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産総研マガジン:話題の〇〇を解説

グリーンサステナブル半導体製造技術とは?

2024/06/19

#話題の〇〇を解説

グリーンサステナブル半導体製造技術

とは?

科学の目でみる、
社会が注目する本当の理由

    30秒で解説すると・・・

    グリーンサステナブル半導体製造技術とは?

    グリーンサステナブル半導体製造技術とは、半導体の製造に使う全ての投入資源を考慮して、そのCO2排出などの環境負荷を低減(グリーン化)し、半導体製造を持続可能(サステナブル)にしていく技術です。現在、半導体はあらゆる産業の基盤を支える製品の一つで、大量に生産されています。しかし、半導体製造には材料から最終製品に至るまで数多くの工程があり、非常に長いサプライチェーンを形成しています。多様な技術とそれを担う多くの企業が存在しており、半導体製造が全体でどの程度の負荷を環境に与えているのか正確にはわかっていません。現状の環境負荷を把握する指標を作り、それをもとに環境負荷を低減する対策技術を開発することが早急に必要です。

    半導体製造技術のグリーンサステナブル化を目指して、2020年ごろから世界の半導体産業全体が動き出しました。半導体製造はサプライチェーンが長く、関係する技術や業種が極めて多いことが特徴です。半導体製造全体をグリーンサステナブル化するためには、個別の企業の努力だけでは限界があり、業界全体で取り組むことが必要です。産総研は公的研究機関として、その推進役となるべく活動しています。2021年から産総研が主催している「次世代コンピューティング基盤戦略会議」では、目標の一つに「グリーンサステナブル半導体製造技術の体系的構築」を掲げて取り組んでいます。今まさに検討や対策が動き出しているグリーンサステナブル半導体製造の現状や内容について、エレクトロニクス・製造領域 研究企画室内田紀行室長が解説します。

    Contents

    グリーンサステナブルにかじを切った半導体製造業界

     半導体はあらゆる製品に搭載されるようになり、もはや現代社会のインフラの一つと言えます。産業競争力の源泉であり、経済安全保障にも大きな 影響を与える存在です。そのため、今後もサステナブルに作り続けることができなければ、社会の大きなリスクになってしまいます。一方で、気候変動や資源枯渇への危機感を背景に、あらゆる産業が温室効果ガス排出抑制や資源消費の低減などグリーン化に向かう必要があり、半導体も例外ではありません。今後も半導体の製造を続けていくためには、「グリーンサステナブル化」が必須です。このことを広く認識させたのが、2020年7月に米国のApple社が公表した「2030年までにサプライチェーンのカーボンニュートラルを達成する」という目標でした。ちょうどこの時期から、欧州の半導体開発拠点であるimecの「持続可能な半導体技術およびシステム研究プログラム(SSTS Program : Sustainable Semiconductor Technologies and Systems Program)」や、米国SEMIが主導する「半導体気候関連コンソーシアム(SCC: Semiconductor Climate Consortium)」などさまざまな動きが出てきました。産総研も、次世代コンピューティング基盤戦略会議の活動の一環として「グリーンサステナブル半導体製造技術検討会」を開催し、今後の戦略を検討してきました(2022/6/17プレスリリース)。

    半導体業界全体で取り組むために必要なこと

     半導体製造の大きな特徴は、サプライチェーンが長いことに加えて製造工程が多く、大量の資源を投入して大量の廃棄物を生成しながら製造を行っていることにあります。例えば、投入した原料ガスの中で、半導体チップに残る原料はその1 %に満たない、つまり99 %を捨てているケースもあります。1 %の材料で製造するために、残りの99 %が必要だったとも言えます。そのため関係する企業は、それぞれグリーン化やサステナブル化に向けた対策を行っています。これらをつないで連携し全体が「共通の視点」で活動することで、対策の効率や効果を最大化できると考えています。世界の半導体産業に大きな影響力を持つ米国SEMIが主導しているSCCの活動もその一つと言えます。産総研では、この「共通の視点」が、グリーンサステナブル性を評価する製造指標だと考えて検討を進めています。

    グリーンサステナブル半導体製造技術に関わるサプライチェーンの構造図
    グリーンサステナブル半導体製造技術に関わるサプライチェーンの構造

    全員で共有できる指標の策定をめざす

     グリーンサステナブルな半導体製造の共通指標をどのように作っていくのか、この課題に向き合うため、2022年度に、次世代コンピューティング基盤戦略会議の中に、日本の半導体製造関連企業8社と大学や研究所のメンバーによるグリーンサステナブル半導体技術検討会を設置して方向性を検討しました。その結果、この共通指標をGreen Manufacturing Metrics(GMM)とし、以下の方針が示されました。

