未来洞察
未来洞察
2022/06/29
未来洞察
―VUCAの時代を勝ち抜く思考法―
科学の目でみる、
社会が注目する本当の理由
未来洞察とは?
未来洞察とは、産総研デザインスクールがプログラムに取り入れている思考法です。従来のフォアキャスト型の発想ではなく、まだ現実になっていない未来から今を振り返るバックキャスト型で発想する思考法です。「SF思考」とも近い思考法です。
システム思考やデザイン思考とは何がどう違う?
イノベーションを生み出すために、近年、さまざまな思考法が提唱され、実践されています。例えば「システム思考」では、問題を解決するために、俯瞰した視点で多くの要素のつながりを見える化したり、パターン化したりすることで本質的な解決を導こうとします。どちらかと言えばロジカルな左脳の思考法です。
一方、「デザイン思考」では、ユーザー側の感じ方、使う人との共感からアイデアを共創する方法。どちらかと言えば右脳的な経路で革新的な発想にたどり着くことを目指します。つまり、今、多くの人や企業が、VUCAの時代を生き抜くために、今までのものの見方や考え方を抜け出そうとチャレンジしていると言っていいでしょう。
さらに今、もっと発想を飛躍させるため、誰も知らない未来から発想するという手法が注目を集めています。「未来洞察」と呼ばれる発想法で、一橋大学の鷲田祐一先生が研究し、産総研デザインスクールでもプログラムに取り入れているものです。
まるでSF。バックキャスト型で発想する「未来洞察」
「未来洞察」のいちばんの特徴は、過去や現在から予測するフォアキャスト型ではたどり着けない発想を、ありたい未来からのバックキャスト型で発想すると同時に、知らない/気づいていない未来(unknown unknown)から強制発想し、未来の可能性を探索する方法だということです。
まずは社会で起こっている変化の兆しの記事を数多く集めて「スキャニングマテリアル」とし、それらを何百件という数、閲覧(スキャニング)しながら、気になったものを数件選び、それらから社会変化シナリオを抽出します。さらに、そこに自分たちの技術開発シナリオを掛け合わせて、ストーリーを「強制発想」するというのが「未来洞察」のやり方です。未知の領域から発想する「アウトサイド・イン発想」とも言われます。
これを個々人で行い、ペアでやり、さらにチームで何ヶ月もかけて行っていくうちに、面白いSFのようなストーリーが続々と生まれてきます。産総研デザインスクールのプログラムのなかで、リアル世界がバーチャル世界の一部になる社会や、人工食糧が普及する社会、高齢者が冒険的な起業をするようになる高齢社会を描いたチームもありました。
すべての前提は、深く自分の“WHY”を内省すること
さまざまな発想法を実践するハッカソンやアイデアソンは日本でも多く行われるようになっています。ただ、プロトタイプをつくるなど「やった感」が感じやすいところにばかり注目して、その手前の段階である共感をベースとした対話を大事にしないと、定着はしにくいです。
産総研デザインスクールでは一人ひとりに内省を促すことを大事にしています。「自分のやりたいことはなんだったんだろうね」と、何度も問いかけます。その人が取り組んでいる“WHAT”や“HOW”ではなく、“WHY”を問い、なぜそれをやっているんだっけということを、一度、過去に戻って深掘りしてもらいます。月に1回、一人30分ずつメンタリングを行うなど、この部分にかなり時間をかけるのが、私たちのいちばんの特徴です。
自分の過去を深掘りするとは、「未来洞察」と矛盾するようですが、つながっています。自分の“WHY”、“WILL(志)”に気づくことができている人は、「未来洞察」でたくさんの未来の芽をスキャニングしたときに深い共感が生まれます。深掘りをしているほど発想を飛躍させられる。そこには相乗効果が生まれているのです。
未来のストーリーを現実にするために必要な力とは?
さらに、大事なのが「未来洞察」で導いたストーリーを、どう実現につなげるかです。私たちはSFの作家ではないので、自分と全然関係のないストーリーをいくらつくっても、「おもしろいけど、それで?」となってしまいます。それでは意味がありません。SFのような未来ストーリーであっても、そこにその人の“WILL(志)”が込められていれば、その夢のような話に乗ってみようという人が出てきます。
産総研デザインスクールでは、将来の共創型次世代リーダーとして、そこまでの力を育みたいと考えています。ありたい未来をストーリーテリングし、他の人にも夢を見せて、オンボーディングさせられる力です。共感を生まずに、共創は生まれません。だから私たちは対話を大事にします。連携しているデンマークのビジネススクールKAOSPILOTの「クリエイティブリーダーシップ研修」も行っていますが、その研修でも、対話し、お互いに信頼関係を築くことを大切に行っています。
うれしいことに修了生たちの活躍が始まっています。国家プロジェクトのリーダーになっている人、ベンチャーを立ち上げて成長させている人、企業に戻って人材育成事業をやっている人など、活躍の仕方は多彩です。この学校で、迷わないで出ていった人はいません。「迷う時間をありがとう」と言って卒業し、企業幹部からも感謝され、継続的に送り込まれはじめています。迷い悩むこと自体が、解のない問題を考える力を育みます。レールのつながっていない未来を洞察し、新たな未来の共創をリードするための迷い方を、ぜひ多くの人に身につけてほしいと考えています。