独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)知能システム研究部門【部門長 平井 成興】、社団法人 日本ロボット工業会【会長 稲葉 善治】(以下「日本ロボット工業会」という)、松下電工株式会社【代表取締役社長経営執行役 畑中 浩一】は、経済産業省の21世紀ロボットチャレンジプログラムの施策のもと、独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構【理事長 牧野 力】(以下「NEDO技術開発機構」という)の委託事業として、2002年度から3年計画で国家プロジェクト「ロボットの開発基盤となるソフトウエア上の基盤整備」【プロジェクトリーダー 谷江 和雄 産総研 評価部 首席評価役】の研究開発を推進してきた。
本プロジェクトでは、ユーザの多様なニーズに応えられるロボットシステム1の実現を目指して、ロボットそのものや機能部品をソフトウエアレベルでモジュール化し、システム設計者となるインテグレータがユーザの要求に応えるロボットやシステムを、それらモジュール化された機能部品を活用することによって、比較的容易に構築することを可能にする技術の研究開発を行ってきた。
これまで、ロボットや機能部品をモジュール化し、モジュールの相互組み合わせとユーザの要求に応じたアプリケーションプログラムを適宜追加することで、ユーザの要求に合ったロボットシステムを提供するカスタムメード型ロボットシステム構築法の提案と、その一例として生活空間でサービスを提供する実証システム(RTスペース)の開発を行っている(平成16年4月8日産総研プレス発表)。
今回、提案するロボット構築法を実現する基盤ソフトウエアとして開発してきた
RT(Robot Technology) ミドルウエア(
OpenRTM-aist:Open Robot Technology Middleware implemented by AIST)を技術の普及、利用者からの技術的なフィードバックによる技術開発の加速のため、評価用として一般公開リリース
2するとともに、実際に以下の2つのプロトタイプシステムを構築し、開発したRTミドルウエアの効果を確認した。
-
実時間制御が求められるロボットアーム制御システム
-
生活支援ロボットシステム(RTスペース)〔将来有望なアプリケーションの一例〕
|
|
写真 モジュール化された機能部品として同じ制御ソフトウエアで動作する産業用ロボット(左)とヒューマノイドの腕(右)
|
-
本発表資料中で用いるロボットとは、これまでのロボット概念から脱却し、「ロボット技術を活用した、実世界に働きかける機能を持つ知能化システム」の広い意味でロボットと表現している。
-
RTプロジェクトHP 【
http://www.is.aist.go.jp/rt/】(OpenRTM-aistは、 2005年2月24日より、左記URLにて受付を開始。)
我が国のロボット産業は、自動車産業、電機産業等の製造業を中心に、工場における産業用ロボットが普及することにより拡大発展してきた。今日、我が国は世界の産業用ロボットの大半を生産する「ロボット大国」であり、国際的にもトップレベルのロボット技術を蓄積している。
一方、少子高齢化の進展による労働力不足や要介護者の増加といった課題が顕在化する中、解決の手段として、病院、福祉施設、家庭などの「製造現場以外」で活用されるロボットを開発、実用化することが期待されている。しかしながら、現時点では、これらロボットの開発は本格化しているとは言い難い。その要因としては、個々のロボット毎に信頼性、安全性、操作性、快適性の向上などの技術課題に対して様々な取り組みが行われてはいるものの、現段階ではこれらの取り組みの成果を相互に共用することが難しく、ロボット開発が非効率なものとなっていることがあげられる。
このような問題を解消し、製造現場以外で活用されるロボットの実用化、製品化を進めていく手法として、アクチュエータ、センサ、制御プログラム等といった様々なロボット要素をモジュール化し、これらを統合することでロボットの構築を可能とするロボット構築手法が期待されている。
本研究開発は、NEDO技術開発機構が平成14年度から3ケ年計画で推進している委託事業「ロボットの開発基盤となるソフトウエア上の基盤整備」によるものである。本プロジェクトでは、様々なロボット要素を分散オブジェクトモジュール化し、ネットワークを介してこれらの統合を可能とするソフトウエア上の技術基盤を構築することを目標としている。これにより、ロボット要素モジュールを統合する新たなロボット開発手法、およびロボット技術の共有化による効率的な開発が可能となる共通基盤技術が形成され、中小・ベンチャー、異業種を含む多様な企業、研究開発機関等におけるロボット開発を活性化し、製造現場以外におけるロボットの活用の拡大につながることが期待されている。
これまでプロジェクトでは、ロボットや機能部品をモジュール化し、モジュールの相互組み合わせとユーザの要求に応じたアプリケーションプログラムを適宜追加することで、ユーザの要求に合ったロボットシステムを提供するカスタムメード型ロボットシステム構築法の提案と、その一例として生活空間でサービスを提供する実証システム(RTスペース)の開発を行っている(平成16年4月8日産総研プレス発表)。
