※掲載情報は、2023年度時点のものです。
風力発電O&M改善技術およびアセスメント技術
研究背景
世界の風力発電導入量において、洋上風力が占める割合(単年)は10〜20%以上に達し、本格的な洋上風力の時代に入っています。我が国は、2050年にカーボンニュートラルを達成することを目標としており、その達成のための重点技術分野の一つが洋上風力です。日本でも洋上風力を中心に風力発電を主力電源としていくためには、国内における関連産業の競争力を強化し、発電コストをさらに低減していくことが必要です。
研究目標
洋上風力に関する課題解決と導入拡大に向け、「洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会」により、「洋上風力産業ビジョン(第1次)」(2020)が策定され、以下の3つが官民目標として掲げられました。
- 2030年までに1,000万kW(10GW)、2040年までに3,000万〜4,500万kW(30〜45GW)の案件を形成する
- 国内調達比率を2040年までに60%にする
- 着床式の発電コストを2030〜2035年までに8〜9円/kWhにする
当チームは、この官民目標の達成を技術面で支援、貢献することを目的としています。特に、健全な国内導入を技術面で支援、貢献するとともに、国内調達率の向上に向け、国内企業と連携して先端的なO&M(運用とメンテナンス)技術を開発、実証し、実用化につなげ、大学・企業人材の育成を進めることを目標としています。
<関連情報>産総研マガジン:洋上風力発電とは?(2022/11/09)
研究内容
1.風力発電O&M改善技術
今後大量導入される様々なメーカ・型式の風車に対応可能な、風力発電運用・メンテナンス(O&M)改善技術(図2)を開発・実証・実用化することが必要です。
風力発電の維持管理等の技術開発・人材育成拠点の形成(2021~2025年度)
これまでの目的基礎研究、共同研究、シーズ支援事業テーマを発展させ、「福島県における再生可能エネルギーの導入促進のための支援事業費補助金(福島再生可能エネルギー研究所最先端研究・拠点化支援事業)風力発電の維持管理等の技術開発・人材育成拠点の形成」(図3)を受託しています。
このプロジェクトでは、国内外の大学・研究機関、風力発電関連企業との連携体制を構築し、試験を伴う共同研究・技術コンサルティングを通じて、企業人材の育成と国内企業の競争力強化につながる活動を推進しています。
<関連情報>「風力発電の維持管理等の技術開発・人材育成拠点の形成」事業(2021~2025年度)
2.風力発電アセスメント技術の高度化
近い将来、本格大量導入が見込まれる洋上ウィンドファームの建設計画に必須である洋上風況データ取得について、高信頼性および低コストを両立する計測・調査手法の確立が必要です。
NEDO 着床式洋上ウィンドファーム開発支援事業(洋上風況調査手法の確立)(2019~2022年度)
NEDO洋上風況調査手法の確立事業※を代表機関として受託し、複数のスキャニングライダーを使用した国内初の大規模で長期間の野外実験を展開し、信頼性の高い実証データを取得しています。
※産総研、神戸大、日本海事協会、イー・アンド・イーソリューションズ、日本気象の共同受託プロジェクト
主な研究成果
1.風力発電の維持管理等の技術開発・人材育成拠点の形成
先端的なO&M改善技術を開発、実証するため、気象観測マスト、ナセル搭載ライダーを新たに導入するとともに、プラズマ気流制御電極、応力発光塗料等、先端的なセンサー、デバイスを搭載した風車ブレードを製造しています。
また、デンマークR&D社製大型エロージョン試験装置(図9)の国内初導入や、既存の大型風洞設備の改修等により、高度な試験・解析が可能な環境を整備するとともに、国内外の大学・研究機関、風力発電関連企業との連携体制を構築し、試験研究を伴う共同研究・技術コンサルティングを通じて、企業人材の育成と国内企業の競争力強化につながる体制を整備しました。
2.スキャニングライダーによる洋上風況調査手法
2台のスキャニングライダーによるデュアル計測(DSL)により、平均風速だけでなく、設置される風車に作用する荷重と寿命の解析評価に重要な乱流強度についても、従来法(気象観測マストに設置されたカップ風速計による計測)と比較して1/10のコストで同等精度を達成できることを実証し、スキャニングライダーを活用した洋上風況調査手法を確立しました。
また、この手法をベースとして、国内における標準的な洋上風況観測手法を規定したNEDO「洋上風況観測ガイドブック」(公開:2023年4月6日)の策定に貢献し、これにより、政府の導入目標である「2030年までに1,000万kW(10GW)、2040年までに3,000万〜4,500万kW(30〜45GW)の案件を形成する」を技術面で支援しました。
<関連情報>NEDO「洋上風況観測ガイドブック」(外部サイトへのリンク)
主な研究設備
試験研究用風車 駒井ハルテックKWT300改
定格出力:300kW、風車直径:33m、ハブ高さ:41.5m。
日本の厳しい外的条件(複雑地形起因高乱流、等)に耐えるように設計されており、産総研もその設計段階において共同研究を通じて協力・貢献しています。
制御を含めた高度なカスタマイズが可能な世界的にも稀有な試験研究用風車であり、ナセル搭載ライダー、プラズマ気流制御電極、応力発光塗料等、先端的なセンサー、デバイスを実機に搭載してO&M改善技術を開発、実証しています。
ナセル搭載ライダー
風車前方(4方向)にレーザーを照射し、風車上流側の風速・風向を計測・評価できる装置です。
計測データは、風車の性能評価や、流入風に応じた風車の制御運転に利用されます。
2台のライダーは試験の内容に応じて、レーザーの異なるスキャニングパターンを設定することが可能です。
風車ブレードエロージョン試験装置
洋上風力発電では、高速で回転する風車ブレードに雨滴等が衝突することによりブレード表面が劣化する課題(エロージョン)が顕在化しており、その現象を地上で再現する試験設備を導入しています。
この装置を活用し、対策技術を国内企業と共同で開発、実証する取り組みを行なっています。
大型風洞設備
測定部断面:1.4 m×1.4 m、最大風速:48 m/s。
風車用翼型を用いた翼性能評価試験においては、中型風車の運転範囲とほぼ同等なレイノルズ数160万(最大コード長60 cm)を達成可能な大型風洞です。
変動流発生装置や速度成層流発生装置を備え、多様な時空間流入風プロファイルを形成することも可能です。
六分力天秤や熱線流速計などの基本的な流体計測装置のほかに、高速Nd:YLF(ネオジムドープイットリウムフッ化リチウム)レーザーと高速度カメラを備え、流れ場の時系列可視化測定に対応しています。
高電圧試験装置
最大印加電圧200 kVおよび50 kVの商用周波電圧印加装置、最大印加電圧150 kVの高周波電圧印加装置を備え、長期間の絶縁耐久性試験が実施可能な設備です。
プラズマ気流制御用電極をはじめ、各種高電圧機器の絶縁特性に関する研究に活用しています。
スキャニングライダー
装置から照射するレーザーとその反射波のドップラーシフトを計測することにより、数km先の風速を数秒間隔で計測する装置です。
メンバー
※2024年10月1日時点
役職 |
氏名 |
|
研究チーム長 |
小垣 哲也 |
KOGAKI Tetsuya |
主任研究員 |
田中 元史 |
TANAKA Motofumi |
主任研究員 |
川端 浩和 |
KAWABATA Hirokazu |
主任研究員 |
嶋田 進 |
SHIMADA Susumu |
研究員 |
久保 徳嗣 |
KUBO Noritsugu |
研究員 |
粟飯原 あや |
AIHARA Aya |
研究チーム付 |
森川 泰 |
MORIKAWA Yasushi |