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最新鋭旅客機の50%は「炭素繊維」です!
2008/10/01
炭素繊維とは、有機繊維を高熱で焼いて性質に変化を生じさせ、炭素含有量を90%以上にした繊維のことです。19世紀にあのエジソンが日本の竹を蒸し焼きにして炭素化し、白熱電灯のフィラメントに使ったのが炭素繊維の始まりといわれています。 その大きな特徴は「軽く・強く・固い」こと。鉄に比べて重さは4分の1、強度は10倍、硬度は7倍以上。耐疲労性、耐腐食性、振動減衰性(すぐに振動が止まる)、X線透過性、熱伝導率が高いという特性を持っています。一方で熱膨張率は低いので、寸法安定性(大きさが変わらない)に優れた、まさに優等生的な素材です。 炭素繊維の研究開発が本格化したのは、1950年代のこと。アメリカで宇宙開発用に耐熱性の高い炭素繊維が必要となり、レーヨンを原料にした炭素繊維が開発されました。この話を聞いた通商産業省工業技術院大阪工業技術試験所(産総研の前身の機関のひとつ)の進藤昭男博士が、ぜひ日本でもと意気込み研究開発が始まりました。
進藤博士は試行錯誤の後、ポリアクリロニトリル(PAN)繊維を用いて合成することで、より高性能な炭素繊維ができることを発見しました。そして1959年、進藤博士はPAN系炭素繊維の特許を申請しました。 このPAN系炭素繊維の開発当初は、主に耐熱性や電気的特性を利用することを想定していました。しかし、見学に来た米軍関係者から、「強度と弾性も優れている」ことを指摘され、構造用材料としての可能性を確信し、研究方針を変更することとなりました。その結果、産業用としての応用範囲がぐんと広がっていったのです。 こうした進藤博士の研究を受けて、日本国内でも炭素繊維の研究に参入する企業が増え、産業化に向けた取り組みも活発になっていきました。1962年には(株)日本カーボンがPAN系炭素繊維のパイロットブランドを設立。1971年には、ライセンス許諾を受けて産官連携で長期の開発を行っていた東レが、PAN系高性能炭素繊維の本格的生産を開始しました。
進藤博士はPAN系炭素繊維の発明以後、製造法の特許を取得し、30社近くの企業への技術指導を行いました。炭素繊維評価法の標準化の取りまとめなども行い、炭素繊維技術力の基盤づくりに尽力されました。ある発明を他の分野で製品化に結びつけたこの方法論は、「進藤モデル」と呼ばれ、現在の産総研の研究開発の土台となっています。 炭素繊維を構造材料として使用するときには、繊維の状態ではなく、主に樹脂などに埋め込んだ複合材料として用いられます。複合材料というのは、2つ以上の異なる材料を一体的に組み合わせたもので、強化材料とそれを支持するための母材から構成されています。 なかでも最も多く使われているのが、母材に熱硬化性樹脂(エポキシ樹脂)を用いた炭素繊維強化プラスチック(CFRP=Carbon-Fiber-Reinforced Plastic)です。カーボン樹脂、あるいは単にカーボンと呼ばれ、一般にはこちらの呼び名のほうが浸透しているかもしれません。
さて、この炭素繊維強化プラスチック(CFRP)、普段はあまり意識されてはいませんが、現在の私たちの暮らしになくてはならないものとなっています。 まずは1970年代、スポーツ用具に使用されたことで、一般消費者にとってもとても身近なものとなりました。釣竿、ゴルフシャフト、テニスラケット、スキー板など、さまざまな用具に活用され、軽量化はもちろん性能の向上に大きな役割を果たしました。現在でも、スポーツ用具全般に不可欠な素材として活用されています。 1980年代からは、大型旅客機の機体への活用が始まりました。最新鋭機であるボーイング787では、機体の構造重量全体の50%をCFRPが占めています。燃費の向上はもちろん、胴体構造の強度化により客室スペースが拡がり快適性も高まりました。 その他にも印刷機のローラー、高圧タンク、耐震補強材、風力発電のブレードなど、土木、建築、産業用機械、航空宇宙開発など、その用途は時代とともに広がり続けています。
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