独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)知能システム研究部門【部門長 平井 成興】3次元視覚システム研究グループ(グループ長 富田 文明、吉見 隆 研究員)は、オオクマ電子株式会社【代表取締役社長 大隈 秀義】(以下「オオクマ電子」という)および株式会社アプライド・ビジョン・システムズ【代表取締役社長 高橋 裕信】(以下「AVS」という)と共同で、産総研が開発した高機能3次元視覚システムを利用した3次元形状計測・物体認識法を用いて、乱雑に置かれた光沢のある医薬品アンプルを高速で認識し、ハンドリングするロボットシステムを開発した。
病院内の薬品棚に整理された医薬品アンプルを自動的に払い出す装置はあるが、納入された医薬品アンプルを薬品棚に整理する作業は人手によって行われており、ヒューマンエラーによる医療事故の一因になっている。本システムの開発により、医療事故の軽減、薬剤師の労働環境改善などの効果が期待される。
なお、本システムは全日本科学機器展in大阪2005(2005年10月19日から21日までインテックス大阪で開催)において、産総研のブースで展示される。
現在、病院においては医師の処方に従って薬剤師が医薬品アンプルの払い出しを行っている。大きな病院では払い出し量も大きいため、薬剤師の負担が大きく、薬剤の種類を間違えるなどのミスが医療事故の約15%を占めている。
このような事故を防ぐためには医薬品アンプル取り扱い作業の自動化が不可欠である。医薬品アンプルなどを対象にバーコード(UCC/EAN-128)の貼り付けが日本医療機器関係団体協議会により決定しており、これによって薬剤の種類を機械的に判別することは可能になるが、バーコードリーダーに運ぶ作業は人間が行わなければならない。人手による作業が必要では、ヒューマンエラーによるミスを完全には防ぐことはできない。
そこで、医薬品アンプルを自動的に認識し、ロボットでハンドリングし、バーコードの情報をもとに正確に自動払い出し薬品棚に格納するシステムが求められていた。
開発における大きな課題は、医薬品アンプルの認識手法にあった。通常、梱包から取り出された医薬品アンプルは乱雑な状態におかれ、しばしば一部が積み重なっている。そのため、単純な二次元の画像処理では認識ができない。また、医薬品アンプルには光沢があるため従来の3次元計測においても認識が難しかった。
オオクマ電子が抱えていたこの課題は、産総研で開発された高機能3次元視覚システムおよび、AVSが開発しているその応用ソフトにより解決が可能であったため、三者は共同研究を行い、今回のシステムを開発した。
積み重なったりさまざまな姿勢をとったりする物体を認識するためには、二次元の画像処理では限界があり、三次元の物体認識が必要になる。しかし、薬品アンプルなどのように光沢のある物体においては、物体表面に正反射によるハレーションが現れるために三次元計測が困難になる。本システムにおいては、高機能3次元視覚システムをベースとしてステレオ相関法を改良し、多眼カメラシステムの画像を使うことで光沢のある対象物体においても測定が可能となった。
今回発表したシステムはプロトタイプであり、今後はこれをベースに実用化システムを2年以内に開発し出荷したい。本システムにより、病院などの薬局における薬品管理の自動化が可能になり、薬品の取り違えによる医療事故を大幅に減らすことが期待できる。