シリコンフォトニクスとは?
シリコンフォトニクスとは?
2024/04/17
シリコンフォトニクス
とは?
―エレクトロニクスとフォトニクスの融合へ―
科学の目でみる、
社会が注目する本当の理由
シリコンフォトニクスとは?
シリコンフォトニクスとは、シリコン半導体の製造技術を用いてシリコンウエハ上に大規模な光の回路、すなわちフォトニクス回路を構築する技術です。この技術により、コンピューティングシステムに高速で大容量かつ低消費電力な光伝送や低遅延な光AI演算の導入が可能となります。データセンターの需要が急激に増えている現在、光の持つ特性を活かした低消費電力で高速なシリコンフォトニクスへの期待が高まっています。
社会活動のデジタル化が進み、データセンターやネットワークシステムへの需要が爆発的に増えるなか、処理能力の向上や消費電力やコストの削減が求められています。そこで期待されているのがシリコンフォトニクス技術です。この技術により高速で大容量、かつ低消費電力な光データ伝送や低遅延な光AI演算をコンピューティングに導入し、処理能力向上と消費電力低減の両立を目指します。その実現には、光を使うフォトニクス回路が、電子を使うエレクトロニクス回路と融合する必要があります。今どのようにエレクトロニクスとフォトニクスの融合を実現しようとしているのか、シリコンフォトニクス研究の現在と今後の普及に向けた課題などについて、プラットフォームフォトニクス研究センターの山田浩治総括研究主幹に聞きました。
シリコンフォトニクスとは
シリコンフォトニクスとは、シリコン半導体の製造技術を用いてシリコンウエハ上に大規模な光の回路、すなわちフォトニクス回路を構築する技術です。この技術により、光の特性を活かした高速で大容量かつ低消費電力なデータ伝送が可能となります。
社会活動のデジタル化に伴ってリモートワークが普及し、企業ではサプライチェーンのネットワーク化が進み、自動運転やエンターテインメントにも情報処理は欠かせません。これを支えるインフラであるデータセンターやネットワークシステムへの需要が増大し、データ量の増加に伴って消費電力が増えていることから、消費電力やコストの低減が求められています。
しかし、データセンターやネットワークシステムで使われているエレクトロニクス回路自体の性能向上は限界に近づいているため、現在は複数機器を接続して処理能力の増大に対応しています。そのデータ機器間や機器の内部の演算回路間、演算回路とメモリーとの間のデータ伝送にも、処理能力と消費電力の観点から現状の電気配線以上の能力が求められるようになっています。
そこで近年、高速で大容量のデータ伝送が可能なフォトニクス回路を使った伝送処理をデータ機器間や機器の内部の演算回路などに導入して、処理能力の向上と消費電力の低減の両立が図られようとしています。しかし従来のフォトニクス回路は、それぞれ異なる材料から個別に部品が構成されており、小型化が困難で消費電力も多く高コストでした。
これを解決できるのがシリコンフォトニクスの技術です。既存のシリコン半導体の製造技術をベースとした技術で、さまざまな部品から構成されるフォトニクス回路を小型かつ低コストでシリコンウエハ上にひとまとめにして集積することができます。
従来の光回路では光配線部分、すなわち光導波路に石英ガラスを用いていましたが、より屈折率が大きいシリコンを使うことで小型化が可能になりました。さらに、シリコンウエハには、異なる材料を使った素子を集積できます。そして、すでに普及している高性能な半導体製造技術を用いることで製造コストも下げることができます。
既存の半導体製造技術がベースにあることから、電子を使うエレクトロニクスと光を使うフォトニクスの融合が現実的なものとなっています。
シリコンフォトニクスの実用化に向けて
産総研の取り組み
シリコンフォトニクスの普及に向けて標準的な技術の確立と先進的な研究開発、また産業展開に向けたエコシステムの構築に取り組んでいます。
産総研には、商用製造ライン同等の300 mmウエハ対応の研究用シリコン半導体製造ラインがあります。標準シリコンフォトニクス技術の確立に向けて、この製造ラインを用いて回路の基本要素となるフォトニクス素子を開発しています。
シリコンフォトニクスのさらなる高機能化に向け、異種材料を集積する技術の開発も進めています。独自技術でインジウムリン(InP)光源などの異種材料素子を集積する技術の開発や、シリコン導波路上に窒化シリコン(SiN)導波路を集積した高効率光ファイバー結合で世界トップの効率を実現しています。また、情報通信用として、世界最大規模の光スイッチを開発し、毎秒1.25億Gbit、ブルーレイディスク 60万枚分のデータを1秒で伝送することに成功しています。(産総研マガジン 光スイッチで毎秒1.25億Gbitのデータ伝送を実現、高画質でも遅延ほぼゼロ!データ伝送に革命を起こす「光スイッチ」とは?)
新しい研究分野として、電子に替えて光を演算に使う光集積回路の開発も進めています。シリコン光集積回路を使って超低遅延、低消費電力でAIにも使われるニューラルネットワークの演算ができるようになりました。(産総研マガジン 世界初シリコン光集積回路のみでニューラルネットワーク演算に成功)
また、これらの技術を産業展開につなげるための取り組みが、シリコンフォトニクスエコシステムの構築です。産業化に向けては、回路製造、設計や実装、検査などの技術の開発と提供、応用技術分野との連携、商用ファンドリーシステムの構築など、さまざまな産業レイヤーを跨いだエコシステムが必要です。情報通信機器メーカーや半導体製造・検査装置メーカーをはじめとする企業17社(2024年1月現在)や、大学・研究機関などが参加するコンソーシアムを立ち上げ、公開試作サービスを提供したり、回路の設計や実装に関する技術的サポートを実施したりするほか、関連企業のエコシステム構築につなげる活動を進めていますので、関心のある方はぜひご連絡ください。(Siフォトニクスコンソーシアムウェブサイト)
シリコンフォトニクス研究の現在とこれから
情報通信分野ではすでに実用化が進んでいます。最も大きな応用先はデータセンターです。サーバー間の接続に使われ、消費電力も従来技術に比べ大幅に低減されています。世界規模で大容量・超高速データ通信の需要が高まることでシリコンフォトニクスの市場の拡大が予想されています。今後数年で数十億ドルから100億ドル規模まで成長するとされています。情報通信分野だけでなく、今後は医療・バイオ応用、モビリティ応用など、異分野へもシリコンフォトニクスの展開が進むでしょう。
90年代後半に研究開発が始まったシリコンフォトニクスは、デバイス/回路設計手法や応用技術の開発、半導体製造技術の革新などを通じ、フォトニクスデバイスとしては概ね実用レベルにあります。今後さらに普及させるために、使いやすい製造・開発環境を整備し、回路の大規模化やアプリケーションの多様化に対応できる設計技術、実装技術、検査技術の実用化を進めていきたいと考えています。シリコンフォトニクス技術のポテンシャルをさらに引き出し、エレクトロニクスとの融合を進めることで、今までにない応用先が生み出されると期待しています。