独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 野間口 有】(以下「産総研」という)太陽光発電研究センター【研究センター長 近藤 道雄】化合物薄膜チーム 仁木 栄 研究チーム長(兼 副研究センター長)、石塚 尚吾 研究員らは、太陽電池材料の一つであるCIGS薄膜を用い、太陽電池表面に金属導線のない集積型構造のフレキシブル太陽電池サブモジュールで世界最高となる光電変換効率15.9%(受光面積75.7cm2)を達成した。
軽く、曲げることも可能なフレキシブル太陽電池は、従来の太陽電池では導入が困難だった場所への設置も可能になるなど応用拡大が期待できるため、太陽光発電普及促進の一つの鍵として注目されている。しかし、集積型構造のフレキシブル太陽電池モジュールで10%以上の光電変換効率を得るのは極めて難しかった。今回、高精度なアルカリ添加制御や集積化のための技術課題に取り組み、実用レベルのサブモジュールサイズ基板を用いて、集積型フレキシブルCIGS太陽電池の光電変換効率を飛躍的に向上させることに成功した。
本成果は、2010年3月17日~20日に東海大学湘南キャンパスで開催される第57回応用物理学関係連合講演会、および6月20日~25日に米国ハワイ州で開催される第35回IEEE太陽光発電専門家会議(35th IEEE Photovoltaic Specialists Conference)で発表される。
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集積型フレキシブルCIGS太陽電池と、その電力で発光するLED
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近年、世界的に太陽光発電に対する関心が高まっており、現在主流である結晶系シリコン太陽電池以外にもさまざまな種類の太陽電池が市場に登場するようになってきた。中でもCIGS太陽電池は、光電変換効率が高い、経年劣化がなく長期信頼性に優れる、黒一色の色彩、といった特長を持ち、低コスト化も期待できる薄膜型太陽電池の一つである。また、エネルギーペイバックタイムはおよそ1年と従来の多結晶シリコン太陽電池の約半分程度である。薄膜型太陽電池の特長を活かした、軽く、曲げることも可能なフレキシブル太陽電池は、従来の太陽電池では導入が困難だった耐荷重制限のある場所や曲面への設置が可能になるだけでなく、モバイル用電源としての応用も期待できるため、その高性能型製品の登場が待たれている。特にCIGS太陽電池は薄膜型太陽電池の中で最も高い変換効率が得られていることから、高性能なフレキシブルCIGS太陽電池モジュールの実現が切望されている。
産総研では、太陽光発電のさらなる普及拡大と持続可能な社会の実現に向け、各種太陽電池の高性能化・高機能化技術や評価技術の開発に取り組んでいる。太陽光発電研究センター化合物薄膜チームは、各種太陽電池のうちCIGS薄膜を用いた太陽電池を担当し、大学や企業との連携により研究開発を進めている。
現在市販されているパネル型CIGS太陽電池モジュールは、1枚のガラス基板上に複数の太陽電池が直列に接続された集積型構造になっている(図1左)。一方、フレキシブル型のCIGS太陽電池モジュールでは、これまで金属箔などの基板1枚に一つの太陽電池(単セル)が作製され、複数の太陽電池を導線でつないだグリッド電極型の構造となっている(図1右)。これは、フレキシブル基板上では集積型構造の形成が難しく、また高効率化に必要な、高精度なアルカリ添加制御などの課題があり、高い光電変換効率が実現できていないためである。なお、GaAs(ガリウムヒ素)やシリコンなどの結晶系材料を用いたフレキシブル太陽電池もグリッド電極型の構造となっている。
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図1 集積型(左)およびグリッド電極型(右)モジュールの外観と断面構造の概略図 |
集積型構造では、太陽電池表面のグリッド電極や導線が不要で、1枚の太陽電池でも高い電圧を得ることができる。高効率な集積型フレキシブル太陽電池が実現すれば、搭載製品のデザイン自由度の向上や施工の簡易化などの利点により、応用範囲の拡大も期待される。そのため、産総研では、これまでに培った技術を応用しさらに発展させることで、これまでにない高性能な集積型フレキシブルCIGS太陽電池モジュールの実現に挑んだ。
