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産総研マガジン:話題の〇〇を解説

スーパーエンジニアリングプラスチックとは?

2023/09/20

#話題の〇〇を解説

スーパーエンジニアリングプラスチック

とは?

―サーキュラーエコノミーに貢献する高機能プラスチックのリサイクル技術―

科学の目でみる、
社会が注目する本当の理由

    30秒で解説すると・・・

    スーパーエンジニアリングプラスチックとは?

    汎用のプラスチックに比べて、すぐれた力学的性質と耐熱、耐久性を持ち、機械部品や住宅用材などある程度の強度維持が必要な部分に使用されるプラスチックを「エンジニアリングプラスチック」といいます。「スーパーエンジニアリングプラスチック」は、エンジニアリングプラスチックがさらに高機能になったプラスチック群のことです。「スーパー」であることに明確な定義はありませんが、特にプラスチックが金属に比べて弱いと思われがちな耐熱性において、150℃以上に耐えられるものをそのように呼ぶことが多いです。スーパーエンジニアリングプラスチックは、複合する材料との組み合わせ次第で摺動性(摩擦の少なさ)や耐摩耗性、強度をさらに高くする、などさまざまな機能をもたせることが可能です。金属に比べて軽量であることから、自動車などの移動体への応用など新しい材料として活用の幅が広がることが期待されています。

    エンジニアリングプラスチック/スーパーエンジニアリングプラスチックは、耐熱性があり機械的強度も高い、金属に比べて軽量であるという特徴から自動車や産業機械、電子機器に搭載される部品などに使用されています。また、身体への安全性も高いことから、哺乳瓶や食器用素材、人工透析膜、歯科用材料といった人体に触れるような部分でも使われるケースが増えています。高機能なプラスチックとしてさまざまな場面の活用が期待される一方で、廃棄物、資源制約、海洋プラスチックごみ問題など、世界的な課題も抱えています。エンジニアリングプラスチック/スーパーエンジニアリングプラスチックを開発するにあたって、研究者としてどのような考えをもって取り組んでいるのか、そして社会への応用可能性はどのようなものがあるのか、触媒化学融合研究センター ケイ素化学チームの南安規主任研究員に聞きました。

    Contents

    高機能なプラスチック材料

    スーパーエンジニアリングプラスチックとは

     身の回りのさまざまなものに使われているプラスチック。100℃程度の耐熱性をもたせたり、圧縮したり引っ張ったりしたときの耐久性を高めたりしたものは、エンジニアリングプラスチック(以下、エンプラ)と呼ばれています。飲料ボトルなどで知られているポリエチレンテレフタレート(PET)はエンプラに含まれます。

     さらにその上の機能を持つのがスーパーエンジニアリングプラスチック(以下、スーパーエンプラ)です。何が「スーパー」なのかという明確な定義はありませんが、特にプラスチックが金属に比べて弱いと思われがちな耐熱性において、150℃以上の連続使用に耐えられるものをそのように呼ぶことが多いです。

    スーパーエンジニアリングプラスチックの種類

     現在使われているスーパーエンプラとされている高機能樹脂は約10種類あります。それぞれに耐熱性、機械的強度、耐薬品性、耐摩耗性などの特徴を有しており、自動車のエンジン回りや電装品の部品、電子機器、医療機器など多くの分野で使用されています。スーパーエンプラの種類によっては、人体に有害な物質を使用しないため、安全性が高く、哺乳瓶や食器用素材、人工透析膜、歯科用材料といった人体に触れるような部分でも使われるケースが増えています。

     なかでも、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)はスーパーエンプラの代表格とも言われています。融点が343℃と非常に高く、機械的強度でも抜群の性能を持っています。そのため自動車部品にとどまらず半導体装置用部品、航空機用部品、医療器具のほかシェールオイル開発用の機械部品などにも用いられています。

    スーパーエンジニアリングプラスチックの課題

     2022年4月に「プラスチック資源循環促進法」が施行され、プラスチック資源を使うだけでなく循環させて活用するサーキュラーエコノミーへの移行が進んでいます。スーパーエンプラでも、リサイクルやリユースなどのシステムを確立することが不可欠になっています。

     まずはエンプラの代表格、PETのリサイクルの実情を見てみましょう。日本は先進国の中でも群を抜く8割を超えるリサイクル率を達成していると言われていますが、多くの廃プラスチックは燃やして熱エネルギーを回収するサーマルリサイクルされるにとどまっています。産総研では、低いエネルギー消費でPETボトルからPETボトルを作る「ボトル to ボトル」を効率的に実現するケミカルリサイクル法を開発するなどの研究を進めています。(産総研マガジン:実験化学で新たなリサイクル技術を開発

     一方で、スーパーエンプラは、その特性から単純に熱を加えたり、薬品・溶剤を用いて分解したりすることが簡単にはできません。また、スーパーエンプラは原料が少なく高価なので、そのまま廃棄してしまうと経済的にも損失です。これらの問題を打開するため、スーパーエンプラの新しいリサイクル技術の開発が必要となっています。

    プラスチックをリサイクルする社会の実現に向けて

    PEEKのケミカルリサイクル技術の開発

     耐熱性があり機械的強度も高いスーパーエンプラPEEKをケミカルリサイクルした前例はこれまでありませんでした。そこで私たちが着目したのが硫黄です。PEEKのポリマーを、PEEKの原料1単位のポリマーに分解していく「解重合」という反応に、有機硫黄化合物などを解重合剤として使う方法を開発しました。原料モノマーと再度重合可能なモノマーの前駆体を高い回収率で分解することに成功したのです。この技術を使えば、炭素繊維やガラス繊維で強化したPEEK材料でも、PEEKだけを選択的に回収できるなど、複合材のリサイクルにも道を拓くことになります。(2023/1/24 プレスリリース

    図
    有機硫黄化合物を使ってPEEK(ポリマー)を解重合する。
    生成する原料モノマーなどは、再度さまざまな高分子の合成に利用できる。

    スーパーエンジニアリングプラスチックの展望

     先にも紹介したように、スーパーエンプラは幅広い分野で利用されています。そのうち、今回のPEEKや最近に発表したポリスルホン樹脂の解重合法(2023/8/17 プレスリリース)など、何種類かのスーパーエンプラの解重合法が開発されていますが、ケミカルリサイクルへの利用だけでなく、解重合の原理を利用した応用展開をまだまだ探っている段階だと思っています。プラスチックの製造企業やリサイクル企業、最終製品をつくるエンドユーザーとなる企業など、さまざまなプレーヤーにスーパーエンプラに関心を持っていただき、スーパーエンプラの新たな用途や解重合法を利用した応用展開など、思いもよらないアイデアが出てくれば嬉しいです。産総研では、PEEKなどの分解法をさらにブラッシュアップし、他のスーパーエンプラの分解・リサイクルについても技術開発を行っていきます。

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