独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 野間口 有】(以下「産総研」という)コンパクト化学システム研究センター【研究センター長 花岡 隆昌】先進機能材料チーム 蛯名 武雄 研究チーム長、フレキシブルエレクトロニクス研究センター【研究センター長 鎌田 俊英】印刷エレクトロニクスデバイスチーム 吉田 学 主任研究員らは、住友精化株式会社【社長 上田 雄介】(以下「住友精化」という)、学校法人 東京理科大学【学長 藤嶋 昭】(以下「東京理大」という)理工学部 工業化学科 山下 俊 准教授と共同で、粘土とポリイミドを原料とする耐熱フィルムを開発した。
産総研では従来から、粘土を主成分とする膜材料「クレースト®」を研究しており、実用化に取り組んでいる。今回、クレーストの脆さを改善した耐熱フィルムを共同で開発し、ロール品を生産するプロセスを確立した。得られた試作品は、従来のプラスチック系フィルムに見られない優れた熱的寸法安定性、耐熱性などを持つほか、水蒸気バリア性も高いことが確認できた。
このフィルムは、プリンタブルエレクトロニクス用基板材料や太陽電池バックシートなど、さまざまな用途に応用できることが期待される。
なお、この技術の詳細は、2011年9月1日に仙台市で開催されるClayteam第6回セミナーで発表するほか、2011年10月13日、14日につくば市で開催される産総研オープンラボ2011で紹介する。
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図 開発した耐熱フィルム(右はロール品)
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産総研が開発した粘土膜「クレースト®」は、柔軟でありながら、高いガスバリア性や水蒸気バリア性、耐熱性、不燃性を持つため、食品・医薬品包装材料、ディスプレー・太陽電池用透明シート、太陽電池バックシート、水素シール材などへの利用が期待されてきた。しかし、ロール品としての連続合成が難しい、膜が脆く取り扱い性に劣るなどの課題があり、工業用原料向けに低コストで流通させることができず、実用化が難しかった。
一方、近年注目を集めている、軽い・薄い・落としても壊れないという特徴を備えた情報通信端末機器(フレキシブルデバイス)に用いられる基板材料は、ほとんどがプラスチックで、不燃性を付与することが難しかった。そのうえ、加熱/冷却の工程でそれぞれ膨張/収縮するため、微細な形状に加工することが難しく、加熱処理しても寸法が変わらない材料の開発が求められていた。耐熱性プラスチックとしてはポリイミドがあるが、加熱による寸法変化が大きく、また水蒸気バリア性が高くないなど、市場のニーズを十分に満足させるものではなかった。
産総研は、粘土膜「クレースト®」の開発(2004年8月11日産総研プレス発表)以来、大学などの研究機関や民間企業との共同研究によって、実用化に取り組んできた。2010年5月には産総研コンソーシアム「Clayteam」を設立し、産学官連携をさらに推進し、開発を加速・展開している(2010年9月13日産総研プレス発表)。住友精化は、再生可能エネルギー関連材料など高機能材料開発への展開を行う上で、産総研の粘土膜技術に注目し、共同研究を開始した。
今回、多種多様な粘土とプラスチックの組み合わせの中から従来の粘土膜と比較して飛躍的に取り扱い性が向上した耐熱フィルムを発見し、東京理大 山下 准教授のポリイミドに関する知見を合わせ、さらなる取り扱い性の向上、優れた膜特性の把握などに一定の成果を得るとともに、工業用シート材料として必須であるロール品の連続生産についても目途をつけた。
粘土膜は、用いる粘土やプラスチックの種類に特に制限はないため、多くの粘土とプラスチックを組み合わせて試作を行った。その結果、特殊加工した非膨潤性粘土とポリイミドを最適な配合比率で混合すると、脆さが改善された強い膜になるとともに、加熱処理の前後で大きさがほとんど変化せず、さらに水蒸気バリア性も格段に向上することが分かった。一般に粘土とプラスチックのナノコンポジット材料は、厚さ約1ナノメートル(nm)の板状粘土結晶が完全にばらばらな状態でプラスチックと混合していると良いとされ、粘土結晶とプラスチックの極性が近いことが求められる。今回用いた非膨潤性粘土は非極性の粘土であり、極性プラスチックであるポリイミドとの相性が好適とは考えられないが、混合方法の改良などによって、粘土の優れた特性とポリイミドの取り扱い性の良さを併せ持つ膜材料が実現できた。
この膜材料は、ポリイミドを溶解させた溶剤に特殊加工した非膨潤粘土を分散させた原料ペーストを流延し、溶剤を乾燥させた後、加熱処理を行うことにより製造する。これまでは、均一な原料ペーストにするために必要な溶剤量が多く、乾燥工程に時間がかかり連続製造が難しかったが、特殊加工した非膨潤粘土を用いることで溶剤量を低減させることができた。さらに、350 ℃までの高温加熱炉を有する製造装置での試作を繰り返し、厚みは30から120マイクロメートル(µm)まで、幅は50 cmまでの大きさのロール品の製造方法および製造条件を確立した。
開発した膜材料(厚さ80 µm)は、450 ℃の耐熱性を持ち、室温から350 ℃まで加熱した後の収縮率が0.04%と非常に小さいことが特徴である。これらの特性から、膜上に印刷法などで非常に微細な電子回路を作製することができる(図1)。また、約10 ppm/℃の低い線膨張係数(温度の上昇に対する長さの変化の割合)、プラスチック材料の中で最高レベルの難燃性、ポリイミド並みの電気絶縁性、ポリイミドよりも優れた低吸湿性などの特性を持つ。この膜材料は、結晶シリコン太陽電池バックシートとして用いるのに十分なレベルの水蒸気バリア性を持つが(図2 開発品)、膜材料を作製する際、粘土の結晶を膜表面に対して平行に配列させることにも成功し、水蒸気バリア性をさらに向上させることができた(図2 開発品改)。
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図1 開発した膜への印刷法による電子回路の描画例(膜の大きさは8 cm×5 cm)
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図2 代表的フィルムの水蒸気バリア性の比較
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今回開発した材料について、さらに広範な性能評価試験を行うとともに、長期耐久性の評価ならびに製品の大量生産体制を確立し、6か月以内の製品化を目標としている。また、住友精化よりテストサンプルの提供を開始し、膜材料の特性を生かした用途の探索を行っていく。具体的には、プリンタブルエレクトロニクス用基板材料、センサー用基板材料、蓄電池、パワーエレクトロニクス用材料などへの利用を検討中である。太陽電池バックシートへの応用に関しては、耐久性評価、耐候性評価を行う予定である。