なお、本研究成果は独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構 委託事業 太陽光発電システム未来技術研究開発「CIGS太陽電池の高性能化技術の研究開発(平成18~21年度)」の結果、得られたものである。
これまで、産総研ではレーザースクライビングやメカニカルスクライビングといった、CIGS層などを数十マイクロメートル幅で切り分ける集積化プロセス技術を開発し、ガラス基板を用いた世界最高レベルの高効率集積型サブモジュールを実現している。これらの技術をフレキシブル基板に特化させて開発をさらに進め、今回、フレキシブルなセラミック基板を用いたCIGS太陽電池の集積化に成功した。
また、CIGS太陽電池では、Na(ナトリウム)などのアルカリ金属を添加することで高い光電変換効率が得られるアルカリ効果と呼ばれる性能向上効果が知られている。パネル型モジュールで用いられるソーダ石灰ガラス以外の基板を用いる場合には、このアルカリ効果を得るために高精度なアルカリ制御技術が必要となる。産総研では、安定なアルカリ供給源としてケイ酸塩ガラス層を基板に形成し、その形成条件を変えることでCIGS層へのアルカリ添加量を制御する手法を確立させている。この手法をサブモジュールサイズのフレキシブル基板に応用して太陽電池を開発した。
今回のCIGS太陽電池は、フレキシブルなセラミック基板を用い、0.1µmの極薄ケイ酸塩ガラス層を基板表面に形成することでアルカリ効果による性能向上を実現し、その上にモリブデンの裏面電極層を形成した。発電層であるCIGS薄膜の厚さは約2µmで、蒸着法で形成した。図2には今回作製したサブモジュールの太陽電池特性を示す。1枚の基板上に17個の単セルが直列接続された集積型フレキシブルCIGS太陽電池サブモジュールで光電変換効率15.9%(開放電圧11.59V、短絡電流148.8mA、曲線因子69.9%)を達成している。
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図2 セラミック基板(300µm厚)を用いて作製した17セル集積型フレキシブルCIGS太陽電池サブモジュールの効率測定結果( 補足資料)
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図3に、今回開発した集積型フレキシブルCIGS太陽電池サブモジュールの外観と、サブモジュールから切り出して作製した長さ10cm、幅2cmの短冊状CIGS太陽電池モジュールに蛍光灯の光を当てて発電させ、LEDを発光させている例をそれぞれ示す。
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図3 (左)10×10cm2サイズで100µm厚のセラミック基板を用いて作製した集積型サブモジュールの外観
(右)同サイズで300µm厚基板のサブモジュールから切り出して作製したフレキシブル太陽電池モジュールと、その電力で発光するLED
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1枚のCIGS太陽電池から得られる電圧は、グリッド電極型では一つの太陽電池分に相当する1V以下であるが、集積型構造にして直列接続することにより、集積化された太陽電池の個数分となり10V以上の電圧も可能となる。そのため、高い動作電圧を必要とするデバイスでも1枚の太陽電池による動作が可能となる。また、この集積型太陽電池モジュールは受光面に部分的に影ができても機能する。
今回の集積型フレキシブルCIGS太陽電池サブモジュールを高効率化するために開発された要素技術は、基本的にさまざまな種類の基板材料にも応用可能である。今後は企業各社との連携によって、更なる大面積基板への応用や、より低コストで高性能な集積型フレキシブルCIGS太陽電池モジュールの実現とその事業化に向けた研究開発を進めていく。
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プレスリリース修正情報
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修正箇所
1,「概要」中の(認証効率)の記述及び用語説明の削除(2010年4月15日 10:00)
2,「研究の内容」中の図2のキャプションの「認証効率測定結果」を「効率測定結果」に修正(2010年4月15日 10:00)