ロボットをもっと賢くして多様な人が働きやすい社会へ
ロボットをもっと賢くして多様な人が働きやすい社会へ
2024/01/17
ロボットをもっと賢くして多様な人が働きやすい社会へ
日本は2025年に人口の約5人に1人が75歳以上となる見込みです。少子高齢化による労働力不足を解決しようと、いまあらゆる産業で自動化の技術が開発されています。産総研ではシミュレーションとAIを駆使し、ロボットの自律性と協調性を高める技術開発を進めています。多様な人が働きやすく、かつ生産性が持続的に向上する社会づくりを目指します。
労働力不足に備え、賢いロボットを導入していく
世界でも群を抜いて急速に少子高齢化が進む日本。これから先、働き手となる世代の人口は減少し続ける見通しで、労働力不足が深刻な社会問題となりつつあります。それを補うために期待されているのが、ロボットの導入などによる自動化です。オートメーション研究チームは、ロボットの自律性を高めて労働生産性を上げるとともに、人とロボットが協調しやすくするための研究をしています。まず研究の方向性について、花井亮に聞きました。
「ロボットにできることはまだ限られており、どんな作業でもできるロボットを作ることはとても困難です。とは言え、製造工場や物流倉庫の作業、店舗の陳列・品出し、料理など、自動化したい作業は世の中にたくさんあり、コストに見合う形でいかにロボットを導入していくかが重要です。私たちは、そのために必要な技術は何かを考え、ロボットをもっと賢くしようと取り組んでいます。あらかじめ人が準備して作り込む部分が少なくても、ロボットが自律してさまざまな状況に対処できるようにするのが目標です」
シミュレーションを活用し経験獲得から経験拡張へ
ロボットは、あらかじめ想定された作業は得意ですが、それでは現場で使える場面が限られてしまいます。例えば金属、ゴム、スポンジなどを初めて見たとき、どう扱うべきかを類推できるようになれば、汎用性が高まるでしょう。しかし、扱う物が何なのか、どう扱うべきなのかといった情報を大量に学習させるのは時間もコストもかかります。その課題をどのように克服しようとしているのか、ラミレス・アルピーサル・イクシェルに聞きました。
「ロボットに『物のつまみあげ方』を学習させるとき、実際にいろいろな物を用意してデータを取得するような学習方法はとても効率が悪いです。そこで私たちは、物理現象を再現できるシミュレータを使い、短時間で膨大なデータを取得できるようにしました。さらに、複数の物が絡み合っているときに、どうすれば1個ずつピッキングできるかなどより複雑な判断ができるよう経験獲得から経験拡張へと研究を進めています」
経験拡張で注目されているのが、花井が取り組んでいる「力の推定」です。「例えば軽いお菓子の箱の上に、重くて硬いレンガが重なり合っているとき、人は触らなくても物と物の間にどういう力が働いているかを大まかにイメージし、どうやったら上手くお菓子の箱を取り出せるかを考えることができます。このように、物にかかる力を推定する能力をロボットに与える研究をしています。技術のポイントは、シミュレーションの活用です。重なり合った物にどういう力がかかっているか、実世界では得られない情報をシミュレーションで予測します。それを学習したAIを使えば、実世界で初めて見る物からも力の分布を予測できるようになり、ロボットが自然な持ち上げ方を見つけるのに役立ちます」
力の推定により、例えば買い物かごから目的の物を取り出すといった、いろいろな重さや硬さの日常で使う食品や生活用品を、汎用的に扱う高度な技術開発に挑んでいます。
遠隔操作システムで人とロボットが助け合う
人とロボットが協調して働くため、遠隔操作システムの構築も進めています。ロボットが得意な作業はロボットにやらせて、作業の途中で必要が生じたときには人間が遠隔でロボットを助ける。そのシナリオを、イクシェルは次のように説明します。
「例えば、ロボットが絡まった部品を上手くつまみ上げられなかったときには、離れた場所にいる人が装着するVRヘッドマウントディスプレイにアラートが出ます。その人がVR環境の中で、『部品をこの方向に倒してから持ち上げる』という指示を出し、ロボットがその動きを再現することで部品をつまみ上げることができます。この遠隔操作の利点は2つあります。1つは、人が現場に立ち入らないので、安全確保のため装置を止める必要がないこと。もう1つは、例えば身体に障がいがある方や車イスに乗っている方などの働く場が広がることです」
すでに、研究棟内の模擬工場でトヨタ自動車(株)と自動車部品の取り出し作業をする実証実験を行い、作業者の負担を減らしながら生産性を向上させることに成功しています。
人の連携を広げながらワクワクする技術を実現
産総研にはロボット工学、機械学習、コンピュータビジョンなど多様な専門家がそろい連携しやすい環境が整っています。また企業との交流も多く、実際の生産現場はどのような状況でどのような作業をしているのか、直接話を聞くことで研究課題を見つけることもできます。そうした恵まれた研究環境のもと、科学者としてどんな社会をつくりたいか花井の思いを聞きました。
「目標とするのは、高度な技術を誰もが容易に使えるような社会です。裏側では非常に複雑な判断をしているのに、表面的にはすごく使いやすくて馴染みやすいロボットを実現したいと考えています。最近はAIの危険性に警鐘を鳴らす議論もあります。技術は使われ方によってそのような側面もありますが、本来ワクワクして楽しいものであってほしいと思っています」
多様な人にとって働きやすい社会をつくり、労働力不足の解決に貢献するため、技術のさらなる進化に挑んでいきます。
インダストリアルCPS研究
センター
オートメーション研究チーム
主任研究員
花井 亮
Hanai Ryo
インダストリアルCPS研究
センター
オートメーション研究チーム
主任研究員
Ramirez Alpizar Ixchel
Ramirez Alpizar Ixchel
産総研
情報・人間工学領域
インダストリアルCPS研究センター