今回、RTミドルウエアのコンセプトを検証するためのひとつの実装ソフトウエア例としてRTミドルウェア(OpenRTM-aist)を開発した。まず、プロジェクト内部の共通仕様として、モジュール間の相互接続性を確保するためのオープンアーキテクチャを検討し、標準的なインタフェース仕様を定めたフレームワークとなるRTコンポーネント(モジュール化した共通のインタフェースを持つソフトウエア部品)の構造を定めた。そして、RTミドルウエアはそれをロボット用のプログラムとして実現するプログラミング支援ツールとして構成されている。具体的には、RTコンポーネントの作成支援ツール、RTコンポーネントを組み合わせたものをひとつの新しいRTコンポーネントとして合成するためのツール、RTコンポーネント同士の接続や動作制御を行うグラフィカルユーザインタフェースなどが含まれている。
今までは、プロジェクトメンバー内部だけで開発、評価を進めてきたが、技術の普及を図るとともに利用者からの技術的なフィードバックにより技術開発を加速するために、評価用としてRTミドルウエアを一般公開リリースする。具体的には、ご連絡いただいた一般の評価協力者の皆様にRTミドルウエアを試用して実際にプロトタイプシステムを開発した結果をフィードバックしていただくことを条件として、OpenRTM-aistのソフトウエアパッケージとそのユーザマニュアルをプロジェクトのホームページからダウンロードして評価していただく予定である。
|
写真 開発したRTミドルウエアのプログラム支援ツールの例
|
プロジェクトでは、このRTミドルウエアの機能を検証するために実際に2種類のプロトタイプシステム(ロボットアーム制御システム、生活支援ロボットシステム)を構築し、開発したRTミドルウエアの有効性を確認した。
まず、センサ信号に対して瞬時の応答が求められるような実時間制御が要求されるロボットシステムのひとつの典型例として、ジョイスティックで操縦できるアーム制御システムを構築し、RTミドルウエアで用意されている開発支援ツールを利用することでシステム構築が容易になることを確認した。また、RTミドルウエアの効果を示す例として、1つのコンポーネントを交換するだけで、産業用ロボットを制御していたシステムが、ヒューマノイドの腕を制御できることを確認した。
|
|
写真 ジョイスティックで操縦できるアーム制御システムとRTミドルウエアをつかったプログラム開発 |
|
図 共通インタフェースを持つモジュールとして産業用ロボットとヒューマノイドの腕とを容易に交換可能
|
そして、将来有望なアプリケーションのひとつの例として、居住空間にセンサやアクチュエータなどのロボット要素を分散配置し、これらのロボット要素が協調して動作することで生活を支援するロボットシステム(RTスペース)を構築した。ここでは、必要となる様々なロボット要素モジュールの開発を進めるとともに、それらを連携させてユーザのニーズ通りのロボットシステムを容易に構築できるサービスやツール等をアプリケーション実現機能に関するRTミドルウエアとして開発を進めてきた。構築したRTスペースにより居住空間内のロボット要素を連携動作させるアプリケーションプログラムを簡単に開発できるようになることが確認された。具体的には、
-
アプリケーションプログラム開発支援ツール(アクティビティビルダー)による生活支援アプリケーションプログラムの開発
-
携帯電話からの室内監視、遠隔操作
-
移動ロボットによる冷蔵庫からの缶の取出し作業におけるRT要素の連携
のそれぞれについて、構築したRTスペースの中で居住空間内のロボット要素を連携動作させるアプリケーションプログラムをRTミドルウエアを使って簡単に作成および変更できるようになることが検証され、RTミドルウエアの効果が確認された。
|
|
写真 生活支援ロボットシステム(RTスペース)と冷蔵庫と移動ロボットとの連携作業の様子
|
|
図 居住空間の中に分散配置されたRTコンポーネント
|
従来のロボットシステムではシステム変更に際して大幅なソフトウエアの変更を強いられていた。今回開発したRTミドルウエアを使うことで、ユーザが望むサービスを実現するのに既存の機能部品(RTコンポーネント)では対応出来ない場合においても、必要となる機能を提供する機器をモジュール化して新たな機能部品(RTコンポーネント)を作製し、それをネットワークに接続して追加することで、それを組み込んだ新しいサービスを容易に提供することが可能になる。
現在、ソフトウエア関連技術の標準化を推進する世界最大級の非営利国際標準化コンソーシアムOMG(Object Management Group)において、ロボット技術の標準化を検討するRobotics-Domain SIGが設立されている(平成17年2月7日NEDO技術開発機構・産総研・日本ロボット工業会共同プレス発表)。RTミドルウエアのコンセプトを実現する技術開発と同時進行的に国際標準の策定に向けてOMG内部での議論を開始し、技術に関心を持つ仲間を集めながら、技術の普及を図りつつ国際的な標準形成を達成することを目指している。
産業戦略としてRTミドルウエア技術を普及させるとともに、OMGにおいて日本主導で国際的な標準化を推進することが期待されている。今年度末のプロジェクト終了後も引き続き日本ロボット工業会内に対応する国内組織を設置することを検討しており、RTミドルウエア技術に関心を持つ国内企業の参加を募っている。
日本ロボット工業会主催でRTミドルウエアプロジェクトの成果報告会を平成17年3月3日(木)の午後に港区芝公園の機械振興会館で開催する予定。
各社が共通のミドルウエア(RTミドルウエア)を使って機能部品をモジュール化して市場に提供すれば、異なるメーカが提供する機能部品を組み合わせたシステムの構築が容易になる。こうした環境が整備されると、機能部品を市場に提供するビジネスと、機能部品の組み合わせ設計とアプリケーションプログラムの開発を通してユーザの要求に合ったシステムを提供するシステムインテグレーションビジネスとで構成され、多様なニーズに応じられる多種多様なロボットが開発されて生活支援ロボット産業と呼ばれるような新産業が創出されることが期待される。