独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)知能システム研究部門【部門長 平井 成興】ヒューマノイド研究グループ(グループ長 比留川 博久)、自律行動制御研究グループ(日仏ロボット工学共同研究ラボラトリー 横井 一仁・A. Kheddar コ・ディレクタ)、3次元視覚研究グループ(グループ長 富田 文明)、情報技術研究部門【部門長 坂上 勝彦】メディアインタラクショングループ(グループ長 浅野 太)、デジタルヒューマン研究センター【センター長 金出 武雄】ヒューマノイドインタラクションチーム(チーム長 加賀美 聡)は、生活環境内で人間の生活活動を支援するために、知覚機能と行動機能を拡張したヒューマノイドロボットプラットホームを開発しました。
具体的には、ヒューマノイドロボットHRP-2プロメテ(以下、「HRP-2」という)に高速度・高精度のカメラシステムを搭載することで、人間の眼のように作業する環境や対象物を立体的にとらえて知覚する視覚システムの機能および精度を向上し、レーザー距離センサを搭載して歩き回ることで、部屋の地図を作成したり、作成した地図から自分の位置を認識し、ステレオカメラから得られる距離情報を利用して三次元的な障害物を発見することが可能になりました。(写真1)また、複数のマイクロホンを用いて人間の音声と雑音を分離・除去する音声インターフェースによる安定した聴覚機能を付加しました。(写真2)さらに、ロボットの自律動作を対話的に教示するシステムを開発し、視覚システムの認識に誤りが生じた場合にも、容易に中断、修正動作を与えることが可能になり、冷蔵庫の中から物を取り出し、指定された場所まで運ぶといった運搬動作が可能になりました。(写真3,4) これらの技術により、人間と対話しながら生活活動を支援し、動的に変化する生活環境でも臨機応変に動き、頼まれたものを自分で判断し、取ってくるような動作が可能になると期待されます。
本研究は、産総研のプロジェクト「ヒューマノイドロボット型知能ブースタープラットホーム開発(2003~2005年度)」の一環として実施されました。
写真1 レーザー距離センサにより作成された地図
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写真2 対話によるテレビの制御
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写真3 椅子を片付けている様子 |
写真4 冷蔵庫から飲み物を取り出す様子
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1996年に本田技研工業株式会社がヒューマノイドロボットP2を発表して以来、日本をはじめ全世界でヒューマノイドロボットの研究開発が盛んに行われており、2025年には、家庭における家事支援や高齢者の自立支援、介助・介護等の生活環境において人間を支援するロボットの実用化が期待されています。
生活環境において人間と自然なコミュニケーションをとりながら協調して、生活活動支援する次世代ロボットを実現するために、ロボットを安全・安定に動作させる技術、人間の目のように物を立体的に知覚するロボットビジョン、人間とロボットの自然な対話を実現するための音声インターフェースに関する研究開発が進められています。
産総研では、高性能化する情報通信環境を活用して、必要とする情報・知識を誰もが自在に創造、流通、共有できる、高度で安全な情報通信社会の実現を目指しています。そのなかでも、機械と人間の自然なコミュニケーションを実現するヒューマンインターフェース技術開発は重要推進テーマのひとつであり、家庭をはじめ実際のさまざまな環境において人間と安全に協調活動を行うことができるヒューマノイドロボットは、ヒューマンインターフェース技術のひとつといえます。そこで、産総研では2003年度から「ヒューマノイドロボット型知能ブースタープラットホーム開発」プロジェクトを開始し、さまざまな環境下で安全・安定に動作し、人間との自然なコミュニケーションが可能なヒューマノイドロボットの開発をすすめていますが、本研究はこの研究プロジェクトの一環として実施されました。
近い将来、人間の生活活動を支援して働く次世代ロボットには、生活雑音下でも人間と音声を使って対話できる機能、周囲の環境を的確に知覚し認識する機能、そしてそれらの知覚した結果に応じて臨機応変に動作する機能が重要です。本研究では、それらの機能をHRP-2に組み込むことで、人間の生活活動支援を行うヒューマノイドロボットプラットホームとしたものです。具体的には、従来のHRP-2に対して以下のような機能拡張をおこないました。
- ロボットの眼として高機能3次元視覚システムVVVを搭載し、頭部のカメラを4台の高精度カラーカメラに交換することで、人間のように作業する環境や対象物を立体的に知覚する機能と精度の向上と同時に広い視野での撮像が可能になりました。
- 頭部にレーザー距離センサを搭載し、ロボットが動きながら二次元の地図を作成し、自分の位置を認識するシステムを開発しました。認識した位置とステレオカメラにより得られた周囲の物体までの距離を重ね合わせることにより、障害物を認識したり避けたりすることが可能になりました。(写真1)
- 頭部にマイクロホンアレイを用いた音声インターフェースを搭載し、専用のハードウェアを開発することで、生活雑音と人間の声を分離し、安定した音声認識を実現しました。(写真2)
- ロボットが環境内の物体と接触したり、その物体からロボットの動きが制限されたりする動作(冷蔵庫のドアを開ける動作の場合、ロボットの手は環境中にある冷蔵庫と接触した後、冷蔵庫のドアによってロボットの手の動きの円弧状の動きに制限される。)を含めた様々な動作をロボットの自律動作として対話的に教示できるシステムを開発しました。これを用いて、冷蔵庫のドアを開け、中から物を取り出すといった一連の動作を、容易に教示することが可能になりました。(写真3,4)
これらの機能拡張を行うことで、生活環境を理解し、人間と対話しながら人間の生活活動を支援し、その中で臨機応変に動作するヒューマノイドロボットプラットホームが実現でき、これにより、生活環境下で頼まれたものを自分で判断し、取ってくることが可能になると期待されます。
今回実現したヒューマノイドロボットプラットホームは、次世代ロボットとして期待されているヒューマノイドロボットの一つの形態であり、今後はこれらの技術の機能強化を進め、より多くの生活支援をするヒューマノイドロボットの実用化を目指します。