キヤノンアネルバ株式会社(社長:酒井純朗)と独立行政法人 産業技術総合研究所(理事長:野間口有)は共同で、ドライプロセスだけで形成したカドミウム(Cd)を含まないCIGS太陽電池において、従来の手法である部分的にウェットプロセス(溶液成長法)を用いた場合に近い光電変換効率を実現する技術を開発しました。
この技術の特徴は、バッファ層の成膜方法にドライプロセスであるスパッタリングを用いることと、バッファ層材料がZnMgO(酸化亜鉛にマグネシウムを混合した物質)であることです。この技術を用いたCIGS小面積セル(0.5 cm2)において、光電変換効率16.2%(反射防止膜あり)を達成しました(図.1)。この技術を用いることにより、CIGS太陽電池から有害物質であるカドミウム(Cd)を排除できるばかりではなく、オールドライプロセスでの高効率CIGS太陽電池製造の実現が期待されます。
なお、この技術については2013年3月27~30日に神奈川工科大学(神奈川県厚木市)で開催される第60回応用物理学会春季学術講演会で発表する予定です。
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図.1 ドライプロセスであるスパッタリングによりバッファ層を形成したCIGS小面積セル(左)と太陽電池特性 |
CIGS太陽電池は、光電変換効率が高い、経年劣化が少なく長期信頼性に優れるといった特徴を持つ高性能な薄膜太陽電池のひとつであり、近年多くのメーカーによって量産化が進められています。太陽電池にはバッファ層と呼ばれる層があります。このバッファ層は太陽電池の性能を決めるpn接合の形成を担っており、CIGS太陽電池の高効率化のキーポイントの一つです。現在量産されているCIGS太陽電池では、光吸収層のCIGSはドライプロセスである多元蒸着法やスパッタリング+セレン化法といった方法で形成されているのに対して、バッファ層はウエットプロセスである溶液成長法(CBD法)により形成された硫化カドミウム(CdS)が多く用いられています。しかし、CdSは有害物質であるカドミウムを含んでおり、環境負荷低減のためにバッファ層のCdフリー化が求められています。また、ドライプロセスによるバッファ層形成の研究開発も進められており、CIGS太陽電池の量産工程に検討が行われてきましたが、大規模な量産化に成功した例はこれまでにありません。
CIGS太陽電池におけるバッファ層のCdフリー化については、多くの研究開発が進められています。溶液成長法を用いたものでは、硫化酸化亜鉛(ZnO,S)、硫化インジウム(InS3)をバッファ層として、CdSに近い光電変換効率が報告されています。Cdを含まないバッファ層で高い光電変換効率を達成した例はいくつか報告されていますが、CIGS上にバッファ層をドライプロセスであるスパッタリングで形成したものでは高い光電変換効率は達成されていません。量産に適したスパッタリングによってバッファ層を形成することができれば、オールドライプロセスによるCIGS太陽電池の製造が可能となり、工程簡略化によるコスト削減が期待されます。
そこで、キヤノンアネルバと産業技術総合研究所は共同で、CIGS太陽電池のバッファ層にCdを含まず、スパッタリングのみによって形成する技術の確立を目指しました。
今回、キヤノンアネルバの持つ高度なスパッタリング成膜技術、および産業技術総合研究所太陽光発電工学研究センター(近藤 道雄 研究センター長、研究担当者 仁木 栄 副研究センター長、産業プロセス・高効率化チーム 柴田 肇 研究チーム長)の持つ高度なCIGS太陽電池作製技術を組み合わせて、研究開発を進めました。
図.2に示すとおり、多元蒸着三段階法により形成したCIGSを用いて、従来技術である溶液成長法により形成したCdSをバッファ層とした小面積CIGSセルを作製しました。このセルを比較対象として、バッファ層のみをスパッタリングにより形成したZnMgOに置き換え、その組成と成膜条件の最適化を進めました。その結果、図.3に示すとおり、スパッタリングのみでバッファ層を形成した太陽電池において、光電変換効率16.2%を達成しました。この結果は、従来技術を用いてバッファ層を形成した太陽電池の光電変換効率17.5%に近づく値です。
このように、Cdフリーのオールドライプロセスによっても高い光電変換効率を持つCIGS太陽電池を実現できることがわかりました。
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図.2 評価を行ったCIGS太陽電池のセル構成 |
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図.3 ドライプロセスであるスパッタリングにより形成したZnMgOバッファ層のCIGS太陽電池特性 (反射防止膜あり) |
今後はオールドライプロセスでのさらなる光電変換効率の向上を目指すとともに、大面積基板への適用や、装置の事業化に向けた開発を進めていきます。