は、多様な組織において実践可能な枠組みを提示する、ウェルビーイング推進のための世界共通のガイドラインとして発行されるに至りました。
本規格により、世界中の組織が自らの状況に応じてウェルビーイング向上に取り組む基盤が整いました。
一方で本規格は多様な組織が活用できるように、抽象度の高い内容となっています。そのため、本規格の理解と普及を目的に、世界各地の事例を紹介する技術報告書の開発が ISO/TC 314/WG 4で進められています。これにより、規格の具体的な活用方法を広く共有し、持続可能な「ウェルビーイング重視社会」の実現を目指します。
さらに、本規格の利活用を通じて、ウェルビーイング分野への投資を促進し、ヘルスケアや関連サービス市場を拡大することで、日本の関連産業の発展にも寄与します。
規格の概要
ISO 25554:2024 Ageing societies – Guidelines for promoting wellbeing in communities
高齢化社会―地域や企業等におけるウェルビーイング推進のためのガイドライン
本規格は、地域や企業等あらゆる規模・性質の組織を対象に、組織とそこに属する一人一人のウェルビーイングを推進する取り組みを支援するためのガイドラインです。また、このガイドラインに沿った日本の事例として健康経営や自治体の取り組みの好事例、デジタル技術活用の概要も紹介されています。
本規格では、取り組むべきウェルビーイングの領域を地域や企業等それぞれの組織が明確に定めて活動することを推奨しています。また、その内容は世界保健機関(WHO)におけるヘルシーエイジングの理念やSDGs(持続可能な開発目標)における「誰一人取り残さない」という理念に則したものであることを前提としています。その上で、以下のようにウェルビーイングを推進するための実践方法を示しています。例えば、
- 取り組みを構成する主要な要素(誰を対象とするのか、何を具体的な成果として目指すのか、そのために何をするのかなど)の設定
- 実践するために推奨される工程(計測、評価、改善など)の設定
があげられます。加えて、データマネジメントをはじめとする、組織として留意すべき重要事項等も提示しています。
規格の購入方法
https://webdesk.jsa.or.jp/short/202411/01