独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 野間口 有】(以下「産総研」という)太陽光発電工学研究センター【研究センター長 近藤 道雄】仁木 栄 副研究センター長、先端産業プロセス・高効率化チーム 石塚 尚吾 主任研究員らは、株式会社 富士フイルム【代表取締役 古森重隆】(以下「富士フイルム」という)と共同で、ステンレス箔を基板とした高効率な集積型構造のフレキシブルCIGS太陽電池サブモジュールを開発した。
軽量でフレキシブルな太陽電池は、太陽光発電普及促進の一つの鍵として注目されている。今回、金属箔基板に対する絶縁層の形成技術の開発や、CIGS層に対するアルカリ添加制御技術の改良を行い、光電変換効率15%に達するフレキシブルCIGS太陽電池の開発に成功した。汎用性の高い低コスト材料を基板に用いた高性能太陽電池の実現により、さらなる応用範囲の拡大が期待される。
この成果の詳細は、2011年6月19日~24日(現地時間)に米国シアトルで開催される第37回米国電気電子学会太陽光発電専門家会議(37th IEEE-PVSC)で発表される。
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ステンレス基板の集積型フレキシブルCIGS太陽電池サブモジュール(10 cm×10 cm)
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深刻化する環境問題やエネルギー政策の見直しの必要性などから、太陽光発電をはじめとする新エネルギーへの期待と関心はますます高まっている。CIGS太陽電池は、光電変換効率が高い、経年劣化がなく長期信頼性に優れる、といった特長を持ち、低コスト化も期待できる高性能な薄膜型太陽電池の1つであり、軽くて曲げることもできるフレキシブル太陽電池も製作できる。これまでフレキシブル太陽電池の用途は、耐荷重制限のある場所や曲面への設置、モバイル用電源などが考えられてきた。もし高性能なフレキシブル太陽電池が実現すれば、今後は車載用など、より身近な環境での利用に加えて、従来の太陽電池を置き換えることや、宇宙用や太陽光発電所用などの新しい用途が生まれる可能性もあり、さらなる応用範囲の拡大も期待できる。
産総研では、太陽光発電のさらなる普及拡大と持続可能な社会の実現に向け、各種太陽電池の高性能化・高機能化技術や評価技術の開発に取り組んでいるが、その一環として、企業や大学と連携したCIGS太陽電池の研究開発を進めている。現在市販されているパネル型CIGS太陽電池モジュールは、1枚のガラス基板上に複数の太陽電池が直列に接続された集積型構造になっている(図1)。これまで、フレキシブル型のCIGS太陽電池モジュールでは難しかった集積型構造の形成や、高効率化のための高精度なアルカリ添加制御などに取り組み、高い光電変換効率を実現してきた(2010年2月25日産総研プレスリリース)。今回、産総研は富士フイルムとの共同研究により、これまでに培った技術をさらに発展させて、大面積材料が安価に得られるステンレス箔を基板に用いた高性能な集積型フレキシブルCIGS太陽電池モジュールの実現に挑んだ。
なお、この研究は、独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が実施している「太陽光発電システム次世代高性能技術の開発」(委託期間 平成25年2月まで)の補助を受けている。
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図1 集積型CIGS太陽電池の断面構造の概略
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産総研では、極薄ケイ酸塩ガラス層を基板表面に形成することでアルカリ効果による性能向上を実現するなどの技術を駆使して、高性能なフレキシブルCIGS太陽電池を開発してきた。
これまでチタン箔やモリブデン箔、セラミックスシートをフレキシブルCIGS太陽電池の基板材料とした研究が行われてきた。しかし、実用化には大面積材料の供給やコストに問題があった。そのため、今回は、フレキシブル基板としてより安価なステンレスの金属箔を採用した。金属基板の場合は、その成分が太陽電池の高温成膜時にCIGS層に拡散する問題がある。さらに集積型にするためには電気的な絶縁層を形成する必要がある。今回は、ステンレス箔の上にまずアルミニウム層を形成し、表面を陽極酸化法によって酸化アルミニウムへと変化させた。この酸化アルミニウムの層は、電気的な絶縁層であるとともに、金属基板成分のCIGS層への拡散を妨げる障壁層としても働いている。図2に、今回のCIGS太陽電池で利用したフレキシブル基板断面の模式図を示す。このフレキシブル基板は、富士フイルムによって試作されたものである。
CIGS太陽電池では、ナトリウム(Na)などのアルカリ金属を添加することで高い光電変換効率が得られるアルカリ効果と呼ばれる性能向上効果が知られている。アルカリ効果はソーダ石灰ガラスを基板に用いる場合は自然に実現するが、フレキシブル基板などの場合にはアルカリ効果を得るために高精度なアルカリ制御技術が必要となる。これまでの技術を応用し、酸化アルミニウム層の上に、厚さを制御した極薄のケイ酸塩ガラス層を形成することで、高精度に制御されたアルカリ添加を行いアルカリ効果による高性能化を実現した。
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図2 今回のCIGS太陽電池で利用したフレキシブル基板の断面模式図
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図3に今回作製したサブモジュールの太陽電池特性を自主測定した結果を、また図4にサブモジュールの外観を示す。1枚の基板上に16個の細長い短冊状の太陽電池が直列接続された集積型フレキシブルCIGS太陽電池サブモジュールで、図3に示すように、開放電圧(Voc)10.54 V、短絡電流密度(Jsc)33.39 mA/cm2、曲線因子(FF)0.683、光電変換効率(η)15.0%という結果を得た。この性能は、従来の(フレキシブルではない)CIGS太陽電池と比較しても大きな遜色がなくフレキシブル太陽電池サブモジュールとして極めて高性能である。これにより高性能と軽くて曲げられるという機能性を併せもった低コスト太陽電池が実現し、新しい用途の開拓が期待される。
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図3 集積型フレキシブルCIGS太陽電池サブモジュールの効率測定結果
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図4 ステンレス基板の集積型フレキシブルCIGS太陽電池サブモジュール(10 cm×10 cm)
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今後は企業各社との連携によって、さらなる大面積基板への応用や、より低コストで高性能な集積型フレキシブルCIGS太陽電池モジュールの実現とその生産技術の開発など事業化に向けた研究開発を進めていく。