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メタンハイドレートとは?

メタンハイドレートとは?

2022/07/27

#話題の〇〇を解説

メタンハイドレート

とは?

―実用化に向けた研究、開発の現状と課題―

科学の目でみる、
社会が注目する本当の理由

  • #エネルギー環境制約対応
30秒で解説すると・・・

メタンハイドレートとは?

メタン(CH4)は天然ガスの主成分で、炭化水素の一種です。常温では無色、無臭の気体で、燃料や産業用の素材として用いられます。一方、ガスハイドレートとは、水素結合によってカゴ状になった水分子の中にメタン分子などが閉じ込められた状態を言います。メタンハイドレートは、ガスハイドレートの一種で、カゴ状の水分子の内部にメタン分子が入っている物質のことです。自然界では海底や永久凍土地帯の地層内に氷状になって存在します。これを取り出して火をつけると、メタンに火がついて燃えあがるため、「燃える氷」と呼ばれています。日本列島の周辺海域にも大量にあることがわかり、将来のエネルギー資源として期待され、研究が進んでいます。

海洋のメタンハイドレートは、存在している場所によって大きく二つの種類に分けられます。一つは水深500m以深の海底面下数百mの砂質堆積層内にある「砂層型メタンハイドレート」、もう一つは海底面及び比較的浅い深度の泥などの中にある「表層型メタンハイドレート」です。どちらも世界中に豊富に存在している可能性があり、日本でも国として開発に取り組んでいます。産総研では国産エネルギー資源としての商業化をめざし、早くからメタンハイドレートの研究開発を続けてきました。今後の展望について、その中核を担うエネルギープロセス研究部門の天満則夫に聞きました。

Contents

メタンハイドレート開発の現状

 水とメタンがメタンハイドレートという状態で安定的に分解せずに存在するには、低温・高圧という条件(大気圧下では-10℃以下、0℃なら26気圧以上)が必要です。その条件が満たされない場合には、水分子とメタン分子は分離し、水は液体に、メタンはガスになってしまいます。こうした性質を持つため、メタンハイドレートが安定状態で存在しているのは、海底や永久凍土の地下です。

 メタンハイドレートの研究や採掘においても低温・高圧状態をうまく維持・管理する必要があります。地質の調査・研究には、コアと呼ばれる円柱状の地質試料を使いますが、メタンハイドレートの含まれたコアは高い圧力をかけた状態で採取、保存しなくてはなりません。近年、これが可能になり、研究が一段と進んでいます。

メタンハイドレートの相転移
メタンハイドレートの相転移

 メタンハイドレートは日本の周辺海域に存在が確認されています。エネルギー資源に乏しい日本にとって、メタンハイドレートを開発、商業化できるかどうかは、社会、産業、エネルギー外交などの将来にも影響します。

 経済産業省は2019年2月に改訂版「海洋エネルギー・鉱物資源開発計画」を公表しました。ここには2023年度から2027年度の間に、民間企業が主導する商業化に向けたプロジェクトの開始をめざすことが記されています。

メタンハイドレートの種類

 メタンハイドレートは存在している場所によって2種類に分けられます。砂層型メタンハイドレートは、海底面下200~300mの砂質堆積層の中に、砂の粒子の空隙(くうげき)を埋める状態で存在しています。一方、表層型メタンハイドレートは、海底の表面に近い泥の中に塊状になっています。

砂層型メタンハイドレートと表層型メタンハイドレートの様態
砂層型メタンハイドレートと表層型メタンハイドレートの様態

 日本では、砂層型メタンハイドレートは東部南海トラフに、メタンハイドレートすべてをメタンガスにしたと換算して、1.1兆立方メートルが、表層型メタンハイドレートは日本海側の海鷹海脚(うみたかかいきゃく)の1か所で約6億立方メートルがあることが調査により判明しました。

 この二つは開発のフェーズと体制が異なります。砂層型メタンハイドレートでは、産総研、JOGMEC(独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構)、JMH(日本メタンハイドレート調査株式会社)が研究開発コンソーシアム「MH21-S」を組織し、開発に取り組んでいます。産総研は特に生産技術分野に関わり、コア分析、ガス予測のためのシミュレータの開発・改良などを担っています。

 表層型メタンハイドレートは、経済産業省と産総研の主導で計画を進行中です。エネルギープロセス研究部門をはじめ、複数の研究領域・研究部門が連携し、研究開発に取り組んでいます。

