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AI×ロボットで、バイオ産業の未来を拓く!
2019/04/30
AI×ロボットで、バイオ産業の未来を拓く!実験・解析の自動化でスピーディな創薬開発
サイバーフィジカルシステム研究棟の4階バイオ実験室で、2台の双腕型ロボットがゆっくりと腕を動かし、ピペットで中の液体を吸い取っていた。
ピペット操作も含めライフサイエンス実験は、人間が一つ一つ手を動かして行うものが多い。しかし、人間の手作業では、サンプルの条件を高い精度で一定にそろえることが難しい。「それに対してロボットは24時間、いつでも確実に同じ作業ができます。培養液も、決められた量をわずかの狂いもなく注入できるので、実験条件を常に一定にすることができるのです」と人工知能研究センターオーミクス情報研究チームの光山統泰は言う。
培養条件を細かく変えて、その結果をもとに実験を行う場合、人間の手作業では条件が一定にならないため、得られた測定データの品質は高いとはいえない。そのため、大量のデータを解析する場合、それぞれのデータに応じた補正処理が必要になる。しかし、生物学には物理学で用いられるような普遍モデルはなく、実験ごとの補正条件を定めるには研究者の経験や勘に頼らざるを得なかった。
「より正確な解析結果を得るには、品質の高い測定データが必要であり、それにはより高い精度で条件を一致させた実験をしなくてはなりません。これまではそれ自体が難しいことでしたが、自動で実験を行うロボットを導入することにより、測定データの品質の問題が解消できると期待されています」
細胞培養を行う際、細胞の分化度合いを顕微鏡で確認する作業が必要になる。ここでは、ロボットで培養した細胞を超解像度顕微鏡で自動的に撮影し、その画像の分化度合いをAIが判断するシステムを構築している。このAIとロボット、さらには超解像度顕微鏡との組み合わせが、この研究の大きな特徴だ。
「超解像度顕微鏡の画像では、これまで人間には捉えきれなかった精度で細胞分化の度合いなどが観察できます。これまでは人が写真から、培養条件と細胞の変化の関連性を見出していましたが、AIの導入により、人間が気づかないような微妙な関連性が解析できるようになったのです」
現在、特定の細胞においては、ほぼ100 %の割合で分化度合いを判断できるようになった。
「ロボットを用いれば、培養条件を細かく変え、細胞がそれぞれでどのように分化していくかに関して、信頼性の高い測定データを得ることができます。その測定データをAIが自動判別できるようになれば、それぞれの細胞を培養するための最適な条件を自動探索することも可能になってくるでしょう」
さらに、高速で撮影ができる超解像度顕微鏡を新たに導入し、 AIに学習させるための大量のデータ取得も同時に行っている。
AIとロボットの組み合わせによる実験の自動化と実験品質の安定、そこから得られる測定データの品質の安定により、データ解析の精度があがる。解析の結果に基づき実験手順を変更し、またそのデータを用いて解析する、というような活用もできるかもしれない。そしてこのサイクルが発展することで、再生医療やがん治療法の開発などを、よりスピーディに進めていけるようになる可能性がある。また、これまで人間の経験と勘に頼っていた核酸やタンパク質などの生体機能分子の探索が自動化されることで、新薬の開発や革新的な機能を持つ分子の開発が、これまでよりもずっと短時間になることも期待されている。
現在は双腕型ロボット2台を使って細胞培養の実験やがんの進行過程の解明につながるエピゲノムに関する実験を進めている。将来的には、この型のロボットだけでなく、さまざまなバイオ実験ロボットとの組み合わせを検討する構想もある。
「今後このサイバーフィジカルシステム研究棟を、新しいバイオ研究の拠点としていきたいと考えています。頭=AI、手=ロボット、目=顕微鏡という役割分担で、AIは実験手順の最適化を行い、ロボットが実験を実施し、顕微鏡で結果観察をする。そしてその結果に応じて再度AIで最適化…というループを高速に動かすことが期待できます。いずれはバイオ実験の全工程を自動化し、研究者は実験をロボットにすべて任せて、新たな価値を生む研究に専念することが当たり前になるとよいですね。そのためにも今後、“細胞培養実験をしているが細胞がうまく培養できない”、“培養の最適条件を見つけたい”などの課題に対し、いろいろな企業の方々とチャレンジしていきたいです。ぜひお気軽に声をかけてください。各種の実験にAIとロボットを応用することで自動化し、バイオの世界の新しい未来を拓いていきましょう」と光山は力強く語る。
人工知能研究センター オーミクス情報研究チーム 研究チーム長
光山 統泰
Mitsuyama Toutai
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