独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)地質情報研究部門【部門長 富樫 茂子】は、NASAのTerra衛星に搭載された経済産業省開発の高性能光学センサ(ASTER)を使って、ガラパゴス諸島(エクアドル共和国)、シエラ・ネグラ火山の噴火に伴って噴出した溶岩分布の解析に成功した。
噴出した溶岩の分布を把握するためには上空からの観測が最適であるが、遠隔地においては航空機による観測が難しく危険も伴う。しかし、衛星観測を用いれば遠隔地においても安全に画像を取得することができる。産総研は、夜間のASTER画像の解析結果から高温状態にある溶岩の分布を検出し、昼間のASTER画像から植生等を検出して、両者を重ね合わせた。これにより、古い溶岩と今回噴出した溶岩を識別するとともに、植生等の被害状況を把握することができた。
産総研は、ASTERを使って世界の火山の観測およびその解析研究を実施しており、衛星画像の解析結果をデータベース化して公開している(https://gbank.gsj.jp/vsidb/image/)。また、財団法人 資源・環境観測解析センターは、資源探査の効率化に資する地質情報を取得するために、ASTERデータの画像処理を行っている。
ガラパゴス諸島は、ダーウィンの進化論を生むきっかけとなった特異な生態系を持ち、その貴重な自然環境により世界遺産にも登録されている。従って、この島の被害状況の把握は極めて重要である。
10月22日にガラパゴス諸島(エクアドル共和国)最大のイザベラ島のシエラ・ネグラ火山(南緯0度50分、西経91度10分、標高1490m)が噴火し、多量の溶岩が噴出した。財団法人 資源・環境観測解析センターは、ASTER を使って、10月30日の昼間と11月2日の夜間にシエラ・ネグラ火山の画像を取得した。 産総研はこの画像を基に、噴出した溶岩の分布と被害状況を解析した。
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【図1】は10月30日に観測されたイザベラ島の可視近赤外 (VNIR)画像に、 11月2日の夜間に得られた熱赤外 (TIR) 画像から求めた地表温度分布の内、20℃以上の地域を重ねたものである。赤い部分は植生で覆われた地域、白い部分は雲、黒や水色の部分は古い溶岩が分布する地域である。画像中央のシエラ・ネグラ火山の山頂に7km×11.5kmのカルデラが見える。地表温度が20℃以上の地域では、緑→黄色→オレンジとなるに従って温度が高い。これらの地域は今回噴出した溶岩の分布域と思われ、カルデラ内の東側とカルデラ外の北側に分布している。地表温度が20℃以上の地域の合計面積は約16.3km2であった。もともと、これらの地域は植生が疎であるうえ、動物も人もいない地域であるため、一部の植生への影響を除き被害は少ないと思われる。 |
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【図2】は【図1】とASTER立体視機能から得られた標高データ(雲で覆われた部分はShuttle Radar Topography Missionからのデータを代用)を組み合わせて衛星画像と温度分布を3次元表示したものである。噴出した溶岩がカルデラ内にたまり、一部が北側からカルデラ外に流出する様子がわかる。 |
産総研は、現地研究機関と連絡を取るとともに、引き続きASTERによる火山観測およびその解析研究を実施し、財団法人 資源・環境観測解析センターはASTERデータの画像処理を続ける予定である。