発表・掲載日:2005/07/14

南硫黄島付近 海底火山噴火の衛星画像を公開

産総研、高性能光学センサ(ASTER)衛星画像の解析で海底火山観測に貢献

ポイント

  • 南硫黄島付近福徳岡ノ場で発生した海底火山噴火の衛星画像解析結果を公開
  • 衛星画像を用いることで広範囲に広がる噴火の状況を把握可能

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)地質情報研究部門【部門長 富樫 茂子】は、NASAのTerra衛星に搭載された経済産業省開発の高性能光学センサ(ASTER)を使って、南硫黄島付近の福徳岡ノ場で発生した海底火山の噴火に伴う変色海水と軽石等の漂流物の観測に成功した。

 海底火山の監視は主に海上保安庁や海上自衛隊の航空機によって実施され、噴火地点近傍の状況は把握できるが、今回のように広い範囲の監視は難しい。しかし、ASTERを用いることによって広範囲に広がる噴火の状況を把握できる。

背景・経緯

 産総研は、ASTERを使って世界の火山の観測およびその解析研究を実施しており、その衛星画像をデータベース化して公開している(https://gbank.gsj.jp/vsidb/image/)。また、財団法人 資源・環境観測解析センターは、この観測・解析研究のために、世界の火山のASTER衛星画像取得を定期的に行っている。



研究の内容

 7月2日に南硫黄島付近の福徳岡ノ場で発生した海底火山噴火を観測するため、財団法人 資源・環境観測解析センターは、ASTERの緊急観測を実施し、7月5日に同海底火山付近の幅約60km長さ約180kmの画像を取得した。産総研は、この画像を解析した結果、南硫黄島北東約5kmの海上に直径5km程度の変色海水を確認した。また、その中心付近に直径約1kmのやや濃度の濃い変色海水を確認した。噴火に伴う浮遊物と変色海水は南硫黄島を迂回するように反時計周りに流れ、同島から同島の南南西40kmの範囲に海面に漂う幾つかの筋状の噴出物および変色海水として確認された。

 【図1】に2005年7月5日午前10時11分に観測された南硫黄島を含むASTERの可視近赤外画像を示す。画像右上に見えるのが南硫黄島である。南硫黄島の右上に見える青い部分、および画像中央から下に見える青い部分は変色海水、画像中央から下に見える白い筋は漂流物である。

 今回の結果は、ASTER観測が広範囲に広がる変色海水や漂流物の分布を把握する上で極めて有効な観測手段であることを示している。特に、観測機材の乏しい発展途上国や遠隔地にある海底火山の観測にはきわめて有効である。

2005年7月5日午前10時11分に観測されたASTERの可視近赤外画像
図1 2005年7月5日午前10時11分に観測されたASTERの可視近赤外画像。ASTERのバンド1,2,3から得られた画像をそれぞれ青,緑,赤に割り当てて表示した。植生は赤く、海は黒く見える。変色海水は青く、漂流物は白く見える。 ASTERデータの権利は経済産業省に帰属する。

今後の予定

 産総研は、引き続きASTERによる火山観測およびその解析研究を実施し、財団法人 資源・環境観測解析センターはその衛星画像取得を続ける予定である。



用語の解説

◆ASTER
ASTERは経済産業省が開発し、米国航空宇宙局(NASA)などと協力して1999年12月に打ち上げられたTerra衛星に搭載された地球観測センサ。可視から熱赤外域を合計14バンドで観測可能。雲がある場合は観測不可。緊急観測モードでは,平均4日に1回観測が可能。[参照元へ戻る]
◆変色海水
火山活動に伴って海中に流出する火山発散物中の成分と海水の接触により生じた、ケイ酸・アルミニウム・鉄を含む微細な懸濁浮遊物によって着色された海水。白・黄・緑・褐色・茶褐などの色に変色する。[参照元へ戻る]

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