独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)地質情報研究部門【部門長 富樫 茂子】およびグリッド研究センター【センター長 関口 智嗣】は、NASAのTerra衛星に搭載された経済産業省開発の高性能光学センサ(ASTER)を使って、パキスタン・カシミール地域での地震に伴って発生した、大規模地すべりの観測に成功した。
ASTERには地形・標高を観測する機能(立体視機能)があり、この機能により、今回の地すべり発生後の標高を得ることができた。地すべり発生以前(地震以前)に得られた衛星画像およびその地形と比較することによって、地すべり状況を克明に把握できた。
産総研は、ASTERを使って災害発生地域の観測およびその解析研究を実施しており、その衛星画像の一部をデータベース化して公開している。また、財団法人 資源・環境観測解析センターは、この観測・解析研究のために、ASTER衛星画像取得を定期的に行っている。
10月8日にパキスタン北東部で発生した地震に伴う被害を観測するため、財団法人 資源・環境観測解析センターは、ASTER の緊急観測を実施し、10月11日に同地域の画像を取得した。産総研は、この画像を元に地形データを作成し解析を行った。観測地域は新第三系、第四系の比較的新しい地質からなり、解析の結果、数カ所の地すべりを確認することができた。特に観測地南東部において幅500m、長さ1500mにも及ぶ大規模な地すべりを確認することができた。また、2000年11月14日のASTER衛星画像による地形データと比較した結果、200m以上の落差が認められた。
図に2005年10月11日のASTER衛星画像による地形データと2000年11月14日のASTER衛星画像による地形データを示す。右下の画像の中央に大規模地すべりが確認できる。2000年11月14日に観測された地形データと比較すると、今回の地震によって山頂部分が大きく崩落していることがわかる。
今回の結果は、ASTER観測が大規模な地すべりの形態把握に、迅速かつ極めて有効な観測手段であることを示している。特に、観測機材の乏しい発展途上国や遠隔地の観測にはきわめて有効である。
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図 右上が2000年11月14日に観測されたASTER衛星画像による地形データを3次元表示したもの、右下が2005年10月11日に観測されたASTER衛星画像による地形データを3次元表示したものである。それぞれ南東方向からみたものである。なお、赤色で示されているものは植物である。地震によって、ほぼ山頂から河川をせき止めるほど大規模な地すべりが発生していることが確認できる。(ASTERデータの権利は経済産業省に帰属する。) |
財団法人 資源・環境観測解析センターは衛星画像取得を続け、産総研は、引き続きASTERによる震源周辺の地形データの解析研究を実施していく。