独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)知能システム研究部門【部門長 平井 成興】ヒューマノイド研究グループの研究成果を活用して事業を行っている産総研認定ベンチャー企業、ゼネラルロボティックス株式会社【代表取締役社長 川田 忠裕】(以下「GRX」という)と株式会社ムービングアイ【代表取締役 武田 純】(以下「ME」という)は、有限会社ピルクス・ロボティクス【CEO 岡田 昇一】(以下「ピルクス」という)、株式会社大日本技研【代表取締役 田中 誠二】(以下「大日本技研」という)と共同で、小型ヒューマノイドロボット「HRP-2m Choromet」(以下、「チョロメテ」という)を開発しました。
チョロメテは、高さ35cm,重量1.5kgで、20自由度を有しています。足部に3軸力センサ、胴体部に加速度センサ・ジャイロ,コントローラとしては産総研で開発した実時間Linux(ARTLinux)が稼動する小型省電力コントローラを搭載しています。また、同様に産総研で開発したヒューマノイドロボット基盤ソフトウェアがこの上で稼動します。小型省電力コントローラおよびARTLinuxについてはMEが、ヒューマノイドロボット基盤ソフトウェアについてはGRXが既に事業化を行ってきているところですが、チョロメテはこれら2つの技術を組み合わせて実現されたものです。以上の特徴から、チョロメテはヒューマノイドロボットの運動生成・制御を題材としたソフトウェアの教育・研究用として利用されることが期待されます。
今回の開発は、産総研の技術移転を受けた複数のベンチャー企業などが共同で実施したもので、産総研がイノベーションハブとしての機能を発揮した好例であると考えています。
近年、本田技研工業株式会社のASIMOを始めとしてヒューマノイドロボットの開発が盛んに行われています。その中でも、小型ヒューマノイドロボットは主としてホビー用途のものが多く開発され、数千台の販売実績のあるものも出現してきています。しかしながら、これらのホビー用途の小型ヒューマノイドロボットは直接教示やGUIにより動作が作られ、ソフトウェアによりプログラム可能なものはほとんどなく、教育・研究用途には適さないのが現状でした。
産総研は、これまでヒューマノイドロボットHRP-2プロメテ、ソフトウェアプラットフォームOpenHRPなどのヒューマノイドロボット基盤技術の開発を行ってきました。一方で、ユーザ空間で実時間処理を実現したARTLinux(開発者:石綿陽一,現ME取締役)やこれを搭載した小型省電力コントローラの開発を行ってきています。これらの研究成果は、それぞれ産総研認定ベンチャー企業であるGRXとMEにより事業化されています。
HRP-2プロメテは研究開発プラットフォームとして大学等の研究開発機関で利用されていますが単価が数千万円と高額である点が普及の妨げとなっていました。今回の開発は、安価なロボットでOpenHRPやARTLinuxという高度な研究成果の利用を可能とすることを目的に行いました。
チョロメテは、小型で安価であることを目指して開発を行いました。このため、モータとしては、小型ホビーロボット用サーボモータを採用しました。また、リンク機構は板金により製作可能なものとしましたが、可能な限り関節軸にオフセットがないように設計しました。実現した機体の剛性としては、ヒューマノイドロボット用に生成された動作パターンの有効性を検証できるレベルを達成しています。以上の部分については、これまでにも小型2足歩行ロボット等の開発実績があり、機械リンクの設計を得意とするピルクス(担当者:Jin Sato,佐藤仁)が担当しました。
コントローラは産総研が開発した小型省電力コントローラ(SH-4 240MHz, 32M,名刺大)に新たにシリアルインターフェイスを追加し、サーボモータやセンサとの入出力を行っています。以上の部分については、ARTLinuxを事業化しているMEが担当しました。
このコントローラ上に、ヒューマノイドロボットソフトウェアプラットフォームOpenHRPの一部の機能を搭載し、2足歩行、起き上がり等の動作を実現しました。ZMPを考慮した動作パターンの生成、センサフィードバック制御により、既存のホビーロボットに比べると相対的に小さな足底で2足歩行が実現されているのが特徴です。以上の部分については、GRXが担当しました。
ロボットの外装については、関節の可動範囲を狭めないこと、可能な限り安全性を実現すること、HRP-2プロメテに近いことを目標に設計を行いました。全体のデザインについては、HRP-2プロメテのデザインを担当した出渕裕氏が監修を行いました。以上の部分については、プラスティックモデルやロボット外装の開発等を行っている大日本技研が担当しました。
全体として、チョロメテは実時間LinuxというオープンソースOS上で、ソフトウェアにより動作プログラムが可能で、ヒューマノイドロボットの動作パターンの有効性が検証可能なレベルのプラットフォームとなりました。
今回の試作機を用いた検証実験を行い、機械剛性の評価、最低限必要なセンサの選定、必要な改良等を行い、低価格の教育・研究用プラットフォームとして販売していくことを計画しています。併せて、チョロメテ用シミュレータの開発、教育用コンテンツの開発を行う計画です。
なお、試作機は日本機械学会ロボティクス・メカトロニクス講演会2006(5月27日~28日,早稲田大学理工学部大久保キャンパス)において展示される予定です。