独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)先進製造プロセス研究部門【研究部門長 三留 秀人】センサインテグレーション研究グループの伊豆 典哉 研究員および松原 一郎 研究グループ長は、ガスセンサ、UVカット化粧品などの様々な応用が考えられる、粒子の大きさがそろっている(粒度分布が狭い)球状の酸化セリウム/ポリマーハイブリッドナノ粒子の分散液を開発した。セリウムの金属塩および有機ポリマーのみを有機溶媒に溶かした均一溶液を20分間加熱するだけで、析出した酸化セリウム一次粒子が球状に集合し、その周りを有機ポリマーが被覆した構造を持つナノ粒子が溶液中に自己組織的に生成し、前述の分散液を作製することができた。この分散液に含まれるナノ粒子は、乾燥させても水系及び非水系溶媒への再分散が非常に容易で、また、粒子の高濃度分散液を調製可能である。このナノ粒子の平均粒径は作製時に添加するポリマーの分子量を変化させることで50から120nmの範囲で制御可能であり、粒度分布は単分散に近い。また乾燥させて得られる集積体は、紫外可視分光測定においてナノ粒子配列の周期性に起因すると考えられる反射ピークが330nmに観察されたため、フォトニック結晶として機能する可能性が示された。
図1 酸化セリウム/ポリマーハイブリッド球状ナノ粒子の走査電子顕微鏡(SEM)像。球状で粒度分布が狭い。
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図2 酸化セリウム/ポリマーハイブリッド球状ナノ粒子の透過電子顕微鏡(TEM)像。黒い部分が酸化セリウム(CeO2)の一次粒子の集合部分。その表面にある灰色部分は添加したポリマー。
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金属酸化物微粒子の分散液は科学的、技術的に興味が持たれている。例えば、誘電デバイスを作製するための誘電材料となる金属酸化物微粒子の分散液、シリカなどの球状微粒子のコロイド結晶を作製するためのシリカ微粒子の分散液、化学的機械研磨(CMP)に用いる酸化セリウム微粒子の分散液など、広い分野で応用されている。
金属酸化物の中でも酸化セリウムは種々の優れた機能(高い酸素貯蔵能、高い酸化物イオンの拡散係数、高い屈折率、高い紫外線遮蔽効果など)を有するため、CMP用途以外にも種々の用途がある。例えば、自動車の三元触媒用助触媒、抵抗型酸素センサ、酸素イオン伝導体などの用途を目指して研究開発が進められ、一部実用化されている。特に、コロイド結晶やガスセンサ応用には、単分散でナノレベルでの粒径や粒子形状が制御された分散液の製造が望まれていた。均一沈殿法等により球状酸化セリウムナノ粒子は既に合成されているが、凝集等の問題が解決されていないため、これらの高分散液はまだ得られていなかった。
産総研では、これまで、酸化スズ、酸化セリウムなどの酸化物ナノ粒子の合成に取り組んできており、種々の合成手法を開発してきた。例えば、沈殿法で得られる沈殿物にカーボンブラック粉末を混合し焼成するという手法を開発し、簡便に数十ナノメートルの酸化物ナノ粒子が得られることを見出してきた。また、ナノ粒子は種々の溶媒などに分散して原料とすることも多いことから、ナノ粒子の分散・凝集などの研究にも取り組んできている。今回このようなポテンシャルを活かして、粒度分布が狭く、ナノメートルレベルで粒径や粒子形状が制御された球状の酸化セリウムナノ粒子分散液の開発を行った。
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図3 高分子が表面被覆した酸化セリウム球状ナノ粒子の乾燥粉末を水に再分散した後、1日放置後の水中での粒度分布測定結果。
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酸化セリウム/ポリマーハイブリッドナノ粒子の分散液は、セリウムの金属塩および有機ポリマーのみを有機溶媒に溶かした均一溶液を20分間加熱するだけで得られた。分散液中のナノ粒子は図2に示すように、5nm以下の酸化セリウム一次粒子が集合した球状の二次粒子であり、その粒子表面をポリマーが被覆したハイブリッド粒子となっている。酸化セリウムの球状ナノ粒子表面を被覆しているポリマーは酸化セリウムと強固に付着していた。このようなハイブリッド粒子は、加熱時に自己組織的に形成した。粒径の
変動係数(CV)は約0.1から0.15であり、狭い粒度分布を示した。このような単分散酸化物球状粒子分散液はこれまでシリカでのみ得られていたが、今回の成果により、材料の選択肢が増えた。
従来、溶液プロセスによる酸化物粒子の調製においては、原料濃度などを変化させて粒径を制御することが一般的であったが、今回、合成時に添加する有機ポリマーの分子量を変化させることで粒径の制御が可能となり、分子量を大きくすることで粒径を小さくできた。
このナノ粒子を乾燥させたあと、新たに分散剤を加えなくても、水や有機溶媒への再分散が可能となった。これはナノ粒子表面が溶媒と親和性の高いポリマーで強固に被覆されているためと考えられる。動的光散乱法により求めた水に再分散後の分散液中での平均粒径は約120nmであり(図3)、SEM像の解析結果から求められた乾燥状態での球状ナノ粒子の粒径とほぼ一致した。このことから、水中で球状ナノ粒子が完全に分散していることが確認できた。有機溶媒に再分散させた分散液は、1ヶ月以上経っても、ナノ粒子の沈降により生じる上澄み層および沈殿層がほとんど観察されず、非常に安定であった。さらに、再分散性を利用することで、50wt%以上の含有量を有する高濃度ペーストを調整できた。
得られたナノ粒子を水、エタノールなどの各種溶媒に再分散したのち、乾燥するとコロイド結晶が生成した(図4)。酸化セリウムは一般に知られているコロイド結晶用球状粒子であるシリカやポリマーよりも屈折率が高いため、フォトニック結晶の高機能化が期待されている。紫外可視光の反射スペクトルを測定したところ、ナノ粒子の周期性に起因すると考えられる反射ピークが330nmに観察された。反射ピークの波長は粒径および酸化セリウムの屈折率から計算される値とほぼ一致することからこのナノ粒子のコロイド結晶が高機能なフォトニック結晶として機能する可能性が示された。
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図4 高分子が表面被覆した酸化セリウム球状/ポリマーハイブリッドナノ粒子を水に再分散した後、乾燥して得られたコロイド結晶。 |
ナノ粒子の単分散性の向上や、更に粒径の小さいナノ粒子作製を目指すと共に、ナノ粒子の生成メカニズムの解明にも取り組む。今回の製造方法は、溶液を原料とするシンプルなプロセスであり、量産化が期待できる。また、酸化セリウムナノ粒子を被覆しているポリマー種を変化させることも可能である。これらの特徴を生かし、ガスセンサを始めとする様々な分野への応用を視野に入れた研究を進める。
なお、開発したナノ粒子またはその分散液などの試料は、産総研の産学官連携制度に基づき提供可能である。