138年蓄積されてきたデータを連携
138年蓄積されてきたデータを連携
2020/11/30
138年蓄積されてきたデータを連携 役に立つ、使える地質情報へ
地質調査総合センターは日本の地質情報の整備を担う国内唯一の機関であり、地質に関する多種多様な専門的なデータが蓄積されている。これらを連携・統合し、誰にとってもわかりやすいデータに加工することで、防災や土地開発などいろいろな場面で活用されることが期待される。
いつでも誰でもアクセスできる「地質図Navi」
資源開発や土地開発、災害対策などに欠かせない基盤情報として「地質図」がある。地質図とは、表土の下にどのような種類の石や地層がどのように分布しているかを示した地図だ。地震も火山も多い日本の地質は他国に比べて非常に複雑だが、日本には国内全土をカバーする詳細な地質図がある。これは産総研の地質調査総合センター(旧・地質調査所)が、138年にわたって地質研究を継続し、データを蓄積し続けてきた成果である。
地質図は「出版」されるものであり、紙やデータが納められたCD・DVDなどの媒体を購入した人のみが利用できるものだった。しかし、地質図のように公共性の高いデータは、いつでも誰でも利用できることが求められていた。
「2011年の東日本大震災を機に公共データに関する政府の方針が転換したことを受け、地質調査総合センターでも10年ほど前にウェブサイト『地質図Navi』を開設し、無料で地質図を参照できるよう整備を進めてきました」
「地質図Navi」の開設・運営を担ってきた地質情報基盤センター整備推進室の内藤一樹は言う。「地質図Navi」では「50万分の1地質図幅」から「5万分の1地質図幅」まで異なった縮尺の地質図を参照できるほか、火山地質図、水理地質図、鉱物資源図など、特定のテーマに重点を置いた地質情報を重ねることができる。参照位置の移動も、拡大や縮小も自由自在だ。
関連データとひも付けて、より活用しやすく
地質調査総合センターのウェブサイト(https://www.gsj.jp/)には、ほかにも「衛星データ検索システム」「海域地質構造データベース 」「地殻応力場データベース」「津波堆積物データベース」など、30種類もの研究成果がデータベースとして掲載されている。しかし、それらは必ずしも企業や一般のニーズに沿うものではない。
「これらのデータは研究者が自身の研究に基づき、各自で公開しているデータベースなので、網羅性に乏しく、閲覧方式もそれぞれ異なります。内容の専門性も高く、専門家が読み解かなければ活用が難しいデータです。私はこういった専門的なデータを解析・加工し、ほかの情報とひも付けることで、一般の人や企業がそのデータの意味を理解し、使うことができるよう改善する必要があると考えています」
例えば、ある土地で農業用地の開発を検討する際、硫黄分の多い地層があったとしよう。「この土地には硫黄成分が含まれている」という地質情報を入り口に、その硫黄が18××年に〇〇火山が噴火したときの噴出物であることや、その噴火後に周辺地域で報告された農業被害というような異分野の情報にまでつなげることができれば、限られた人のためのデータであった地質情報が周辺の住民や農業関係者など、より多くの人たちに活用してもらえるはずだ。
内藤たちは、将来的なデータの連携に向け、データを読み解き、意味を見いだし、一つ一つ定義した情報を整備するという地道な作業を進めている。
まずは共通フォーマットの整備を
データ連携を実現するためには蓄積されたデータを一つのシステムとして使えるよう、連動が可能な仕組みを構築する必要があるが、超えるべきハードルは少なくない。個人の研究に基づいたデータベースは網羅性に欠けているうえ、ほかのデータとの連携性は考慮されていないことがほとんどだ。また、理学的な観点から取得されたデータが、そのまま農業や土木などの用途に使えるとは限らない。専門的な研究になるほど特殊なデータ項目が主体になり、各データを共通フォーマットに落とし込むことさえ一筋縄にはいかない。
しかし、日本の地質に関するデータを網羅的に保有し、それを用いて新たなデータベースを作り、整備できる研究機関は、産総研地質調査総合センターが唯一といっていいだろう。当然、将来に向けてデータを揃え、さまざまな用途に活用できる形に変換して、専門家の仕事に役立つのはもちろん、企業や一般の人々も防災や観光などに活用していけるシステムを構築する責務がある。それは日本の国土と社会の持続的な発展につながるものだ。
ニュースでは地震の際に「この地震による津波のおそれはありません」などとアナウンスしているが、もし活断層情報から過去の地滑りやその頻度などが把握できるようになれば、「数百年前の地震発生時には地滑りが起きました」「この地区の地質情報によれば、土砂崩れの危険性があります」などの情報が付加され、その地域の人たちの安全と安心にもっと貢献できるかもしれない。内藤はそのように、地質情報が日常的に活用される未来を描いている。
「いつかニュースや天気予報と連動する仕組みができ、防災などに役立ててもらえれば嬉しいですね。そのためにもデータの共通化を進め、将来的には人工知能が適確かつ迅速に処理できるようなデータベースを整備していきます」
地質情報は、一般的にはあまり注目されてこなかった“お宝”情報と言える。それを今後どれだけ活かしていけるかは、膨大なデータの再整備とデータ相互の連携技術という、これまでの地質研究とは異なる研究開発の進展にかかっている。
地質調査総合センター
地質情報基盤センター
整備推進室
室長
内藤 一樹
Naito Kazuki
産総研
地質調査総合センター
地質情報基盤センター