次世代店舗とは?
次世代店舗とは?
2023/02/01
次世代店舗
とは?
科学の目でみる、
社会が注目する本当の理由
次世代店舗とは?
労働人口減少による人手不足が深刻化しているなかで、店舗の省人化をはじめとした次世代の店舗のあり方は小売業の重要なテーマです。一方で、売り場のみを省人化しても、それに伴う業務量が増えてしまっては本質的な解決ではありません。先行する画像認識によるレジレス型店舗も商品の補充やバックヤードでの発注作業などはまだまだ人間の労働力が必要な状況です。店舗という見える部分だけでなく、小売業全体に先端技術を取り入れながら、生産者までつながるサプライチェーンを俯瞰した研究がすすんでいます。
米国での「Amazon Go」に代表されるような、入店前に事前にクレジットカード登録や本人確認を済ませておけば、商品を手に取りそのままお店をでるだけで決済が完了してしまう無人決済店舗。近年は日本でも駅やコンビニでも精算に店員を必要としない仕組みとして導入され始めています。また、決済だけではなく大手コンビニエンスストアが商品の補充業務にAIロボットを導入することを発表するなど、小売り店舗が最新のテクノロジーによって「次世代店舗」へと変わり始めています。さらなる進展のために必要とされていることや、産総研が見据える次世代店舗のあり方、進めている研究について、産総研インダストリアルCPS研究センターの谷川民生に聞きました。
次世代店舗の更なる普及に、今、必要なこと
次世代店舗、といって想像しやすいのは「Amazon Go」のように商品を手に取りそのままお店をでるだけで決済が完了する店舗です。日本でも同様の仕組みで決済が可能となる店舗の導入がはじまっていますが、一気に普及したと感じるのはセルフレジの仕組みです。これにより、スーパーやコンビニエンスストアなどの店舗では、接客や決済の業務には人手がかからないようになってきました。ただ、どの商品が店舗のどこに陳列されていて、賞味期限がいつだといった情報をバーコード入力する作業がバックヤードにはあり、多くの店舗でこれらの作業は人が行っています。今後、人手不足を補わなければならない業務は、その店内の商品管理です。
コンビニでも、店内には数百から千をこえる商品があり、広いスーパーであればもっと多くなります。小売業とひとくくりにされますが店舗の規模は多様であり、全店舗に「Amazon Go」のように何百台ものカメラを天井につけて全商品をトレースする大掛かりな仕組みを導入するのはコストがかかりすぎます。店舗への設備投資ではなく電波や電磁波をつかってデータを読み書きするRFタグというものを商品につける方法も考えられますが、RFタグ導入のコストを考えると、キャベツやジャガイモといった生鮮食品のバラ売りや10円のガムにまでRFタグをつけることはまだ現実的ではありません。
一品一品の店内での商品管理が、より低コストでできるようになれば、次世代店舗がさらに普及し、世の中が変わってくることが予想されます。
店舗から、サプライチェーン全体の高度化へ
店舗とは生産者から消費者まで商品を届ける物流の一つの通過点にすぎません。店舗だけをスマート化しようとしても難しく、物流全体でのデータ連携や高度化が必要です。現時点では、生産段階の商品管理データが物流には連携されておらず、店舗にもつながっていません。店舗が持っている顧客やマーケティング情報も物流や生産のほうには連携されません。
生産者、物流、店舗、それぞれが個別にデータを抱えている状況から、流通段階を越えてデータを連携させること。AIやロボティクスを導入してサプライチェーン全体をより価値のある情報を持ったものに高度化すること。それが今後目指すべきところではないでしょうか。この全体を見渡す視野を大事にした上で、まずは社会的な影響が大きい「店舗」を軸として研究を進めています。
ロボットを動作支援するデータベース構築が進行中
産総研には、コンビニエンスストアを模した施設があり、そこでAIを活用した商品の3次元認識技術、データベース構築、ロボットによるマテリアルハンドリングの実験などを進めています。多種多様な商品の棚卸や陳列、入れ替えをロボットができるようにすることで店舗の省人化に貢献しようと研究を行っています。
ここで重要になるのが、対象物となる商品の情報データベースの構築です。通常であれば、AIが商品を認識できるようにするためには、その商品をあらゆる角度などから撮影した画像を大量に用意して学習させなければいけません。しかし、商品の入れ替わりも多い中で数多くの商品の1つ1つをそのように学習させるのは非現実的です。そこで、AIロボットが商品を正しく認識するための学習データとして、商品を3Dモデル化する技術を開発しました。商品を回転させながら一定程度の撮影をするだけで、サイバー空間上で自動的にさまざまな方向から見た絵をつくり出し、学習データを増やすことができます。
多くの小売事業者が参画する商品情報データベースの研究開発が2022年10月に始まりました。食品や日用品を対象としたデータベースが整備されることで、ロボット活用が進むことが見込まれています。ここ数年で、種類を問わず商品それぞれにデータを付与して流通させることができるようになるかもしれません。
生産者から物流、店舗、顧客までがつながる未来を構想
店舗でのロボットによる陳列作業技術が確立すれば、物流倉庫での商品ピッキングや工場内での資材管理にも大きく貢献できます。ロボットによる操作は対象物の認識が前提となるため、ロボットからの情報を使うことで、商品や資材一点一点のトレーサビリティ管理の省力化にもつながり、人手不足の現場にとっても朗報です。
また、どの商品が店舗で売れているかという情報がタイムリーに分かるだけでなく、店舗内での人の移動の情報と組み合わせることで、購買行動も分析できるようになります。そのデータが生産者側に連携されることで、お客さまのニーズにすぐに対応して商品をつくる、変種変量に対応した生産が行われるようにもなるでしょう。
このように、従来のサプライチェーンをこえて新しいデータ・ヒトのつながりが⽣まれることで、店舗の効率化という以上に、サプライチェーン全体に及ぶさまざまな課題解決が期待されます。例えば、ロボット技術とデータサイエンスの力で、生産者から物流、店舗、顧客までがつながることで、リアル店舗の生産性向上が実現できます。それだけでなく、新時代の店舗はお客様の「欲しい」を察知し、即座に商品がお店に届く仕組みを備えることがあたりまえになるかもしれません。
社会の要請に技術が応えつつ、技術側から新しい社会を提案する、次世代店舗はそんな可能性を秘めていると思います。