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洋上風力発電とは?

洋上風力発電とは?

2022/11/09

#話題の〇〇を解説

洋上風力発電

とは?

―なぜ今注目されるのか―

科学の目でみる、
社会が注目する本当の理由

  • #エネルギー環境制約対応
30秒で解説すると・・・

洋上風力発電とは?

洋上風力発電とは、洋上に風車を持っていき、そこで風力発電しようというものです。陸上の風力発電開発が進み、適地が減っていることもあって、海域を利用した洋上風力発電が注目されています。これは、四方を海に囲まれた日本に大きなポテンシャルがある再生可能エネルギーだと言えます。洋上風力発電には、「着床式」と「浮体式」の2種類があり、コストの面から「着床式」の建設が先行して進んでいます。

洋上風力発電が世界的に注目されています。日本では2021年に4か所の促進区域(秋田県能代市、三種町及び男鹿市沖、秋田県由利本荘市沖(北側・南側)、千葉県銚子市沖)での洋上風力発電の商業運転にむけた公募が行われ、事業者が決まりました。2022年7月には、秋田県の洋上で国内初となる商業用大型洋上風力発電施設の建設が開始され、2022年内には日本で初めての本格的な大型洋上風力発電の商業運転が始まる予定です。洋上風力発電をめぐる現状と、産業としての可能性について、再生可能エネルギー研究センターの小垣哲也研究チーム長に聞きました。

Contents

洋上風力発電とは何か

洋上風力発電とは

 まず、風力発電では、風の運動エネルギーを風車のプロペラで回転エネルギーに変えて発電機を回すことで発電します。コストの面では、陸上に風車を設置するほうが安価なので、現在商業的に供給されている風力発電設備は、沿岸部や山岳部の風の条件が良いところに設置されています。日本国内では、北海道や東北エリアに多く、ほぼ全国に設置されています。

 しかし、陸上よりも洋上のほうが一般的に風は強く、安定的に吹いています。また、陸上より設置場所が生活エリアから離れることから騒音や景観問題がより少ないため、国際的にも、洋上風力発電の開発が展開していくという流れになっています。風車を洋上に持っていきそこで発電しようというのが、洋上風力発電です。

 洋上風力発電には、海底に杭などの基礎構造物を設置してその上に風車を乗せる「着床式洋上風力発電」と、浮体の上に風車を乗せて発電する「浮体式洋上風力発電」の2つのタイプがあります。浮体式は浮体に非常にコストがかかるので、着床式が先行して導入されています。

着床式と浮体式の概要図
着床式と浮体式の概要図

洋上風力発電が注目される背景

 日本でこれほど洋上風力発電が注目されるようになったきっかけは、政府が2020年に宣言した「2050年カーボンニュートラル」です。その後、政府の「総合資源エネルギー調査会」と「グリーンイノベーション戦略推進会議」が実現の道筋を検討するなかで、水素、蓄電池、カーボンリサイクルと並び、重点分野の一つとして洋上風力が選ばれています。

 また、洋上風力を主力電源としていくために、これまで以上に官民が一体となって問題解決に取り組むべく「洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会」が2020年7月に設置され、具体的な方向性を示す「洋上風力産業ビジョン(第1次)」が作成されました。

 洋上風力産業ビジョンでは、2030年までに10 GW、2040年までに浮体式も含む30 GW~45 GWの洋上風力発電を導入するという数値目標が掲げられました。同時に、国内調達比率を2040年までに60%にすること、着床式の発電コストを2030~2035年までに8〜9円/kWhにすることが目標として掲げられ、洋上風力の導入拡大と産業競争力強化に向けて、具体的に動き始めています。

洋上風力発電をめぐる国際的動向

 世界の風力発電設備容量は、2021年末時点で837 GW。そのうち洋上風力発電の発電設備容量は累積では57 GW、単年あたりで21 GWとなり、風力発電全体に対する洋上風力が占める割合は累積で約6.8%、単年で22.5%となっています。前年との比較では、単年あたりの洋上風力導入量が7 GWから21 GWと約3倍に拡大しています。洋上風力発電は、先行導入しているヨーロッパや急成長している中国を中心に、急拡大していると言えます。

 日本の洋上風力発電を見ると、2021年末時点における国内の風力発電設備容量は、累積で4.58 GW。これを2040年までに30 GW~45 GWまで上げていこうというのですから、海外の企業からも今後、日本は伸びる市場として大いに期待されています。

洋上風力発電の現在と課題

洋上風力発電を商用化していくうえでの課題

 一番大きな課題は、現在、日本国内に大型風車メーカーが存在しないことです。かつては、大型風車メーカーがいくつか存在しましたが、いずれも数年前に風車の設計・開発・製造から撤退してしまいました。そのため、海外の大型風車メーカーの風車を持ってきて、国内に設置するしかありません。ただ、洋上風力発電の場合は、洋上風力発電全体のコストに占める風車本体の割合は2、3割であると分析されています。洋上風力発電であれば、風車内部のコンポーネントや設置工事、メンテナンスなどの風車以外の部分を国産化することで、7、8割の国産化が可能です。

 ヨーロッパに比べて許認可プロセスの障壁が大きいという課題もあります。日本でプロジェクトが立ち上がったとしても、実際に建設できるのは、早くても5年後。ヨーロッパではもっとスムーズにできるのですが、日本では時間がかかると認識されています。環境アセスメントや地盤調査などの許認可手続きについては、ヨーロッパのようなワンストップ型のシステムが導入できないか、現在、検討が行われているところです。

