独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)知能システム研究部門【部門長 平井 成興】空間機能研究グループ 大場 光太郎 研究グループ長、谷川 民生 主任研究員、金 奉根 研究員、ルメア・オリビエ テクニカルスタッフ、友國 伸保 産総研特別研究員 並びに タスクインテリジェンス研究グループ 北垣 高成 主任研究員は、ワイマチック株式会社【代表取締役社長 山田 茂】(以下「ワイマチック」という)、株式会社バイオメトリカシステムアジア【代表取締役会長 和田 綾夫】(以下「バイオメトリカ」という)らの協力により、ICタグや顔認証、ネットワーク・ノードなどとロボット技術をミドルウェア技術(以下RTミドルウェアという)により結合させたシステムを生活環境内に構築した。
今回構築した生活環境では、顔認証セキュリティシステム(バイオメトリカが開発)、玄関ドア施錠システム、自動ドア開閉システム、照明制御システムなど複数のシステムを、ネットワーク・ノード(産総研とワイマチックが共同開発)で無線接続し、RTミドルウェアを利用して制御している。さらに、パッシブICタグを床下に埋め込み、移動ロボットの制御をRTミドルウェアを用いて行った。本にパッシブICタグをつけることで、この移動ロボットに本の片付け作業を行わせた。
このような機器が分散したシステムを構築するには、ネットワークの配線やプログラム作成にマンパワーやコストがかかっていたが、今回の環境では、パッシブICタグやネットワーク・ノードなどを用いて無線化し、また、RTミドルウェアを用いてプログラム作成を省力化することで、効率よくシステムを構築することができた。
ロボット的な要素機器を実際の環境の各部に分散して埋め込むことで、空間自体に機能を持たせようとする試みがなされてきた。しかしながら、従来は要素機器相互を有線で結んでシステムを組むことから、システム化が煩雑となり、実用化および運用が非常に難しかった。
このような環境型のロボット技術は、経済産業省が2005年に取りまとめた技術戦略ロードマップでも取り上げられ、その必要性が認められている。また、日本ロボット工業会でも、このような環境を構造化するロボット技術の可能性を探る委員会を立ち上げ、議論を行なわれている。
産総研 知能システム研究部門では、人間生活環境において無線やネットワークを活用することで、ロボット個々の要素を分散させた環境埋め込み型ロボットの制御手法の研究をすすめてきた。
特に平成15年度には、ICタグを用いてロボットに必要な情報を環境や物体に埋め込み、それらの情報を基にロボットを制御するシステムの開発を行った。また、ロボットを制御するプログラムを書く際にモジュール性と再利用性を向上させるため、ロボット要素を繋ぐミドルウェア技術を開発し、その国際標準化活動を行ってきている。ミドルウェア技術は、新エネルギー・産業技術総合開発機構のプロジェクトで実施され、現在、OpenRTMとして提供されている。
さらには、ロボット要素を空間に自由に分散配置させた新しいロボットの形態“ユビキタス・ロボティクス”を提案し、ロボット要素を相互に無線接続するためのツールとして、ネットワーク・ノードなどの研究開発を行ってきた。
今回、人間生活環境(家庭環境)を模擬した空間に、床下に埋められた400個のパッシブICタグ、顔認証システム、玄関ドアの施錠システム、自動ドアシステム、照明制御システム、本棚に組み込まれたICタグリーダーシステム、移動ロボットシステムといった複数のシステムを分散配置した。これらの機器は先に開発された無線ネットワーク・ノードを通じて接続され、ホームサーバーから制御される。なお、制御システムはRTミドルウェアを用いて作成した。
例えば、アクティブICタグと顔認証システムによりセキュリティを二重にしたドアロックシステムや、床下に埋め込まれた多くのパッシブICタグから位置を特定しながら移動する移動ロボットシステム、さらには本に埋め込まれたパッシブICタグにより、どの本が本棚に入っているかを検出する本棚、などが含まれる。
これまで、ICタグなどのユビキタス・デバイスと、センサネットワークを用いて、生活環境でのインテリジェントスペースを構築した例は多く見受けられるが、今回のようにロボット的な側面からユビキタス空間の構築を行い、ロボットの作業のための空間として構築した例はなかった。また、従来は、分散配置された機器を有線でつなぎ、プログラム作成していたため非常に大きな労力とコストがかかっていた。今回は、パッシブICタグやネットワーク・ノードなどを利用して無線で機器を接続することで非常に短期間かつ効率よく環境を構築することが可能となると同時に、さらにRTミドルウェアを用いることで、ソフトウェア開発の効率が格段に向上し、短期間でのシステム構築が可能となった。
一般家庭においてセキュリティ機器や情報家電などのロボット的な要素機器をネットワーク化する際に、今回の技術によりコスト面での制約が少なくなり、ロボット要素導入を促進すると考えられる。なお、今回示した図書片付けシステムは、一般家庭だけではなく、例えば図書館などでの実用化も期待される。
ロボット要素技術として、無線ネットワーク・ノードと、RTミドルウェア技術が整備されることにより、今まで配線やプログラム開発などのコストが障壁となっていたロボット要素の利活用が期待でき、更にロボットシステム産業の創出も視野に入ってくる。今回のシステム構築技術の応用、実証を通じて、実用化を目指す。