独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)コンパクト化学プロセス研究センター【センター長 水上 富士夫】蛯名 武雄 主任研究員とジャパンマテックス 株式会社【代表取締役社長 塚本 勝朗】(以下「ジャパンマテックス」という)は、従来からガスケットに用いられてきた膨張黒鉛製品に、耐熱粘土膜を複合化させることにより、既存の非アスベスト製品よりも耐熱性、耐久性、耐薬品性に優れ、さらにアスベスト製品並みの優れた取扱性を実現したガスケット製品を開発した。
本ガスケットは、その優れた取扱性と耐熱性を活かして製油所などの化学プラント、火力発電所など広範に適用可能である。石油化学プラントでも、良好な実証試験結果が得られている。
本件は、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構の緊急アスベスト削減実用化基盤技術開発プロジェクト(「高温用非アスベストガスケット・パッキンの開発」)による研究成果である。
多くの化学産業分野では、高温条件下での生産プロセスにおいて、その配管連結部などで、液体や気体のリークを防止するために、ガスケットが用いられている。高温部に対してはアスベスト製品が広く用いられてきた。昨今アスベストの健康被害に対する緊急の対応が迫られ、ガスケット・パッキン分野でも平成20年(2008年)までのアスベスト製品の全廃を目標にしているが、代替品の開発が途上であり、安全性・信頼性の評価も進んでいなかった。そのためアスベスト製品と同等の性能と取扱性を持った非アスベスト製品の開発が望まれていた。
一般の非アスベスト製品にはゴムが含まれているため、耐熱性に限界があった。膨張黒鉛製ガスケット製品は、一定の耐熱性があり、圧密性に優れ、長期保存が可能であり、加工が容易であるなどの長所があることから、実際に使用されてきたが、黒鉛粉同士の結合が強くないことから、製品表面から粉が剥がれる「粉落ち」が起こり、配管内部の汚染の原因となる問題点があった。またフランジで挟み込んで使用後、新品と交換する時、フランジ面に黒鉛が付着して剥がれにくくなる「固着」が起こり、配管のメインテナンスに手間がかかる問題点があった。そのため黒鉛表面を樹脂でコーティングした製品も開発されたが、樹脂の耐熱性が低いことから、使用温度が300℃程度までに限られるという問題点があった。さらに黒鉛の特性として、400℃以上の高温で酸素雰囲気下では酸化劣化が進みガスケットが痩せていくため、シール性能が保たれず、使用できないという問題点があった。
産総研では、平成16年8月に、粘土結晶を主原料として樹脂を少量添加し、ピンホールのない均一な厚みの粘土膜「クレーストR」の開発に成功したことを発表した。クレーストは厚さ約1nm(1ナノメートル:10億分の1メートル)の粘土結晶を緻密に積層した柔軟で耐熱性に優れたガスバリア膜材料である。一方従来から膨張黒鉛ガスケット製品を製造・販売していたジャパンマテックスが膨張黒鉛製品とクレーストとの複合化を提案し、平成17年度に地域中小企業支援型研究開発制度で基礎研究(「粘土-膨張黒鉛複合材の製品化」)を開始した。その研究成果を基に、平成18年には、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構の緊急アスベスト削減実用化基盤技術開発プロジェクト(「高温用非アスベストガスケット・パッキンの開発」)を開始し、製造技術の開発、製品評価試験、実プラントでの評価試験などを行ってきた。
膨張黒鉛製品の表面に、耐熱性に優れたクレーストによる保護層を形成するための技術開発を行った。膨張黒鉛への密着性に優れた複数の天然粘土原料を選択し、ブレンドし、さらに少量の有機バインダーを添加し、水に均一分散させることにより最適なコーティング用ペーストを調製した。さらにディップコーティング法の詳細な条件を最適化するなどし、均一なコーティング層を有する複合ガスケットの製造技術を開発した。ここで選択した粘土の結晶は平板形状をしており、針状のアスベストと異なり人体に対し無害である。
次にガスケットの性能評価を行った。取扱性に関する各種試験、粉落ち・固着に関する試験の全てで良好な評価結果を得た。高温条件下でのシール試験を行い、420℃までの高温処理後も良好なシール性能を発揮することが認められた。低温側は、-240℃まで使用できる。引張試験・応力緩和試験・曲げ試験についてはJIS R3453:2001「ジョイントシート」規格に適合している。
さらに実際の石油化学プラントの高温配管部での実証試験を継続している。短期評価結果は良好であり、長期評価のデータの取得を続けている。
複合ガスケット製品開発概念図
|
|
今後さらに広範な性能評価試験を行うと同時に、長期信頼性向上などに取り組み、化学プラント産業用に加え、自動車産業用、電力産業用へと展開していく予定である。