    1. 全ての投入資源量を統一して評価、性能・コストに続く半導体製造の第3の評価指標
    2. 具体的なGMMの算出法を開発
    3. GMMを用いた評価手法の標準化と普及
    4. 実態に即したLife-Cycle Assessment (LCA)ベースの環境負荷低減の観点を有する

     そして、このような指標が「規制」のためではなく、それぞれの技術の開発にフィードバックをかけられることが大切なコンセプトです。

     産総研では、具体的にどのような指標、GMMを考えているのかをお話します。まずは、全ての投入資源量をカーボンエミッション(CO2排出量)に変換するモデルを考えています。欧州imecのSSTSプログラムでもそうしているように、環境負荷の指標として分かりやすいということが重要です。また、カーボンプライシングの観点でも、カーボンエミッションに変換するのが良いと考えています。現在、半導体製造にかかわるカーボンエミッションについてさまざまな発表がなされていますが、その量をどのように計算しているか公開されているわけではなく、「共通の視点」とは言えません。そこで、LCAの考え方を取り込んだ算出手法を開発し、国際標準化する必要があると考えています。産総研は、2023年度から経産省の国際標準化調査事業に採択され、「グリーンサステナブル半導体製造技術の国際標準化」というテーマを推進しています。

     さて、半導体製造のカーボンエミッションをLCAベースに算出するモデルを構築する上で、大きなボトルネックがあります。それは、半導体製造材料(ガス、薬液、部材など)の生産工程のカーボンエミッションデータがほとんどないことです。産総研は産業の環境負荷の評価とその低減対策のために、IDEAと呼ばれる18領域、5300のデータセットをカバーする世界最大級のLCAデータベースを開発しています。(IDEAについてはこちらから

     しかし、半導体製造品質の材料についてのデータはほとんどデータがありません。半導体に用いられる材料は高純度で、不純物やパーティクルを除去しています。この高純度化プロセスのカーボンエミッションが追加されるので、一般品質の材料より高いカーボンエミッションになります。この増加分を見積もることができていないのです。つまり、ガスや薬液、部材の使用量が分かっても、それをカーボンエミッションに変換できないことになり、GMMを正確に計算できません。現在、産総研内の関連部署と連携して、この半導体材料のカーボンエミッションデータを整備しています。

    判断の手がかりとなる計算式を提供

     カーボンエミッションデータの整備と並行して、半導体製造の環境負荷の計算式をたてることも進めています。基本的には、製造プロセスに使うすべてのもの、装置(ユーティリティ装置や除害装置も含む)、必要な用力(電力、水)、原材料(シリコンウエハや樹脂など)、ガス、薬液などを、カーボンエミッションに変換し足し合わせるシンプルな式になります。

     大切なことは、この計算式を使用して、半導体サプライチェーンのそれぞれの事業者が、自らの製品が半導体製造の中でどの程度、環境に影響を与えるかを試算できることです。製品が与える環境影響を知ることができれば、環境負荷を少なくする製品を開発するなどの対策にフィードバックし、その効果をアピールすることもできます。また、半導体を製造する側にとっても、どの部分の対策に力を入れるとカーボンエミッションを効果的に少なくできるかを考える際に役に立ちます。このような半導体製造の環境負荷の計算式は、グローバルに認められる必要があります。その試みがグリーンサステナブル半導体の製造指標の国際標準化活動です。

     半導体の製造は、ウエハの上に微細な回路を書き込んでいくウエハプロセスと、そのウエハを小さく切って樹脂の中に埋め込みチップ化するパッケージプロセスに分かれます。それぞれの特徴を反映したカーボンエミッションの計算式をつくり、最終的には、ウエハからチップまでトータルで試算できるようにします。そのために長いサプライチェーンに関わる多くの事業者の皆さんと連携をしていくことが必要です。産総研はその連携拠点になりたいと考えています。

     産総研では2023年に先端半導体研究センターを設立し、先端半導体分野の技術を開発するとともに、グリーンサステナブル化のための技術開発や評価指標GMMの開発も行っています。先端半導体センターでは300 ㎜のシリコンウエハのプロセスを行う研究開発拠点「スーパークリーンルーム」を有し、グリーンサステナブル化に向けて実際の装置プロセスで検討を行うことができます。そして、同センターをベースに、グリーンサステナブル半導体製造の広い学術分野に対応するため、環境科学や化学プロセスなど所内の各専門家チームとの協力体制を構築しています。

     グリーンサステナブル半導体技術についての本格的な議論はまだまだこれからという段階ですが、先端半導体研究センターを中心に、国内外のさまざまな政府機関や大学、企業と協力関係にあるという産総研の強みを十分に活かして、より良い未来のために、グリーンサステナブル半導体技術の開発と普及に取り組んでいきます。

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