デジタルツインとは?
デジタルツインとは?
2024/07/17
デジタルツイン
とは?
科学の目でみる、
社会が注目する本当の理由
デジタルツインとは?
デジタルツインとは、ツイン(双子)という表現のとおり現実空間のデータを集め、デジタル空間上に再現してもう一つの世界を作り、今起きていることの分析や将来起こることの予測を行うための道具です。デジタルツインはコンピュータによる高速処理、センシング、IoT、VR、3D関連など、多数の技術を複合することで実現しています。その応用範囲は広く、製造、建設、物流、医療、農業など、さまざまな分野で、現実世界の管理や監視、効率化、自動化・自律化、将来予測などを可能にします。
ITやセンシング技術、通信技術の発展によって、現実空間のさまざまなデータの詳細な計測・収集と、それをデジタル空間に再現することが可能になりました。これがデジタルツインです。さらにAIやシミュレーションと組み合わせて、現実の対象を管理、制御、予測ができるようになっています。産総研では、デジタルツインをさまざまな産業で実装するために何が必要かを考えて、工場のような閉鎖環境だけでなく、都市や社会全体を対象とするデジタルツインの研究を続けています。デジタルアーキテクチャ研究センターの堤千明総括研究主幹、人工知能研究センターの中村良介総括研究主幹が解説します。
デジタルツインとは その注目される背景
デジタルツインとはなにか?
デジタルツインの厳密な定義は存在しませんが、一般には、現実空間にある物理的な対象のデータを収集して、これをデジタル空間にコピーし、もう一つの世界を作る手法です。目的はこのコピーを利用して、現実空間の対象(機器、設備、都市、地域、国など)の管理、制御、問題解決、予測などをデジタル上で行うことです。
例えば、航空エンジンの飛行中の稼働状況をデジタル空間に再現し、これを管理するためのシステムが挙げられます。デジタルツインで稼働の最適化、故障や不具合の予防、メンテナンスなどを行うことで、現実のエンジンに直接触れなくても、稼働中の実際のエンジンの状態を理解し、対応できるわけです。
デジタルツイン実現のための要素技術
デジタルツインを実現するにはさまざまな技術の向上と連携が不可欠です。基本的なコンピュータの計算処理能力が高まったことはもちろん、多種、多量のデータを収集するセンシング技術、そのデータをデジタル空間に送る通信技術、ARやVRなどの技術などが発展し、それらを組み合わせることで実現できるようになりました。
現実空間の計測技術としては、道路と周辺状況を車載のレーザースキャナーやカメラなどで3D計測できるMMS(Mobile Mapping System)や、航空機によるレーザー測距などが使われています。また、ここ数年で3Dスキャン技術が急発展し、専門家以外の人が低価格で利用できるようになりました。例えば、現在のスマートフォンの中にはユーザーが動画を撮影するだけで3Dモデルを作成できる機能を持つ製品もあります。このように技術全体の底上げによって、デジタルツインの普及は進んできました。ただ、収集できるデータの種類も量も豊富になったため、それらをどう統合するかが次の課題となっています。
デジタルツインのメリットと課題
デジタルツインで実現できること
工場のように管理された閉鎖空間では、外部からの変動要因がほとんどないため、デジタルツインを構築しやすくなります。例えば製造設備をデジタルツインで再現し、生産効率化や故障回避に役立てることができます。
現在では、屋外や野外などの一般空間でも収集できるデータが増え、例えば天気や人流の寡多といった時々刻々変動するデータを集められるようになり、工場のような管理された空間に近づけることができます。それにより、一般空間のデータを収集して環境変化をタイムリーに取り込んだデジタルツインが可能となり、変化の激しい複雑な状況に自ら対応するほどの性能がないロボットでも一定程度管理された空間と近い条件なら、それに合わせた指令によって作業できるようになります。これは自動運転パーソナルモビリティにも応用される技術です(産総研マガジン「パーソナルモビリティとは?」)。
また産総研が森林総研(国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所)と共同で進めている研究では、森林地域のデジタルツインを作成し、植生や路面状況を把握して、自律したロボットによる木材の伐採や運搬に活かそうとしています。
デジタルツインの課題
デジタルツインは、工場、物流、医療、都市計画、交通計画、災害復旧、考古学研究など幅広い分野で活用できると考えられています。
そこで重要な課題の一つは、時間軸を考えることです。現実世界は常に変化しているので、それに同期してデジタル世界も変化させないと「ツイン」にはならないからです。また、デジタルツインを使ってシミュレーションを行えば、将来の姿を把握し、そこから現実をどう変革すればよいかをデザインできるようになるでしょう。
考古学分野では、遺跡から都市や村落の過去の状況をシミュレーションで導いたり、開発などで破壊されることに配慮して、現在の遺跡の姿をデジタルツインの形で保存したりといった使い方もできます。産総研ではそうした目的で、国立文化財機構 奈良文化財研究所と共同で、「全国文化財情報デジタルツインプラットフォーム」を開発しました。(2022/10/18プレスリリース)
災害からの復旧、復興にもデジタルツインは役立ちます。どの道路を最初に開通させるのが最も効果的なのか、復旧後の人口集中や社会経済活動はどう変容するのかなどを、デジタルツインを用いたシミュレーションで予測すれば、それに基づいて復旧、復興計画を立案できます。
産総研の取り組みと将来の展望
デジタルツインのスムーズな利用のためには、技術開発とは別に、許認可、ライセンスなど、法制面の課題も解決する必要があります。ある地域のデジタルデータが整備されていても、ライセンス等の問題が整理されておらず、公開できていない場合もあります。産総研には、こうしたデジタルツインの活用に必要な仕組みの整備についても国や自治体に提言していく役割があります。 技術面では、汎用性の高いプラットフォームとしてのデジタルツインの構築をめざしています。そこから個別の企業や産業分野の方に、目的に合わせデジタルツインを活用していただくことを考えています。
これは、一口にデジタルツインと言っても、分野によって使用するデータの違いが非常に大きいからです。必要なデータの精度は、工場であればミリ単位、建設や農業であれば、センチ単位やメートル単位と変わります。求められるデータ更新の頻度も、交通量なら秒単位で必要ですが、建築物なら数年単位、森林なら数10年単位でも問題ない、と大きく違います。他の要素も分野によって異なるでしょう。
そのため、デジタルツインを活用するにはそれぞれの専門分野に合ったアプリケーションが必要です。民間企業の持つ独自のデータは公共機関には無い貴重なものです。企業の皆さんにデジタルツインに関心を持っていただき、一緒に研究開発を進めることで応用が広がると考えています。
今後注目する応用として、ロボット活用のためのデジタルツインがあげられます。デジタルツインを活用することで、現状より多くの場所・シーンでロボットを利用できるようになり人手不足への対応も可能になるでしょう。産総研ではこうした発想を共有できる企業の方々と連携しながら、デジタルツインの社会実装をさらに推進していきたいと考えています。