太陽電池モジュール技術
研究背景
第6次エネルギー基本計画(2021年10月、閣議決定)における2030年度のエネルギー需給の見通しのなかで、太陽光発電の導入見込量の野心的水準として103.5~117.6GWが示されています。再生可能エネルギーの主力電源化には太陽電池の利用拡大が不可欠であり、立地制約を克服するための技術革新を図るとともに、太陽電池の新たな価値を見出すための取組が必要です。太陽電池は事業用の大規模発電のみならず自家消費や地産地消を行う分散型エネルギー源として、更に災害に対する強靭化の観点からも活用が期待されています。
研究目標
当チームでは、太陽電池の利用拡大に資する以下の研究開発に取り組んでいます。
- 次世代高効率「シリコンタンデム太陽電池」の実用化研究
- 太陽電池の設置形態の多様化に向けたモジュール技術の開発
- 太陽電池の熱管理・利用技術の開発
- 結晶シリコン太陽電池モジュールの寿命予測技術の開発
研究内容
これまで太陽電池はメガソーラーと呼ばれる大規模発電所や住宅に設置されてきました。また太陽電池は利用形態によらず長期間使用できることが不可欠とされてきました。今後、太陽電池を工場屋根や移動体に設置して幅広く活用していくためには、利用環境に応じた様々な課題を克服していく必要があります。
以下に現在取り組んでいる主な研究課題を紹介します。
1.次世代高効率「シリコンタンデム太陽電池」の実用化研究
自動車を始めとする移動体での太陽電池の利用が始まっています。太陽電池を搭載した電気自動車が市販されていますが、太陽電池を設置する面積が限られる中で、より高い出力を得るためには、高いエネルギー変換効率をもつ太陽電池セルが必要とされます。
当チームでは、結晶シリコン太陽電池にペロブスカイト太陽電池を積層したタンデムセルの開発を行っています。ペロブスカイト層とシリコン基板それぞれが得意とする波長の光を効率良く利用することにより、個々の特性を凌駕する高いエネルギー変換効率が期待できます。
また、タンデムセルの実用化を目指し、理論と実験の両面から開発を進めています。シリコン基板(156mm角)上へ高効率且つ均一性の高いペロブスカイト太陽電池を作製するための成膜・結晶化技術の探索を行っています。シリコン基板サイズのタンデムセルの生産性の向上のため、ペロブスカイト材料の使用量を必要最小限に抑える成膜方法の確立を目指しています。
2. 太陽電池の設置形態の多様化に向けたモジュール技術の開発
耐荷重が小さく重量制限のある工場や倉庫の屋根へ太陽電池を設置するためには、モジュールの軽量化が必要です。現在利用されている多くのモジュールは、エチレン・酢酸ビニル共重合体(ethylene vinyl acetate, EVA)を封止材として、太陽電池のセルをガラス(受光面側)とバックシート(裏面側)でラミネートしています。そのため、モジュールの重量の大半はガラスが占めています。また、ミリ単位の厚さのガラスが用いられているため、モジュールには硬くて曲がり難いという特徴があります。
当チームでは、ガラスをフィルムへ置き換えた軽量モジュールの開発を行っています。ガラスを使わないフィルム型モジュールは、「曲がる」という特徴も兼ね備えています。
従来型ガラスモジュールの良い点として、表面のガラスが雹や飛び石による衝撃や積雪による荷重から太陽電池のセルを保護していることが挙げられます。ガラスからフィルムへ置き換えることにより、衝撃や荷重から太陽電池のセルをいかに保護するかが課題となります。さらに、ガラスには表面から水分などの侵入を防ぐという働きがあるのと同時に、EVAから発生する酢酸を放出し難いという特徴があります。それに対してフィルムは、水分や酢酸を透過し易いという特徴があります。
当チームでは、衝撃や荷重に対する強度や温度、湿度、紫外線などの環境ストレスに対する耐性を課題として、結晶シリコン太陽電池フィルムモジュールの開発を進めています。フィルムモジュールのストレス加速試験において、ある試験条件下では、フィルムモジュールはガラスモジュールよりも高温高湿に対するストレス耐性が高いことを見出しています。
この結晶シリコン太陽電池フィルムモジュールは、長年市場での利用実績がある結晶シリコン太陽電池を用いていること、そしてガラスからフィルムへ材料を置き換えるだけでこれまでの製造設備が利用できることから、太陽電池の利用拡大に向けたモジュールとして期待されています。