 他にも、日本の環境条件の厳しさがあります。台風の襲来、複雑な地形に起因する乱気流のほか、ヨーロッパに比べて地震が起きる確率も高くなっています。こうした厳しい環境条件については、日本提案によりIEC国際標準として採択されていることからも、日本は風力発電にとって厳しい環境の代表事例であることがわかるでしょう。

風力発電のメリット・デメリット

 洋上風力発電は、大規模、大量導入が可能なこと、コスト低減が可能なこと、経済波及効果が期待されることから、再生可能エネルギーの主力電源として大いに期待されています。風車本体は海外メーカーに頼ってしまいますが、風自体は国産のエネルギー。エネルギー安全保障の面で、海外に大きく依存せず、国際情勢の影響を受けにくいメリットがあります。

 また、洋上風力発電になると設置場所が生活エリアから離れますので、騒音や景観による人間への影響も少なくなります。

 一方で、漁業関係者からは、海洋生物への影響を危惧する声があります。しかし、これまでの海外の事例では逆だと考えられます。杭や浮体の漁礁効果で漁場が形成されるというポジティブな効果のほうが大きいともいわれています。

 洋上も含め、風力発電は、エネルギーセキュリティも確保できるクリーンエネルギーとして、未来に対してメリットの大きな発電だと考えています。

産総研が取り組んでいること

 産総研では、大学、民間企業と共同で、洋上風力発電を国内で展開するうえで、どの場所が洋上風力発電の設置に適しているかを判断するための洋上風況マップを開発し、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)データベース「NeoWins」として公開しています。

 また、NEDOの洋上風況マップによっておおよその適地を判別することができますが、実際に洋上風力発電所を設置する場合には、設置後の発電電力量や風車の安全性・信頼性を高精度に事前評価する必要があり、そのため、最低1年間は風を実測しなければいけません。産総研では、スキャニングLiDARという装置を使用した洋上風況評価手法を開発し、陸上に設置したスキャニングLiDARにより洋上の風を計測、評価できる手法の標準化に取り組んでいます。2022年度までにスキャニングLiDARの実証研究を終了し、その成果についてはNEDOのガイドブックとして公表する予定です。

 もう一つ、洋上風力発電のコストを下げるために必要な技術として、高性能風車の要素技術があります。風車上流側の風速・風向を、発電機やギヤボックスがおさめられている箱型の「ナセル」の上からリモートかつリアルタイムで計測できる「ナセル搭載LiDAR」、⾼速な⾵⾞空⼒制御ができる「プラズマアクチュエーター」などといった先進的なデバイスを風車に付けて性能を上げる研究開発を行っており、実際に、産総研福島再生可能エネルギー研究所(FREA)に設置している試験研究用風車にも搭載し実証試験を行なっています。

高性能風車要素技術の図
高性能風車要素技術

洋上風力発電が切り拓く未来の可能性

社会にどのような変化が起こるのか

 日本では2012年からの数年間、風力発電の導入が停滞した時期があります。風力を含む再生可能エネルギーの導入インセンティブが、再生可能エネルギー利用割合基準制度(RPS)及び導入補助金から固定価格買取制度(FIT)に移行し、その後の飛躍的な導入加速が期待された一方で、10 MW以上の風力発電所が環境省の環境影響評価法の対象となり、風力発電事業開始前に必要な環境影響評価に時間を要するようになりました。これが風力発電の導入が停滞した原因の一つだと考えられています。

 しかし、現在、状況は好転しつつあります。2022年以降に運転開始予定の風力発電プロジェクトが500 MW以上あり、国内初の本格的な商業用洋上風力発電所の運転も始まります。海外からも有望な市場として注目もされています。

洋上風力発電の実装で期待される未来

 洋上風力発電の導入拡大の背景には、新たなエネルギーミックスの実現に向け、再生可能エネルギーの割合を増やすという国の施策があります。その先に温室効果ガス排出の削減という、世界が成し遂げなければならない環境課題があります。

 洋上風力発電産業の拡大に伴って、運用やメンテナンスの面でのマンパワーも必要なので雇用創出といった経済効果も期待できるところです。現在、産総研の風力エネルギーチームは、学生だけでなく国内の風力発電に関係する企業人材を技術研修生として受け入れることで、技術者の人材育成にも力を入れています。

 世界的に見ても、洋上風力発電は産業として拡大しており、日本でも今後本格化する成長産業です。国際的には毎年数十兆円、あるいは最大で100兆円ほどの産業規模になる非常に大きな産業です。日本企業には、国際的な洋上風力発電産業の競争に勝ち抜くための土台として、まずは国内市場にて参入、成長、発展していただければと思います。

 産総研は、企業が持っているシーズの技術を洋上風力発電の分野に応用し、新たな実用化を目指す企業と一緒に洋上風力発電産業を盛り上げていきたいと考えています。エネルギー産業でも、建設業でもない、全く違う分野の加工技術を持つ企業からお声がけをいただき、全天候プラズマアクチュエータモジュールの誘起流効果の検証など、実用化に向けて動き出している事例もありますので、洋上風力発電産業への参入をお考えの企業の方は是非お声がけください。

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