自然界から取得したメタンハイドレート試料 表層型(左)、砂層型(右)
天然のメタンハイドレート試料:表層型(左)、砂層型(右)

砂層型メタンハイドレート開発の現状と課題

 研究開発が先行し、相対的に商業化が近いと期待されているのが砂層型メタンハイドレートです。海底の厚い地層の下にあり、被覆されているため、採掘しても地盤が比較的崩れにくく、メタンハイドレートが露出しにくいという特性があり、井戸を使う石油や天然ガスの採掘技術を応用できます。現在、使っているのは産総研の提案した「減圧法」です。これは海底に井戸を掘り、ポンプで水をくみ上げ、井戸周辺の圧力を下げることで砂層内のメタンハイドレートを分解し、ガスとなったメタンを取り出す方法です。

 研究は2001年度から始まり、2013年には世界初の海洋産出試験にて6日間、2017年には2回目の海洋産出試験にて36日間のガス生産を実現しました。今後に向けては長期的に安定生産できるかを調べる必要があり、陸上産出試験で検討を行う予定になっています。2022年度中にアラスカで試験をするために現在準備中ですし、国内でも有望な濃集帯調査も進めており、今後の簡易生産試験を含む試掘に向けた準備も行っているところです。

 世界的に見ても海洋産出試験まで手がけた国は日本と中国のみで、日本はメタンハイドレート採掘の技術開発のトップクラスに位置しています。また、アメリカと共同での試験実施や、インドの資源量調査をコア分析によって支援するなど、さまざまな国と協力しあっています。

開発した保圧コア分析技術と装置
開発した保圧コア分析技術と関連装置

表層型メタンハイドレート開発の現状と課題

 表層型メタンハイドレートは近年、開発が進みはじめています。産総研が2013年度から3年間、日本海を中心に10海域で資源量把握に向けた調査を実施した結果、1,742カ所の表層型メタンハイドレートの存在可能性がある地質構造があることがわかりました。この調査結果の外部有識者による検証を受けて2016年度に回収技術の調査研究を開始し、2019年度から研究開発へと踏み出しました。

 表層型メタンハイドレートは海底面に近い場所にあるため、砂層型メタンハイドレートで提案した「減圧法」のような井戸を掘ってポンプで水を引いても周辺の海水を引き込んで減圧できない懸念や、海底面付近の環境に影響を与えやすいなどの難点があります。また世界的にも開発実績がありません。そのため表層型メタンハイドレートに向けた新しい技術を開発する必要があります。

 そこで産総研では、民間企業のアイデアを組み込んで回収技術の開発を進めようと、提案公募による調査研究を行いました。その結果、さまざまな企業や大学から出てきた6提案を検討し、2提案に絞り込みました。大口径ドリルを使った方式と、つり下げ式縦掘型掘削機による方式です。

 さらに2020年度からはそれらに必要な要素技術の開発に取り組み、大口径ドリルを用いた方式をベースに技術的にどの程度実現可能なのか、安定的、継続的に稼働できるのか、などを検証するため、要素技術を「採掘」、「揚収」、「分離」の三つに整理し、実証実験やシミュレーションを行っていきます。

 まず大口径ドリルを用いた掘削技術の性能を把握するために、北海道北見市のオホーツク地域創生研究パークにおいて、メタンハイドレートと同じ強度を持つ大型氷を作製して削る、模擬地盤を用いて削る、などの実験を計画しています。採掘技術が確立して、さらに揚収や分離との組合せ検討していくことになります。

2種のメタンハイドレートの特徴
2種のメタンハイドレートの特徴

メタンハイドレートの実用化に向けた取り組み

 このように、砂層型メタンハイドレートでは商業化が視野に入りつつあり、表層型メタンハイドレートは新しいシステムや技術を模索、検証を始めた段階にあります。

 そうした中、カーボンニュートラルへの対応にも取り組んでいます。メタンハイドレートは燃料や水素製造の材料として使用すると、CO2が発生します。産総研では、このCO2を処理する技術に視野を広げ、例えばメタンハイドレートの開発技術を、CCUS(二酸化炭素回収・有効利用・貯留技術)へと活用するための調査、研究にも着手しています。

 今後も、多方面の最新技術を取り込み、環境に配慮した、さらに優れた総合的なメタンハイドレート開発システムを確立し、近未来のエネルギー資源の一つとしての活用・商業化を実現していく考えです。

 <参考動画:燃える氷 メタンハイドレート【産総研公式】>

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