3. 太陽電池の熱管理・利用技術の開発
半導体である太陽電池は熱との関りが非常に強く、当チームでは太陽電池に熱を利用する研究に取り組んでいます。その一つが「熱回収型太陽電池」です。半導体材料へ光を照射したとき熱となって失われていたエネルギーを利用し、より高いエネルギー変換効率が得られる熱回収型太陽電池を理論的に提案しました。
この熱回収型太陽電池では、単接合シリコンの理論限界効率(約29%)を超えるエネルギー変換効率を得ることが可能です。この理論に基づき太陽光-熱電ハイブリッド素子の一般論を構築しました。そしてモジュールを試作し、その温度特性の検証を進めています。理論的検討と実証実験を繰り返しながら、この新コンセプト太陽電池の実現を目指しています。
このようなハイブリッド素子は、太陽電池の周辺の熱環境を有効に活用して素子全体の総発電量の向上につなげることができます。当チームでは『熱管理・熱利用に資する熱収支モデルの構築』を目指し、FREA実証フィールドにおいて太陽電池の発電量と熱環境(日射、輻射、風況、温度)の相関データの取得を開始しました。このモデルは太陽電池の寿命予測にも活用でき、生涯発電量の向上にもつながる技術として期待されています。
4. 結晶シリコン太陽電池モジュールの寿命予測技術の開発
当チームでは、2020年度からの4年間、京セラ株式会社との結晶シリコン太陽電池の生涯発電量の向上に関する共同研究を通じて太陽電池の導入拡大を目指してきました。この共同研究では、高効率結晶シリコン太陽電池の研究、太陽電池の劣化挙動の解明と長寿命化、寿命予測技術の研究開発などを行ってきました。当チームのモジュールの試験/解析技術と京セラ株式会社の長期信頼性設計技術を融合し、太陽電池モジュールの寿命予測技術体系の確立に至りました。
これによって、太陽電池モジュールの長寿命設計が設置地域や設置形態を考慮した形で対応可能となりました。長寿命で生涯発電量が多い太陽電池モジュールの普及は、カーボンニュートラル社会における再生可能エネルギーの主力電源化と将来のモジュール廃棄量の低減に貢献します。
<詳細情報>【共同研究】結晶シリコン太陽電池モジュールの発電量向上技術の開発(2020~2023年度)
主な研究成果
- シリコン基板サイズのガラス基板(16cm角)にペロブスカイトを成膜し、結晶化する技術を開発しました。
- 結晶シリコン太陽電池のフィルムモジュール(軽量・フレキシブル)の高温高湿ストレス加速試験を実施し、フィルムモジュールの湿熱耐性を明らかにしました。
- 熱回収型太陽電池の理論に基づき設計、試作した太陽光-熱電ハイブリッド素子の開放電圧と最大出力が温度とともに上昇し、正の温度特性を示すことを明らかにしました。
- 京セラ株式会社との共同研究において結晶シリコン太陽電池の寿命評価技術を開発し、寿命予測技術を体系化しました。
主な研究設備
太陽光パネル用ソーラーシミュレータ
各種太陽電池モジュールの電流-電圧特性を測定します。
荷重試験装置
屋外へ設置したときと同じ風荷重を太陽光パネルへ印加し、パネルの強度特性を調べます。
大型真空ラミネーター
フィルム、封止材、バックシートなどの部材と太陽電池セルをラミネート加工し、軽量・フレキシブルモジュールを作製します。
ペロブスカイト太陽電池作製用グローブボックス
小サイズのペロブスカイト太陽電池の作製に使用しています。
スピンエッチング装置
基板を回転させながら片面をエッチングする装置です。保護膜なしで片面のみをエッチングできます。
熱拡散装置
高温の炉内でリンやボロンを基板へ拡散させてp/n接合を形成します。一度に複数枚の基板を処理できます。
イオン注入装置
リンやホウ素のイオンを加速して基板に打ち込むための装置です。精密な拡散の制御が可能です。
電極焼成炉
電極に用いる銀ペーストと拡散層とのコンタクトやアルミBSF層を形成するための装置です。
メンバー
※2024年10月1日時点
役職 |
氏名 |
|
研究チーム長 |
棚橋 克人 |
TANAHASHI Katsuto |
主任研究員 |
望月 敏光 |
MOCHIZUKI Toshimitsu |
主任研究員 |
立花 福久 |
TACHIBANA Tomihisa |
研究チーム付 |
水野 英範 |
MIZUNO Hidenori |
研究チーム付 |
上出 健仁 |
KAMIDE Kenji |