気づきを得、課題を設定、アイデアを生む
気づきを得、課題を設定、アイデアを生む
2020/04/30
気づきを得、課題を設定、 アイデアを生む 街全体でイノベーションを“共創”する
産総研は、新たなモノ・コトを共創する「デザイン力」を体得するための“学びの場”である産総研デザインスクールを立ち上げた。柏の葉の街を実験場として実証を行いながら、さまざまな分野の人たちとともに“共創場”をつくりあげていく。
社会課題を探求し仲間とともに未来を創造する
2018年、産総研は「これからの社会で本当に必要とされること」を探求し、仲間とともに未来のくらしを創造する「共創型テック・リーダー」を育成する教育プログラム「産総研デザインスクール」を立ち上げた。主な対象者は産総研と企業の研究者・技術者などである。
この組織が設立された背景には、「技術で勝って、ビジネスで負ける」と言われる日本の研究者・技術者には、今後、技術だけを考えるのではなく、社会に実装され、ビジネスで成功するまでをデザインしていく能力、企業の中で営業や生産担当の人たちと商品化・事業化をともに考えていく力が必要なのではないだろうか、という問題意識があった。
そこから生まれたこの産総研デザインスクールは、「デザイン思考」という手法を用いて、研究者・技術者のマインドセットを変えていくために用意された“共創場”だ。
「企業や研究機関、産総研など、さまざまな組織から多様な経歴を持つ人が参加する場をつくり、実証実験をしながらデータを集め、新たなビジネスをつくっていく。社会に必要とされる技術を開発するには、そのような協働の場=“共創場”をつくることが重要なのです」
“共創場”を研究対象としている小島一浩はそう語る。このスクールでは8カ月という長い期間をかけて“、共創場”で必要となるメソッドを学ぶだけでなく、実際にプロジェクトを実践しながら経験し学習する場となっている。
「社会のためになにかしたい、と思っても、自分一人の思いだけでは成功するビジネスはつくれません。思いに共感するさまざまな人と協力しながら、一緒につくっていくべきなのです。そのとき方法論を共有していれば、それぞれのプロセスを効率的に進められます。また、産総研デザインスクールはメソッドを学ぶだけでなく、プロジェクトを柏の葉の街で実際に実践することができるのが特徴です。参加者は実環境を使ったプロジェクトを実施した、という経験も得ることができます。開発の現場は時間的制約や失敗が許されないなど厳しい環境とは思いますが、このスクールで得た知識と経験をもとにさまざまな共創場を作り出してほしいと思っています。」
プロジェクトの実践を通して自ら気づき、行動につなげる場
小島自身、初年度に生徒としてデザインスクールに参加している。これまでの技術シーズを橋渡しする方法では、社会的なインパクトは生まれにくいと感じていた。デザインスクールでの学びを通して、社会的なインパクトを考えた場合、対話や文化も含めた背景が重要であると理解できたと言う。そして、日本の文化に根ざしたデザインプロセス、すなわち、学校教育の中で、主体的に考え、主体的に実践する経験をあまり積んできていない日本人に合わせたプロセスをつくることが必要だと気づき、その気づきをもとに小島たちはカリキュラムを変更している。
「このスクールの設計自体も研究対象だということです。プログラムを通してどう参加者の意識が変わり、どのような成果が出るのか、経験学習をどう促進していけば効果的なのかについても研究しています」
2020年4月から産総研デザインスクールは3期目に入る。まだ製品化につながった例はないが、参加者からは「研究の方法論を変えて成果が出はじめている」「チームでの議論の進め方や顧客対応の方法を変えたら業務がスムーズに進むようになった」などの声が聞かれるほか、同様の手法で学びの場づくりを始めた企業もあるなど、企業にイノベーションを生み出そうとする意識が育ち始めていると小島は感じている。
「これまで自然科学系、中でも工学系の研究者や技術者はモノや技術だけを対象に研究してきました。しかし、モノを使うのは人である以上、社会や人間のことを考えなければなりません。これまでとは研究開発の方法論が違うとわかってもらうと同時に、自分が社会の中で何をしたいのかを発見し、それを実現するためにはどのような人たちと協働し、実現させていくかを考える必要があります」
市民とともに共創場をつくる
産総研デザインスクールは、技術やサービスを体験型のワークショップ形式で小規模に試し、参加された柏の葉の住民の方から意見や気付きなどをフィードバックしてもらっている。これは、「チャレンジできる場」が少ないといわれる日本において、貴重な「実験場」である。
「3.11(2011年)以来、被災地の復興支援にかかわり、チャレンジする地方の方々と協働してきました。一方で、日本全体では、組織、チーム、個人のチャレンジがし難くなっています。人間拡張技術は人間のチャレンジを引き出す技術だとも思っています。そこで、人間拡張技術と産総研デザインスクールの連携で、市民の方々とともにチャレンジできる場としての共創場をつくってみたいと思っています」
産総研デザインスクールから日本ならではのデザイン思考を広めていく。小島の挑戦はまだ始まったばかりだ。
人間拡張研究センター
共創場デザイン研究チーム
研究チーム長
小島 一浩
Kojima Kazuhiro