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DAC(直接空気回収技術)とは?
2023/08/30
DAC(直接空気回収技術)
とは?
―カーボンニュートラル実現に貢献するネガティブエミッション技術―
科学の目でみる、 社会が注目する本当の理由
DAC(Direct Air Capture、直接空気回収技術)は、大気から直接、二酸化炭素(CO2)を分離・回収する技術のことをいいます。大気中の約0.04 %という希薄なCO2を取り出すため、固体や液体にCO2を吸着・吸収させる、特殊な膜でCO2を分離して回収する、冷却して固体(ドライアイス)にして回収するなどさまざまな技術が研究されています。2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、大気中のCO2を積極的に回収する必要性から注目が高まった技術です。CO2を回収した後に貯留するCCS(Carbon dioxide Capture and Storage、CO2を分離・回収し地中などに貯留する技術)とあわせて、DACとCCSをつなげてDACCSとも呼ばれます。
2050年のカーボンニュートラルの実現に向けて、CO2排出を抑制するだけでなく、すでに排出されたCO2を分離・回収して固定化するネガティブエミッション技術が不可欠となり、DACへの注目度は急速に高まりました。大気中のCO2を直接回収するDACの技術にはさまざまな種類があり、設置条件、エネルギーコスト、規模などを考慮しながら世界中で研究開発が進められています。DACの技術のなかでも、CO2を選択的に透過する膜を用いてCO2を分離・回収する「膜分離法」は、原理的には熱エネルギーを必要としないため、カーボンニュートラルの実現に有用な方法のひとつであると考えられます。産総研では、混合イオン液体膜を用いたDAC技術の実用化を目指し、イオン液体膜の製造技術や耐久性向上技術などを開発しています。DACの概要や実用化に向けた取り組みについて、化学プロセス研究部門 化学反応場設計グループの牧野貴至研究グループ長に聞きました。
DACとは、大気中のCO2を分離・回収する技術の総称で、CO2を取り出した後に貯留するCCS(Carbon dioxide Capture and Storage、CO2を分離・回収し、地中などに貯留する技術)とあわせて、DACとCCSをつなげてDACCSと呼ばれます。
2050年までにCO2を含む温室効果ガスの排出量を全体としてゼロにする、つまり、カーボンニュートラルの実現に向けて、再生可能エネルギー技術や省エネルギー技術の開発と普及が進んでいます。しかし、いくら再エネ技術や省エネ技術を積み重ねていってもCO2排出量はゼロにならないという予測が出ています。そこで、CO2排出を抑制するだけでなく、すでに排出されたCO2を分離・回収して固定化するネガティブエミッション技術が不可欠とされています。(関連記事:「2050年カーボンニュートラル」への道筋が見えた )
ネガティブエミッション技術にはDACのほかにも、植林や鉱物への固定化、バイオマス発電から生じるCO2を回収し貯留するBECCS(Biomass Energy with Carbon Capture and Storage)などさまざまなものがありますが、設置面積が小さく済むことや設置場所を選ばないことなどから、DACは特に注目を集めるようになりました。
DAC技術は大きく下記の4つの方法があります。
欧米では、化学吸収法および化学吸着法の研究開発だけでなく、大規模実証も進められており、一部企業では商用規模の設備も稼働させています。日本では、化学吸着法や深冷分離法、分離する際のエネルギーが比較的少なくて済むと期待される膜分離法の研究開発が進められています。
DACに共通する課題は、エネルギーコストの高さにあります。DACの装置に多量の空気を送り込むファンを稼働させるためには多くの電気エネルギーが必要です。また、約0.04 %しかない大気中のCO2を処理するために、他のCO2分離回収技術よりも強力にCO2と結合する材料が求められています。そのため、材料に吸収・吸着されたCO2を回収するために多くの熱エネルギーや電気エネルギーを必要とします。
DACに必要なエネルギーをどのように供給するかという点も考慮に入れなければいけません。CO2を回収するために、化石燃料を用いて発電しCO2を排出するのは本末転倒です。風力、太陽光、地熱などの再生可能エネルギーを用いることが重要ですが、現時点で日本において、低価格で潤沢な再生可能エネルギーを供給することはできていません。世界に目を向けると、再生可能エネルギーの供給適地にて、空気から回収したCO2を利用して燃料を製造している企業などがすでにあります。日本でも積極的にDAC事業を展開するためには、再生可能エネルギーをどのように供給していくかということが鍵となるでしょう。
化学吸収法や化学吸着法は、分離材料に吸収・吸着させたCO2の回収に多量の熱エネルギーを消費することが欠点のひとつです。一方で、膜分離法では、真空ポンプを使って膜の反対側を減圧することでCO2を選択的に通しています。原理的に熱エネルギーを必要としないため、産総研ではこの膜分離法に注目しています。より高機能な膜の材料を求めて、分子構造を変える、材料の混合比率を変えるなどして、最適な材料を探索しています。
私たちの研究グループでは、イオン液体と呼ばれる物質をフィルムなどに含ませた「膜」として使用する膜分離法を研究しています。DAC用のCO2分離材料には、大気中の希薄なCO2を強力に捉えながらも、捉えたCO2は容易に放出できるという、相反する能力が求められます。最近では、性質の異なる2種類のイオン液体を混合することで、この相反する能力の両立に成功しました。混合イオン液体を多孔質フィルムに塗工することで、大気と同じ濃度のCO2を70 %以上に濃縮できる、高性能なCO2分離膜の開発にも成功しました。
現在は実用化に向けて、イオン液体膜の耐久性の向上や生産技術の高度化などの課題解決に取り組んでいます。また、この技術は大気中のCO2を対象としていますが、混合イオン液体の組成を変えることで、多様なCO2排出源を対象としたCO2分離用イオン液体膜への発展も見込めると考えています。
DAC用のCO2分離材料や分離技術は、国内外で盛んに研究されています。どのような材料・技術が、どのような用途・場所に適しているのか、研究だけでなく実証を交えて検証していく必要があります。また、CCS/CCUSは個別の企業で完結するものではなく、複数企業によるCO2のサプライチェーンの構築が欠かせません。DACにおいても例外ではありません。このほかにも、DACの普及を促すためには、クレジットの認証や規格・標準化といった、社会的な制度設計も不可欠です。産総研としては、多様な企業や関係機関と協力しつつ、DACの社会実装、2050年カーボンニュートラルの実現に貢献したいと考えています。
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